平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ39(仮)
夜笹さんの話以降、言葉を交わすことなく家に着き、玄関に入る。
入るやいなや平子さんに抱きすくめられた。
「あの、平子さ」
言い終わらないうちに更に締めあげられる。
「苦しいですって……」
「口吸いしたい」
ふぁ!?
甘えるように首筋に頭を擦り寄せられ、思考がまともに回らない。
夜道を歩いて醒めたはずのアルコールの香りがまた噎せ返るように漂う。
確か口吸いとは昔の言葉で、今で言うキスのことで……でもそもそも三度目は無いと言い含めてあるはず。
「……平子さん? そういうのは好き同士がするものだって言いましたよね?」
「……」
無言のまま、平子さんの唇が、私の肌を滑るように口付けながら唇へ進んでくる。思わず手でブロックした。流石に三度も流される訳にはいかない。
「なんで」
息を吐くように、小さな声で問われる。
なんでも何も、何故この人は学習しないのかと思ってしまった。
「だから……」
もう一度説明しようとした時、私の指の間をぬろぬろと這い回る温かな感触。平子さんが指を舐めている。
「やめっ」
指の隙間を擽られる度、擽ったいやらゾクゾクするやら訳の分からない感覚に襲われる。だがしかし手を離すわけにもいかない。
終いには根負けして座り込んでしまった。
「なんでだめやの」
私に倣うように玄関に座り込んだ平子さんが、私の両脇に手をついて、また囁くように畳み掛けてくる。
「好き同士じゃないからって、何度言えば……」
「しゃーかて紫雨、俺ンこと好きやろ?」
途端に顔に熱が集まるのを感じた。
それと同時にカチンと来た。
「私が、平子さんのこと好きだからって何してもいいと思ってませんか? 私のこと好きじゃないくせに!」
言ってしまった。
私達の関係性において一番決定的な言葉を。
「……」
分かりきっていたけれど平子さんは何も言わなかった。
私は内心慌てて取り繕おうとした。
平子さんからしたら私を好きじゃないのに、私が平子さんを好きなんて気持ち悪いだけだ。
さもなきゃ都合が良いだけ。
「なんて、今は他に好きな人いますから。だからもうこんなことしないでください」
無理に笑顔を作ってそう言えば、予想外にも傷付いた顔をしたのは平子さんだった。それを疑問に思ったが、正直、今泣きたいのは私だった。
今度こそ明確に失恋してしまったのだから。
そんなこんなでも人間てすごいもので、何の合図もなく二人とも動き出して、寝る準備を始めた。
お風呂に入って、頭を乾かして。
ただ、いっそべろべろに酔って帰れば良かった。
この気まずさでセミダブルで一緒に寝るのはキツい。それでもいつもの様に人一人分空けて横になった。
平子さんの手は伸びてこなかった。
