平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ40(仮)
寝起きに真っ先に感じたのは頭痛。二日酔いだ。
しじみの味噌汁でも飲んで寝れば良かった。
今からでも遅くはないだろうとポットでお湯を沸かす。
そうこうしているうちに私と同じ様な顔をした平子さんが起きてきた。
「……おはようさん」
「おはようございます。味噌汁飲みますか?」
「ああ……おおきに……」
このやり取りだけなら昨日のことなんてまるでなかったかのようだ。
まあ、本当になかったら良かったのだが、多分そんなこともあるまい。飲んでも記憶は残るタイプだ。平子さんもそんな気がする。
「朝飯作ろか」
「じゃあ一緒にぱぱっと終わらせちゃいましょう」
「今日なんする」
朝ご飯を食べながら、ぽつりと平子さんが言った。
え、昨日の今日なのにそんなことも聞いてくれるんだ?
昨日は初めの頃とは様変わりしてしまった様に感じた関係性に、ついまだ希望がある様に感じてしまう。
「……またゲームでもしますか?」
「!」
おずおずと提案すれば途端に平子さんの表情が明るくなった。
可愛いと言ったら怒るだろうか? そもそも今はそんな距離感でもない気はする。
でも、じゃあどんな距離感なんだろう。
ご飯を食べて、拍子抜けするくらい今まで通りゲームをして、いつも通り夜を迎えて。
だけど今日も手は伸びてこなくて。
拒絶した割に、私は何を期待しているのだろうか。拒絶したなら拒絶したなりに自分の意思を貫け私。
片思いなんてしたくない。都合が良くもなりたくない。
なら変な期待などしないようにしなければ。
"ガシャンッ"
「昏水さん、大丈夫!?」
跳ね返った破片で手が切れた。
残業中、どうやら私はぼんやりしていたらしく、気付いたらお皿を割ってしまっていた。
慌てた様子の天崎さんが、箒とチリトリを持って来る。
「あー、まあまあしっかり切れてんねー」
そういえば夜笹さんも残業の日だった。
目の前で夜笹さんが、手を取って私の指を確認している。
なんだか今日一日の記憶がほとんど朧気だ。よく仕事出来たな。
なんて、思っている間に椅子に座らされ、いつの間にか救急箱が登場していた。
「……すみません」
天崎さんは片付けをしてくれているし、夜笹さんには手当をしてもらい、申し訳なさで居た堪れない。
「しょうがないしょうがないー。そんなときもあるさー」
指に消毒液を吹き付けながら、夜笹さんはけらけらと笑う。
「そうだよー、誰でも失敗しちゃう時はあるんだから気にしないでねぇ」
天崎さんにも励まされて、なんとも情けないが、気持ちは切り替えないとなるまい。
中くらいの絆創膏を、指を覆うように貼ってもらい、指を曲げ伸ばししてみる。どうやら夜笹さんは絆創膏の貼り方が上手なようだ。どこにも違和感がない。
「お二人ともありがとうございます」
「「いーえー」」
二人の笑顔で少し胸が温かくなったように思う。
だがすぐに冷静な自分が顔を出す。
今日もまた平子さんは迎えに来ると言っているのだ。怪我のこと何か聞かれるんだろうな。心做しかやっぱり気まずい。
「で、なんで人数増えてんねん!」
平子さんが極力声を絞ったツッコミを、耳元でなさっている。器用だなと思った。
「……夜笹さんも残業だったので天崎さんのご厚意です」
同じく声を絞りボソボソと耳打ちする。
「しゃーかて……第一、俺が迎えに行くゆーてんのに送り要らんやろ」
常識的に考えたらそうかもしれないのですけれど。今の私からすれば人数は多ければ多いほど良い。
だって気まずいから!!!!
何度だって言う。気まずいから!!!!
幸い暗がりで、指の怪我は気付かれていないので、また余所事を考えてぼんやりしていたことを咎められる心配は無さそう。
他人がいるお陰で雰囲気もおかしくならない。命拾いしている、間違いなく。
「平子さんだっけー? お迎え来るなら時々会うかもー。夜笹蘇枋です、よろしくお願いしまーす」
蘇枋さんのノリが確実に陽キャ。まあ髪色とか見た目からどう見ても陽キャですから今更ですけども。
「……平子真子です。よろしゅうどうぞ」
真横だから顔が見える。口がこれ以上ないほどへの字。
良いじゃないですかお友達ですよ。なんて言ったら確実に手刀を喰らいそう。
「てかさ、平子さんと昏水さんて一緒に住んでるのー? どしたのー?」
どうしたもこうしたもゴミ捨て場で拾いました。とは流石に言えない。
「ルームシェアしてるんですよ、期間限定ですけど」
期間限定を強調すると、横目で平子さんがこちらをジトっと見る。あえて目は合わせなかった。
「期間限定かー。面白いねー!」
観察していると夜笹さんは本当によく笑う。ずっとニッコニコ。
やっぱりこの人を選んで良かったかもしれない。正直、相手の顔色を窺って一喜一憂するのは疲れる。
例えば今みたいに。
ちらりと隣を盗み見る。
落ち着かない。何を考えているのか分からない。
いつ気付いたのか、私の怪我した指先を、そっと指で撫でる平子さんの気持ちなど、どうやっても分かりようがないのだ。
