平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ48(仮)
「今日はくっ付かないんですか……?」
「いや、ど、どないしよなァ?」
いつも通り寝ようとしたが、なんだか今日は平子さんがやたらときっちり距離を取る。両想いだと思ったのは気の所為なのか。
「やっぱり牛丼屋の聞き間違いでしたか?」
「ハ? え?」
「だって、お互い好きなら尚更くっ付いて寝るのかと……」
「いや、それには色々事情があってやなァ……」
「またさっきと同じこと言ってますよ?」
ごにょごにょと目を泳がせて顎を摩る平子さん。何がなにやら。
両想いなのが本当なら思い切り抱き締めてもらって眠りたいのに。
意を決して自分から擦り寄ると平子さんがびくりとして身を引いた。
「……嫌ですか?」
「嫌、なわけちゃうねんけど……なァ?」
分かるやろ? とでも言いたげな視線を送って来るが、申し訳ないことに何も分からない。
更に詰め寄ると壁を背にした平子さんの逃げ場が無くなった。
「……アカン、降参」
こちらを向いて横になったまま平子さんは両手を上げる。
「降参って何がですか?」
「……なんや急にグイグイ来るやん自分」
出来うる限り背中を壁に付けた平子さんは口の端を引き攣らせて困ったように笑った。
「両想いなら傍にいたくないですか?」
「それとこれとはちゃうねん」
純粋に疑問すぎる。何が違うのだろうか。
私が黙って見ていると、平子さんは目を左右に彷徨わせてから眉間に皺を寄せ、目を閉じて大きな溜息を吐く。
「……続きは今度て言うたやろ?」
……。
いつもより低く響く声に言葉の意味を思い出し、急に全てが恥ずかしくなった。
慌てて距離を取る。
「あっ、あのですね! そういう意図は、一切無く……!!」
「分かっとるわ」
焦って言葉につかえながら弁解をすれば、平子さんが眦を下げて笑った。その笑顔に胸がぎゅうと締め付けられる思いがする。
これが、恋か──。
て、んなこと思ってる場合じゃない。今日そもそもどうやって寝るかが問題だ。
「えっと、やっぱり毛布でバリケード作りましょうか……」
「……せやな」
すぐに平子さんが手近な毛布を丸めて、ベッドの真ん中に置く。
「こっからお互い入らんちゅーことで」
「はい」
始めから背中を向けてベッドに入ったのは、一緒に寝るようになって初めてかもしれない。それでも背後の平子さんが気になり、バリケード越しに、ちらと後頭部を確認してしまう。丸く整った金髪頭が呼吸で小さく揺れている。月明かりに髪の筋がきらきらと瞬いて満天の星空のようだ。
つい、バリケード越しに手を伸ばしかけるが、すぐ下ろす。
約束は破りたくない。
自分を落ち着かせるために手のひらをぐっぱぐっぱと握り静かに布団に戻す。
せめてここから眺めるくらいなら良いだろう。
こうしていると、初めの頃なぜあんなに距離が近かったのか不思議で仕方ない。憧れであって恋ではなかったから? それもなんだか腑に落ちない。だってちゃんとどきどきはしていたから。
「なァ、起きとるよな」
思わずぎくりとしてしまった。何も悪いことはしていないのに。
「落ち着かんねやろ」
「……はい」
「俺も」
平子さんが小さく笑いながら、ぽつりと零す。
バリケードなんて張ってまで寝ることなかったのだからそりゃ平子さんも落ち着かないだろう。しかし退けるのも緊張していけない。
思案していると、暗闇で何か動く気配がした。
「ホレ」
平子さんの手だった。手だけがバリケードの下からひょこっと差し出されている。誘われるように、無意識に手を乗せると緩く握られた。
「手ェだけ握るんなんて雷の日ィ以来やな」
「……そうですね、なんだかそわそわします」
「ほしたら離す?」
「あ、いえ、このままで……」
平子さんはけろりとして見えるが、私は落ち着くような落ち着かないような形容し難い気持ちで、とても寝付けそうにない。そもそもゆっくりと触れること自体が久しぶりだ。
温かい。
暖房をつけて布団を被っていても、尚冷える夜。手だけ自分の発する熱とは違う温かさに触れている。その事実に胸が高鳴ってしょうがないのに、瞼は重くなってきた。
恋ってどうにもまとまりがない。
