平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ43(仮)
「え……えぇ?」
言葉が他に出なかった。
体勢を直し、深呼吸をして、一口ミルクティーを飲む。
いや、動揺することないじゃないか。今私は夜笹さんが好きなんだから、このまま付き合えれば万々歳なはずだ。
「……よろしくお願いします」
「へ……? えーいやーえー? ……いーの?」
自分が発した声が、存外小さな声で驚いていると、目の前からも驚いた声が上がった。ちらりと見ると頭を抱えた夜笹さん。
「自分で言っておいてなんでそんなびっくりしてるんですか?」
「いやー、正直望みないと思ってたからさー」
夜笹さんには珍しく、はにかんだ様な、苦笑いの様な、なんとも言えない笑顔で頭を搔く。
表情の意図がわからずぽかんとしてしまう。
「? なんでですか?」
「……オレは、昏水さんて平子さんのこと好きなんだと思ってたんだよねー」
ぎくりとした。
即座に否定の言葉を口に出せず、曖昧に笑うと、何かを察した夜笹さんが頭を撫でてくれる。
なんだか悪いことをした気がした。
「……今日から紫雨ちゃん、て呼んでもいー?」
確かに、付き合うとなると苗字呼びもよそよそしい。
私が黙って頷くと夜笹さんは今まで見たことないくらい幸せそうな顔で笑った。
さっきよりはっきりと、胸がちくりとした。
正直初めは残業ダリー、くらいにしか思ってなかった。
気付いたらいつも目の端にいて、ちょこまか動いてて。よく働くなー、なんて。
今思えば、もう好きだった。
正直、理由なんてハッキリしない。笑顔が可愛いだとか、仕事の時にハキハキ喋る声が耳触り良いだとか、仕事上がると少し気怠そうにするギャップが良いだとか。上げられなくはないけど全部後付けのようなもの。
ただ、キミを見ていられたら幸せだった。
けどあの日、天崎さんと話してるキミを見た時はつい、チャンスだと思ってしまった。
反射的に声をかけて、連絡先を交換して。満足感に浸っていたオレの前に、急に金髪のおかっぱ頭が現れた。それで、ゆっくり距離を縮めてく予定が早くも崩れたんだ。
まさかダメ元で告白する日が来るとは思わなかった。
「ほんでェー? 今日どやった」
平子さんの何気ない一言にぎくりとした。
まさか初めての彼氏が出来ました。なんて、この人の前で言えようはずもない。
……いや、言えなきゃいけないのだ普通は。
「……初めての恋人が出来ました、いえー」
にこりと笑ってピースサインをしてみる。絶対口の端が引き攣っているがどうしようもない。
「ほうか」
「……」
やっぱり変だ。今までの平子さんならもう少しぐいぐい踏み込んで来た気がする。それが今はどうだ、涼しい顔をして雑誌を読んでいるのだ。
まあでもそれが当たり前の反応か、とひとり納得した。逆にそういう反応なら色々言いやすくもある。
「ほら、これプリクラっていうんですけど! 写真がシールになってて!」
言いながら鞄からプリクラを取り出して平子さんに見せた。
平子さんはちらりと目を向けて右眉をくっと上げるとすぐに雑誌に目を戻してしまった。
「……ええんちゃうの」
ぼそっと呟く。
どうやらプリクラにはあまり興味をそそられないよう。家電製品に興味を持っていたからこれにも興味を持つかと思ったんだけれどそうでもなかったらしい。
それ以上、平子さんとは必要最低限の会話しかなく、私は夜笹さんへのメッセージの返信に注力した。初めての恋人とはこんなに気分が浮かれるものなんだなと思う。カフェでの胸の痛みはなんのその、優しいメッセージが来る度に頬が緩んだ。
「え、昏水さんと夜笹くん付き合ったの?」
二人して天崎さんに報告したらかなり驚かれた。
そりゃあいきなり残業上がりにそんな報告される方が珍しい。
「……いや、僕てっきり……あ、いやなんでもないや、ごめん」
言いかけて、天崎さんは目をきょろきょろさせてすぐに伏せ、謝る。
多分、平子さんのことを言いたいのだろうとは二人ともすぐに分かった。
「うん。びっくりしちゃったけど、おめでとう二人とも」
いつものにっこりおっとりした笑顔でお祝いしてくれる天崎さんは神か仏か。ありがたや。
あの日、ただ一度「大丈夫ですよ」と笑って僕の手を握ってくれた君に触れたくて触れられなくて、ただ笑うしかない僕。
