平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ38(仮)
好きってなろうとしてなるものなんだろうか。
まあでもそれもありか。現に今、好きになろうとして、相手がなんだか良く見えてきてるわけだし。
「昏水さん、連絡先交換するー?」
「あ、お願いします」
今好きになると決めたばかりの人と、緊張しつつの連絡先交換。
「よし、それオレねー」
画面に表示されたアイコンを友達追加する。
なんだか新鮮な気分になった。
「また連絡するねー」
煙草を吸い終わった夜笹さんはまた私の頭を撫でて店内に戻っていく。
私の胸は謎の達成感に満ちていた。
ただの勘だけどようやく望みのありそうな相手、しかもイケメンとお近付きになれたのだ。
「この浮気モン」
肩に僅かな重みとお酒の匂い。不意打ちに耳元で囁かれた。
バッと振り返ると平子さんが立っている。
「な、何してるんですか? まだ連絡してないですよ」
そう、まだ終わった連絡をしていないのだ。それなのに何故いるのだ。
「オマエが心配やったから、じゃアカンのか」
「あ、あかんくないですけども」
「ほしたら帰るで」
平子さんが緩く私の手を引く。
私は地面を踏み締めて抵抗した。
「あ、あのまだ挨拶もしてないので」
なんだか声が引き攣る。今更平子さんに何の緊張をしているのだろう。自分でも分からない。
「……そんなんええやろ」
また手を引かれる。
手を引く平子さんはやっぱりどこか不機嫌そうだ。不機嫌そうどころか怒っている気がする。
「いや、でも」
「でももだっても」
「あるんだなーこれがー」
耳元から声がして、平子さんの手を止める大きな手が目に入る。
ぱっと振り返ると夜笹さんがそこにいた。
これがイケメンの挟み撃ちか。
「夜笹さん、戻ったんじゃ……」
「すぐ話し声が聞こえたからさー。オレ、耳は良いんだー」
そう言ってにっこり笑う。なんだかホッとした。
「ストーカーさん? にしては親しげだよねー。彼氏? にしてはよそよそしいしー」
夜笹さんは平子さんを見てから私を見る。
「……友達、です」
それ以外に答えようがなかった。どう答えても歪に思える。そもそも私と平子さんは正直、友達と言うには踏み込み過ぎているし、恋人というには他人過ぎた。
「……友達かー。なら怖い顔してないで一緒に飲んでいきませんかー?」
「酒なら間に合うてますから」
え、なんで平子さんはこんなにイライラしてるの?
私の報連相が遅かったのまだ怒ってたとか? お酒飲んでやっぱりイライラきちゃったのかな?
それにしても改めて怒ってる平子さん見ると怖い。なんで夜笹さんはニコニコ出来てるんだろう。
「騒がしいけどどうかした?」
今度は天崎さんまで出てきちゃったよ。
イケメントライアングルアタック。
振り返るとお店の扉からひょっこり大きな上背が覗いている。目をまん丸にして、状況が飲み込めないようだった。
他にも数人、なんだなんだと扉から顔を出している。
「え、っと? 平子さんどうかされたんですか?」
「どーもこーもコイツ迎えに来ただけですわ」
頭をワシっと掴まれた。
やっぱり平子さん今日は変だ。
「あ、なら一次会もうすぐ終わるので、少しだけ御一緒しません?」
もう天崎さんだけが頼りです。
「……そういうことならお邪魔します」
その一言に多分そこにいる全員がホッと胸を撫で下ろした。
一人、ニコニコしている夜笹さんはさておいて。
何せ、対応を間違えれば何人か伸されそうな雰囲気だったから。
そこから天崎さんの手腕によって比較的穏やかに一次会が終わり、私と平子さんは帰ることになった。
皆さんに頭を下げて、天崎さんと夜笹さんには手を振って、店の前で別れる。
「……あの赤髪誰やの」
「あ、夜笹さんて同僚の……」
「名前はさっき飲んでて聞いたわ。その前に店前で何しててんて聞いてるんやけど」
今日の平子さんはとことんねちっこい様子。
お酒のせいからしら。
「少し話して連絡先交換しただけですよ」
「なんで」
「な、なんでって……」
なんでも何も、私は不毛な恋を忘れたいんですよ。あなたへの。
なんて流石に言えない。
「……職場の人ですから」
「ほーん……」
それっきり靴底がアスファルトを叩く音だけ響く。
飲み会一つでこんなに気まずくなるなんて思いもよらなかった。
俺はそろそろ己の挙動のおかしさに気付き始めとった。せやけど認めとうもなかった。
何倍も歳の離れた、言うなれば小娘にここまで感情を揺さぶられるやなんてなんかの間違いや。お笑い種。
腹なんて決まるわけないやろ。
一生なんて一緒に過ごせん。初めっから分かりきっとることや。寿命しかり、いつか向こうの世界に帰るであろうことしかり。
……しゃーのに、なしてこないに傍にいとうてしゃァないんやろう。
流石にこんなん馬鹿みたいや。
