第二話「白銀の嘘、紅き系譜」
先を急いだくせに、店の外でちゃんとジークフリードを待つリリーを見て、店主は感心したように腕を組んだ。
「へー……あの姉ちゃんが珍しく人と関わってやがらあ……」
店を出たリリーとジークフリードは、肩を並べて城へと歩いていた。
ジークフリードは、リリーと紐かなにかで繋がれているかのように後ろをついて回った。
妙なことになった。そう思いながらも、リリーは悪い気はしなかった。
セイレがいなくなってから家族というものを知らなかったリリーは、ジークフリードの好意を少し心地よく感じていた。
そんなに背が変わらない二人は、はた目には姉弟のように見える。すれ違う人々は、仲睦まじく見える二人を好奇の目で見ていくが、本人達にはあまり気にはならないらしく談笑していた。
だが不意に、ジークフリードは暗い顔を見せた。
「あのさ、ごめん。言っていいのか分からないけど……」
「……どうしたの」
「セイレのこと、残念だったね」
先程からの会話の中で、この少年はリリーの挙動に注意しながら、すべき話の内容をずっと選んでいたのだろうか。ばつが悪そうに、眉が下がる。
「言おうか迷ってたんだけどさ」
「大丈夫。悪魔と戦うって、そういうことだって分かっていたから」
「セイレ、すっごい強かったんだってね。僕はあんまり話したことなかったけど、魔導術使えないのにめちゃくちゃ強いんでしょ」
「そういえば、貴方は魔導術が使えるのね。さすが――」
言いかけて、リリーは口を噤む。
だが、続きを察したジークフリードは、明るく笑ってみせた。
「“ノーブルの皇子ね”って?」
「……いや、その」
「気にしてないからいいよ。自分で聖騎士になったんだし」
ジークフリードは、リリーよりもずっと会話が上手かった。守られて育った皇子にしては、妙によく気がつく人物だとリリーは不思議だった。
彼が何故、皇子でありながら聖騎士になったかは分からないが、何か理由があるのだろう。
「聞きたい事あったら聞いてもいいんだよ?」
「詮索はしたくない。ただ、さっき使ってた魔導術……不思議な感じがしたから」
「精霊に語りかけないと使えないからね。詳しく聞きたい!?」
「いや、私は魔導術が使えないし……いい」
ジークフリードはどこか納得いかないような顔をしていたが、リリーの横顔をちらりと見るとパッと嬉しそうに微笑み、会話を続けた。
「ねえねえ、リリーの目って緑色してるんだね。翡翠っていうのかな」
「それがどうしたの?」
リリーが無関心に尋ね返すと、ジークフリードは少し俯きぽそりと呟いた。
「僕の知り合いと同じ目の色だ」
リリーがジークフリードに顔を向けると、彼は何か懐かしむような表情で見つめ返してきた。
「目だけじゃなくて、色々似てる。顔も似てるかも」
「世界って広いから」
「だね。僕に似てる人もいるかもね!」
そんなことを話しながら歩いていると、彼方に小さく見えていた城が、徐々に大きさを増す。
白亜の城が陽の光に照らされ輝いている。だが、城門にはいつもより多く警備兵が配置されている。
門だけではなく、厚く高い城壁の上にも警備兵がずらりと並んでいる。彼らはいつもなら軽装なのだが、今日は兜まで装着しており、銀に光る頑丈そうな全身鎧を装備していた。手にはさらに、獅子の装飾が施された斧を持っている。
「なにこれすんごい厳重だね」
「要人でも来るんじゃない」
リリーが気にせず歩みはじめると、ジークフリードもすぐに後を追い、横に並んだ。
城門は固く閉ざされている。近づくと、両側に立つ警備兵が互いの斧を重ね、二人の行く手を阻んだ。
「御用件を」
左の兵士が尋ねると、リリーは二の腕の紋章を見せながら答えた。
「聖騎士リリー・ウルビア」
横にいたジークフリードもすぐ後に続き、襟を開き首筋に彫られた紋章を見せ答えた。
「同じく聖騎士ジークフリード・クレイメル」
兜は、兵士の顔を全て覆っているので、表情こそ分からないが、少し驚いた様子で斧を降ろした。
「無礼をお許し下さい。お話は伺っております。どうぞ」
両側の兵士は斧を降ろしすごすごとまた元の立ち位置に下がる。だが、門は閉じたままだった。
いつもならば兵士の合図とともに扉が向こう側に向けて開くはずなのだが、今日は一向に開く気配がない。
「いや、開いてないし」
苛立ったジークフリードが兵士を睨みながらそう言ったが、リリーが何かに気付いたのかそれを制止した。
「待って」
リリーが見つめる先のその巨大な城門に、僅かに変化が現われた。
「開門願う」
銀の鎧を纏った兵士がくぐもった声でそう言うと、閉ざされたままの門はやがてぼんやりとした光を放ち始め、その場に存在することを拒絶するかのように色褪せ、消滅した。
「魔法門だ。なんでリュシアナにこんな高度な魔導術が……」
驚いたジークフリードの疑問に答えるかのように、兵士が言った。
「ノーブル皇国皇帝陛下のご協力によるものです」
ジークフリードの顔が、瞬時に強ばった。
リリーはというと、思わず何かを言い掛けた。しかし、彼の表情の変化を見て取り、口を閉ざした。リリーが横目でジークフリードを見ていると、それに気付いた彼は無理矢理な笑顔を見せた。
門を抜けると、長い階段が姿を見せる。真っ白な階段の両側には、これまた銀の全身鎧と斧を装備した兵士が等間隔に立ち並ぶ。
「ノーブルの魔法門を使うなんて、悪魔対策ね」
