第二話「白銀の嘘、紅き系譜」

 薄い桜色の髪が、光に反射して金になる。愛らしい少女の容貌をした彼女を、リリーは眩しそうに見つめた。

「貴方ほんと変わってる」

「変わり者の聖騎士で有名なリリーに言われたくな~い」

 灰色の瞳が半月になる。そこに映る自分にも、自然と笑顔が彩られていた。

「あ、変わってるといえばね、さっきね、外であいつも見たよ。じぃ」

「じぃ?」

「ほら、ノーブル皇国の。英雄聖騎士の一人!」

「もしかして、ジークフリード? 第三位聖騎士の?」

 リリーは、再び眉をひそめた。

「ああそれそれ! 知ってるよねリリーも」

「魔導師の国……ノーブルの元皇子」

「そ。なんでか聖騎士やってる元皇子様」

 ジークフリードという少年はどうやらその国の出身らしく、しかも「元」皇子だというのだから、聖騎士の間では彼に対して妬み嫉みの気持ちを強く持つ者が多い。
 彼に会ったことのないリリーにとって、その噂が真実であるかどか計りかねたが、確かに話だけを聞くと嫌味な気もする。

「そんな高位の聖騎士まで招集が?」

「上位聖騎士は全員呼ばれてるよ。戦に行く前に、アルフレッド陛下からのお言葉があるみたいだから、第二位のアメリも今日にはここに着くはずだよー!」

「アメリ?」

「そっか、あの子活動拠点は東の共和国だから会ってないか……。あ、でも安心して。アメリとリリー。間違いなく気が合わないと思うから知らなくて正解~!」

 他人事のように笑い飛ばすベリーを見て、リリーは軽い疲れを感じた。
 ジークフリードに、アメリ。英雄と呼ばれる彼等はどんな人物なのか、一般的な聖騎士ならば興味がわくだろうが、リリーは「面倒だ」という気持ちのほうが勝っていた。
 話を聞きながら、リリーは髪を結あげた。そしてあの小さい荷物袋に入っていた礼服を取出し袖を通した。

「へー、そんな服あったんだねリリー」

「ちょうどね」

 リリーが取り出した服を見たベリーは、指を差して声をあげた。

「これ、セイレがいつも式典で着てたやつじゃない!?」

「うん」

 白地に上品な装飾がほどこされた上質な素材の礼服。袖は大きく広がり、裾は床につくほどに長いが、太股近くまで入ったスリットのおかげで、歩くことに不自由は無さそうだ。
 実家の姉の部屋に、大切にしまってあったこの服を、まさか着るとは思っていなかったのだが。

「セイレが大好きだったんだね、リリー」

 ベリーが、悲しげに眉を下げる。

「うん」

 私は姉さんが大好きで、憧れていた。
 あの強さに、大きさに。手の届かない雲の上のような存在だったけど。
 私のたった一人の肉親。もし、生きているなら、会いたい。
 リリーは、きゅ、と首元を整えた。
 着替えを終え、部屋の備え付けの鏡台の前に立つと、いつもとは違う自分がいた。
 セイレの服を着た自分、いきなり上級騎士の仲間入りをしたかのように、凛とした佇まいでそこになる自分。
 鏡に手をそえまじまじと見つめていると、横からベリーが顔をひょいとのぞかせた。

「似合うよリリー!」

「ありがとう」

 リリーは少し照れ臭そうに、だが無表情に礼を言った。

「そろそろ昇級しちゃえばいいのに……」

「だから、昇級してしまうと自由に動けないんだって、前から言ってるでしょう」

 鏡の前から移動し、無造作にベッドにほうりなげられていた先程まで着ていた服を綺麗にたたむと、リリーはカーテンを開けた。

「私が上位聖騎士になったところで……」

「え~あたしは嬉しいよ! リリーのこと知らない人に、リリーはこんなに凄いんだって分からせる絶好の機会だもん!」

「そんなことしてどうするの」

「セイレだって、きっとそう思ってるよ」

「いいよそういうの。……で、ベリーはいつまでここにいるの? 鍛冶屋に行きたいんだけど」

「鍛冶屋?」

「ええ」

 リリーは、ベッド脇にたてかけてある剣を見た。
 かなり年季が入っており、柄の部分に巻き付けられている布は汚れて変色し擦り切れている。

「新しいの買うの?」

「これは大事なものなの。だから新調する気はない。鍛えてもらうのよ」

「ふぅーん……どこで買ったのそんなの」

「貰ったのよ。昔」

「誰に?」

「貴方も聞きたがりね。私に剣を教えてくれた人」

「だから誰~?」

 彼女は話を聞くまで帰らないだろう。そう感じたリリーは、仕方なく話し始めた。

「“世闇一族”って、分かる?」

 リリーはそう言うと、剣を手に取り少し懐かしそうに微笑む。

「それって東の、あの超~排他的な種族の? 真っ黒い服ばっかり着てる人たちだよね?」

「そう。姉さんを探し始めて旅をしていた時、ちょっと色々あって。剣を教えてもらったの」

「意外な人たちと知り合いなんだねえ~」

「まあ、なんていうか、偶然……」

「そっか。じゃあそういうことならあたし帰るけど、正午にはちゃんとお城に行ってね?」

「わかった」

 すると、ベリーはあっさりと窓から降り、自慢の魔導術を使ってどこかへと消えてしまった。桃色の光がちらちらと光るのを見送りながら、リリーは微笑む。
 荷物袋を持ったリリーは、最後に剣をしっかりと腰のベルトに固定した。ただでさえ傷んでいるこの剣を、もう無闇に扱うわけにはいかない。
 大事そうに鞘を撫でたリリーは、家の外へと向かった。
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