平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ49(仮)
なんだか生活は特に代わり映えしない。
私が怪我をしているからか平子さんは距離を詰めてこないし、私も距離を取っている。むしろどう接していたか急に分からなくなってしまった。
「今朝、味噌汁温ゥしといたからな。傷にしみんくてええやろ」
「……ありがとうございます」
一度温めて、私の分だけ冷ましてくれたのだろう。向かいに座る平子さんの味噌汁は、きちんと湯気が立っていた。
「そういえば、平子さん」
「ん?」
「何か戻る糸口とか見付かりました?」
ああ、ついに聞いてしまった。
戻らなければ良いのにと思って協力らしい協力をしてこなかったが、流石にそろそろ何かあるのではないかと思ってしまったのだ。頭で考えたことがうっかり口をついて出た。
「さァてな、なーんも」
平子さんは天井を見ながら、ぽかんと口を開けて言う。
内心ほっとする。まだまだずっと傍にいてほしかった。あちらの世界がどうなるかなんて私は考えれるほど大人じゃあない。
「じゃあ、みんなのこと心配ですね」
口先だけ、そんなことを言う私は酷く浅ましい。
直接はよく知りもしないくせに。
「せやな。ま、言うたかてどないしょもないからな」
思ったよりもあっけらかんと話した平子さんの味噌汁を啜る様子を伏し目がちに見つつ、自分のおかずに手をつけた。
毎日仕事お疲れ様です、自分。
夜笹さんと別れてからも案外普通に話せているので職場では困らないな、と最近思う。もちろん最初は気まずかった。しかし夜笹さんから普段通りにこにこと話しかけてくれるものだから、時間が経ってしまえば気が楽になってきた。
問題は平子さんである。
迎えに来る度、明らさまに嫌な顔をする。
この人、意外と大人気ない。
「どォもー、平子ですゥ」
迎えに来るのが当たり前になってきた平子さんは、最近容赦無く店の扉を開ける。
今日も気怠げに入ってきて、すぐ片目を眇める。その目は夜笹さんを一瞥して、天崎さんに一礼して、そして私に向く。
「紫雨、帰んで」
私に対する声音は優しいけど、夜笹さんに対してあまりに態度が違う。理由は明らかだけど。
平子さんは私のリュックを肩にかけ、くるりと背を向けてすたすたと歩き出す。慌ててその背中を追うと歩調が僅かに緩められた。
「夜笹サンとまだ仲ええねんな」
「……そりゃ、仕事で関わりますから……」
「見ての通り、俺は良い気してへんけど気にすんなや」
「普通に気にします……」
何だこの人。
多分気を使ってくれてるんだろうけど。
平子さんはあちらの世界では仕事は仕事として割り切った大人なイメージがあった。だから気にせずそうしろってことなのだろう。
けど態度があまりに露骨すぎて無理では?
「……正直、俺も自分がこないなると思うてへんかったわ」
「あ、はい」
「あ、ハイてなんやねん」
「私も思ってなくて」
というか自覚はあったんですね。
「……かっこ悪いやろ」
「!!?」
いいえ? ときめきメモリアルですが??
なに、あなた可愛い方もいけたんですか??
久方ぶりの推し活的ときめきに私は大混乱だ。
恋より慣れたはずの感情の動きだけれど恋をしながらだとより精神面への負担が大きい。しかも推し且つ恋した相手の新発見新情報ときた。
リアルタイム生配信ですか??
「……大丈夫か?」
無意識に顔を覆って天を仰ぐ私に、平子さんはどうみても引いた表情で心配の御言葉を下さる。
久しぶりですねその御顔。
「最近の私はどうやら平子さんへの敬意が足りなかったかもしれません」
「いや、要らんで……?」
要らん要らんと目の前で手を振って下さるが、そんなそんな……。
「好きな人である前に推しなのでぇ……」
思わず感激の涙が出てきてしまった。流れ出そうな鼻水を啜ると、目の前にポケットティッシュが差し出される。
「ありがとうございます……」
「ええて、ホンマに。そないな調子でおったら毎日もたんやろ」
「……確かに?」
確かに、死んでしまう。
冷静にならねば。
スンッと真顔になる。
「切り替え早ッ」
「そんな褒めないでください、照れます」
「褒めてないで?」
照れ笑いする私にまた引いてる御顔。
これこれー!! これですよ!!
これが大好きで!!
「痛っ」
またにやける私に遂に手刀が飛んできた。
これも初めて会った時以来だ。心地良い。
なんだか最近は感情がいつもと違うことに大忙しで平子さんそのものに集中出来ていなかったのかもしれない。
いや、ある意味で集中はしていたのだけれど。
「平子さん、大好きです」
「お、おう……俺も好きやで」
微笑みながら返してくれる平子さんに満面の笑みを返す。
こんな無邪気に笑顔になれたのいつぶりだろうか。
今日は最近で一番気持ちのすっきりした、良い日だ。