なんとなく呟いたリリーの言葉に、ジークフリードは頷いた。
「いくら金を受け取ったんだろうね」
「へー……あの姉ちゃんが珍しく人と関わってやがらあ……」
店を出たリリーとジークフリードは、肩を並べて城へと歩いていた。
ジークフリードは、リリーと紐かなにかで繋がれているかのように後ろをついて回った。
妙なことになった。そう思いながらも、リリーは悪い気はしなかった。
セイレがいなくなってから家族というものを知らなかったリリーは、ジークフリードの好意を少し心地よく感じていた。
そんなに背が変わらない二人は、はた目には姉弟のように見える。すれ違う人々は、仲睦まじく見える二人を好奇の目で見ていくが、本人達にはあまり気にはならないらしく談笑していた。
だが不意に、ジークフリードは暗い顔を見せた。
「あのさ、ごめん。言っていいのか分からないけど……」
「……どうしたの」
「セイレのこと、残念だったね」
先程からの会話の中で、この少年はリリーの挙動に注意しながら、すべき話の内容をずっと選んでいたのだろうか。ばつが悪そうに、眉が下がる。
「言おうか迷ってたんだけどさ」
「大丈夫。悪魔と戦うって、そういうことだって分かっていたから」
「セイレ、すっごい強かったんだってね。僕はあんまり話したことなかったけど、魔導術使えないのにめちゃくちゃ強いんでしょ」
「そういえば、貴方は魔導術が使えるのね。さすが――」
言いかけて、リリーは口を噤む。
だが、続きを察したジークフリードは、明るく笑ってみせた。
「“ノーブルの皇子ね”って?」
「……いや、その」
「気にしてないからいいよ。自分で聖騎士になったんだし」
ジークフリードは、リリーよりもずっと会話が上手かった。守られて育った皇子にしては、妙によく気がつく人物だとリリーは不思議だった。
彼が何故、皇子でありながら聖騎士になったかは分からないが、何か理由があるのだろう。
「聞きたい事あったら聞いてもいいんだよ?」
「詮索はしたくない。ただ、さっき使ってた魔導術……不思議な感じがしたから」
「精霊に語りかけないと使えないからね。詳しく聞きたい!?」
「いや、私は魔導術が使えないし……いい」
ジークフリードはどこか納得いかないような顔をしていたが、リリーの横顔をちらりと見るとパッと嬉しそうに微笑み、会話を続けた。
「ねえねえ、リリーの目って緑色してるんだね。翡翠っていうのかな」
「それがどうしたの?」
リリーが無関心に尋ね返すと、ジークフリードは少し俯きぽそりと呟いた。
「僕の知り合いと同じ目の色だ」
リリーがジークフリードに顔を向けると、彼は何か懐かしむような表情で見つめ返してきた。
「目だけじゃなくて、色々似てる。顔も似てるかも」
「世界って広いから」
「だね。僕に似てる人もいるかもね!」
そんなことを話しながら歩いていると、彼方に小さく見えていた城が、徐々に大きさを増す。
白亜の城が陽の光に照らされ輝いている。だが、城門にはいつもより多く警備兵が配置されている。
門だけではなく、厚く高い城壁の上にも警備兵がずらりと並んでいる。彼らはいつもなら軽装なのだが、今日は兜まで装着しており、銀に光る頑丈そうな全身鎧を装備していた。手にはさらに、獅子の装飾が施された斧を持っている。
「なにこれすんごい厳重だね」
「要人でも来るんじゃない」
リリーが気にせず歩みはじめると、ジークフリードもすぐに後を追い、横に並んだ。
城門は固く閉ざされている。近づくと、両側に立つ警備兵が互いの斧を重ね、二人の行く手を阻んだ。
「御用件を」
左の兵士が尋ねると、リリーは二の腕の紋章を見せながら答えた。
「聖騎士リリー・ウルビア」
横にいたジークフリードもすぐ後に続き、襟を開き首筋に彫られた紋章を見せ答えた。
「同じく聖騎士ジークフリード・クレイメル」
兜は、兵士の顔を全て覆っているので、表情こそ分からないが、少し驚いた様子で斧を降ろした。
「無礼をお許し下さい。お話は伺っております。どうぞ」
両側の兵士は斧を降ろしすごすごとまた元の立ち位置に下がる。だが、門は閉じたままだった。
いつもならば兵士の合図とともに扉が向こう側に向けて開くはずなのだが、今日は一向に開く気配がない。
「いや、開いてないし」
苛立ったジークフリードが兵士を睨みながらそう言ったが、リリーが何かに気付いたのかそれを制止した。
「待って」
リリーが見つめる先のその巨大な城門に、僅かに変化が現われた。
「開門願う」
銀の鎧を纏った兵士がくぐもった声でそう言うと、閉ざされたままの門はやがてぼんやりとした光を放ち始め、その場に存在することを拒絶するかのように色褪せ、消滅した。
「魔法門だ。なんでリュシアナにこんな高度な魔導術が……」
驚いたジークフリードの疑問に答えるかのように、兵士が言った。
「ノーブル皇国皇帝陛下のご協力によるものです」
ジークフリードの顔が、瞬時に強ばった。
リリーはというと、思わず何かを言い掛けた。しかし、彼の表情の変化を見て取り、口を閉ざした。リリーが横目でジークフリードを見ていると、それに気付いた彼は無理矢理な笑顔を見せた。
門を抜けると、長い階段が姿を見せる。真っ白な階段の両側には、これまた銀の全身鎧と斧を装備した兵士が等間隔に立ち並ぶ。
「ノーブルの魔法門を使うなんて、悪魔対策ね」
なんとなく呟いたリリーの言葉に、ジークフリードは頷いた。
「いくら金を受け取ったんだろうね」