平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ46(仮)
その夜は久しぶりに平子さんの腕の中で眠った。
「寝返りうったら怪我痛むやろ」なんて言いながら後ろから引き寄せられた。もう寒い季節だ。背中に感じる平子さんの体温が心地良い。規則正しい呼吸と心音に耳を澄ますとあっという間に意識は無くなり、朝日がカーテンの隙間から目を刺した。
自分でも驚くほどぐっすり眠れた。
自認都合のいい女生活二日目なのになんてすっきりした目覚めなんでしょう。
今朝は流石に職場へ当日欠勤の連絡を入れた。あまりにも顔も身体もぼこぼこすぎる。頬も肋も痛くて身動きする度に顔を顰めてしまう。
「おはようさん」
一足先に朝の身支度をしているといつもの如く遅れて平子さんが現れた。改めて見ると髪を切ったばかりの夏よりだいぶおかっぱが長くなっている。もう肩につく長さだ。
「身体どない?」
「痛いですけど動けはします」
「……無理しなや、悪化すんで」
眉根を寄せて心配そうにする平子さんになんとも形容し難い気持ちになった。
この人はなんでこんな思わせ振りな態度なのだろう。嬉しくもあるがやっぱりそんな気持ちが勝つ。
「ありがとう、ございます」
優しくされる度に、自認都合のいい女なことが思い返され気分が曇った。これで普通に両想いなら良いのにそれは有り得ない。
ゆっくりと朝ご飯の準備をしながらもやもやとした考えが頭を離れなかった。
「ちょォ、危ないで!」
「え……」
平子さんの声にふと我に返る。何を思ったのか私は、熱々の焼き魚を素手で持ちかけていた。意味が分からないな。
ぼーっとする私の目の前で、平子さんがいそいそと菜箸で焼き魚を回収していく。
「……すみません」
「ホンマやで、火傷せんでえかったわ」
ぼんやりする自分に喝を入れたくなったが、今の頬っぺたを叩くのは自殺行為だ。
朝ご飯を食べ終わって、手持ち無沙汰だし座椅子に座ってテレビでも観ようと思ったところ、平子さんに座椅子を取られてしまう。
「……そこに座りたかったんですが」
「しゃァないやろ一個しかあらへんし」
ムスッとしていると平子さんが自分の脚の間をポンポンと叩いた。
「?」
「ここ来たらええやん」
ココキタラエエヤン?? すみません、もう一度お願い出来ますか? ココキタラエエヤン??
知らない言葉ですね。認識出来ませんでした。もう一度お願いします。
困惑しているとスっと手が引かれて、気付いたら平子さんの傍に。
「ホレ」
あまりにも呆気なく、なんの抵抗もする間もなく、ひょいと平子さんの膝の間に座らせられた。
「え、あの……」
振り返ろうとすると、横目に喉仏が入ったあたりで腰に手を回される。
なんなんだこの距離感は!!
確かに昨日もくっ付いて寝たけれど。それとは関係なく、以前よりも明らかに距離感が近い気がする。
赤くなった顔を見られたくなくて慌てて前に向き直った。
「ここ最近の番組、どうもパッとせェへんな」
「……そうですね」
本当に何を考えているんだろうこの人は。本気で分からない。
やっぱりこれは都合のいい女枠ということ?
そんなことを考えながらテレビを眺めるが、これっぽっちも内容が頭に入ってこない。
そりゃ当たり前か。
ぐるぐるする頭の後ろの方で平子さんがハッと笑う。どうやら少し面白い内容だったみたいだが、平子さんにしか意識がいっていない私にはなんの事やら。
「そないピッとしとらんともたれかかったらええやんか」
「えっいや、でも」
無意識に九十度の角度を保っていた私にあっけらかんと声をかけてくる。人の心は無いんか。
眠る時よりしっかり起きている時の方が恥ずかしいのは道理で、慌てて平子さんの手を押しのけようとした。
「どないした?」
「や、え、あの」
ああもう、動揺して真面な言葉が出ない。
口を開けては閉じて、言い淀んでいると平子さんに再び引き寄せられた。先程より強く、腕の中に抱え込まれ、髪に平子さんが顔を埋めるだけ密着している。溜息のような吐息が耳にかかった。
「……好きや」
囁くように、絞り出すように、静かに耳に届く声。試験紙が溶液を吸い込む様のように、平子さんの声を抵抗無く吸い上げてしまう。じわじわと身体を侵食してく毒みたい。
この人は、今なんて言った?
あー、もう終わった。
言うてもうた。認めてもうた。そうや、俺はコイツが好きや。いつからか自分でも分からんけど、理由も漠然としとるけど、離しとうない。
冬やのに、紫雨に触れた部分が熱うてしゃアない。返事がないのをええことに抱き締める力を強めて紫雨の首に擦り寄った。紫雨の肩がビクリと跳ねる。それが愛しゅうて口元が緩む。
「あっ、あの」
「お、おん」
「……溜まってるんですか?」
……。
……。
「……ハア?」
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