平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ7(仮)
上司からの電話の後、そのまま落ち込んでいる訳にもいかず朝ご飯を作り始め、気を紛らわすことにした。
とりあえず今日から五日間は有給なのだから出来ることをやらねば。
「いっ……!!」
思い直した矢先に、包丁で人差し指の先を軽く切ってしまった。
どうやら結局はぼーっとしているようだ。先程の上司からの電話の落ち込みと、それでもやっぱり五日は休めることへの気の緩みだろうか。
いつもの自分じゃあないみたいだ。
まだ料理に洗濯もあるし、平子さんの服も買いに行かなきゃいけない。休みでもやることだらけなのだから、ぼーっとしている場合じゃないのだ。しゃきしゃき動かねば。
とりあえず流水で傷口を洗い、タオルで圧迫止血を試みる。指先からの出血は傷口の見た目よりも多く、あっという間に指は血の染みたタオルの感触に包まれた。
立っているのも手持ち無沙汰なので再び台所の床にへたり込む。
「……」
不意に涙が出た。
何だか自分が酷く不甲斐なく惨めなように思えてきてしまったのだ。指先の痛みも手伝って、後から後から膝に雫が落ちる。
馬鹿みたいだ。
何の理由も無いが、馬鹿みたいだった。
きっと疲れているんだ。そりゃああれだけのブラック企業にいるのだもの。無理もない。
一度泣き出してしまうとどうにも心細くなってしまい、膝を抱え込んで声を殺して泣く。
こんな時でも平子さんへの配慮は忘れないらしい自分の頭のことは、少しだけ褒めてやりたくなった。
「だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ……」
小さな声で、自分を落ち着かせるために繰り返し呟く。息を吸って、吐いて。
涙を止めるんだ。そう、大丈夫。
落ち着きかけた瞬間、部屋と台所を繋ぐ扉が開いた。
「おはようさん……て、どないしたんや」
半泣きだわ血塗れだわの私を見て平子さんはギョッと目を見開く。その顔三度目ですね。なんて呑気な思考が湧きながら、説明しようと口を開いて息を吸った瞬間、また涙が零れてしまった。
「いや、あの、痛くてですね、指を切ってしまって……」
泣いている時特有の喉が締まる感じに抗いつつ、しどろもどろに説明する。
遭遇二日目で何とも面倒な女のところに来てしまったと思われたかもしれないと思った。
「……見してみィ」
スタスタと私の傍に来た平子さんは私の前で手を開く。
ぼんやりと、その掌に手を乗せた。
「逆や逆、お手してどないすんねん。傷口見してみィ」
無意識の奇行に恥ずかしくなり、頬が熱を持つ。図らずも涙は止まった。
今度はスっと傷のある手を差し出す。
「……あー……パックリいってもうてるな。ほんでな、自分押さえ方甘いで。俺が押さえといたるからもうちょい辛抱しーや」
そういうと平子さんは私が押さえていた時より遥かに強い力で傷口を握った。
「結構痛いです」
「直ぐに慣れてくるわ」
「……ありがとうございます」
「ん」
色々と見られてしまった恥から、蚊の鳴くような声でお礼を言うと、平子さんはふっと笑った。そして子どもにするように頭をポンポンと二度優しく叩かれた。
先程の恥ずかしさによる赤面を遥かに上回る勢いで顔に熱が集まる。
それを見てまた平子さんはふっと笑う。
今度は意地悪く口の端を上げて。
