平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ37(仮)
「なんでやねん、そんなん聞いてへんで」
「いや、でもうちの店の恒例行事なもので……」
現在平子さんともめている。
理由は私が報連相を怠ったから。
この休みの真ん中は元からあった休みで、店自体がお休みなのだが、毎年夏の飲み会があるのだ。
昨日言えばまだ違ったのだろうが、もう当日の昼を回っていた。
「兎に角、今日私は晩御飯大丈夫なので……」
「へーへー、一人寂しく晩飯かァ」
半ば冗談交じりに嫌味を言われて罪悪感が刺激される。何かお土産を包んで帰ろうと決意した。
「あ、アレだったら平子さんもお酒飲んだって良いので! 今から買いに行きますか!?」
一瞬お金を渡そうかと思ったが、平子さんには身分証明書が無い。年齢確認されたらおしまいだ。
「……ええの? 飲ませて」
「? はい、お望みなら??」
「ほしたら俺も飲もー」
そういうと平子さんはTシャツにジャージの部屋着のまま、玄関にある私のキーケースを手に持った。
慌てて私も髪を直して靴を履く。
「ほー、改めて見るとなんぼでも種類あるなァ」
平子さんがお店の冷蔵庫を見回しながら口をポカンと開ける。そしていくつか手に取りポイポイとカゴに入れていく。ついでにおつまみも。
「結構飲みますね」
「飲まんとやっとれんからなァ」
また私が報連相を忘れたことへの嫌味だとすぐに分かった。非常にニヤニヤしているから。
しかしそのニヤニヤもすぐに引っ込んだ。
「あ、でも迎えには行くで。職場の向かいの店なんやろ?」
「そうですね、二次会行く気はないので」
「ならええ。終わったら連絡し」
先程より幾分か機嫌の良さそうな表情。
平子さんて友達にも束縛する方なのかな。そう見えないけど。
「かんぱーい」
やっぱりどこか不服そうな平子さんを置いて飲み会。天崎さんには「連れてくれば良かったのに」と言われたがそうもいくまい。
みんなが乾杯にビールを選ぶ中、流されるように選んだが私はビールが苦手だ。それでも唐揚げと枝豆でちびちびと飲み進める。
「昏水さん、ビール苦手だったよね。飲もうか?」
天崎さんがすかさず小声で助け舟をくださるが、もう口を付けてしまっているので渡すに渡せない。
「口付けてない方から飲むから大丈夫だよ」
察しがいい。
飲み会の席でもこの人は完璧超人らしい。
おずおずと飲みかけのビールを渡すと二口で飲み干してしまった。しかも涼しい顔で自分の分も飲んでいる。
完璧超人な上にお酒も強いようだ。えぐいな。
「何か飲む? ソフトドリンクもあるよ、って知ってるかぁ」
天崎さんがニカッと笑う。八重歯がこんにちは。こう見ると体格の割に少し可愛らしい。垂れ目だし、泣き黒子あるし、頭サラサラふわふわだし、大型犬系? というのかこの系統は。多分だけど着痩せする質。
「じゃあ梅酒のソーダ割りで」
「了解」
サッと手を挙げて注文してくれる。多分、スマートだ。
こういう人を好きになれたら、とまた思ったがこの人も多分不毛な気がする。
「何話してんですかー?」
どーん、と急に視界内に真っ赤な頭。血の様な色に度肝を抜かれて思わずしげしげ眺めてしまう。
「お、お酒の注文してただけですよ」
だれだっけこの人……。
目立つから見たことあるのだけは覚えているけど、名前が出てこない。
「オレも混ぜてくださいよー」
「夜笹くん、久しぶり。最近仕事で動いてる時しか顔合わせてないねぇ」
そうだ、夜笹さん。
「ほんとですよー! 最近天崎さんと全然話してないっす」
目の前でイケメン同士が会話している。
心做しか良い匂いがするし、マイナスイオンが出てるかも。
というか私はここにいて良いの?
「あ、昏水さんはほとんど初めましてみたいなもんだよねー」
「そうですね、初めまして昏水 紫雨です」
「初めまして、夜笹蘇枋でーす」
このイケメンは距離が近い。
目の前でにっこり笑われるとうっかり意識が遠のきかけた。
「梅酒ソーダ割りのお客様〜!!」
タイミング良く注文した飲み物が来て意識が引き戻される。
危なかった。
「あれ? 昏水さんも煙草?」
「いえ、酔い醒ましに」
夜風に当たっていたら夜笹さんが店から出てきた。
どうやら言動から察するに喫煙者らしい。
「煙草の煙平気ー?」
「気にしませんよ」
「そう? でもかかっちゃったらゴメンねー」
このイケメンも気遣いが出来るイケメンらしい。
なんだろう私、イケメンを種族だと思ってないか?
手持ち無沙汰に夜笹さんの喫煙姿を眺めていると、笑っていた時は分からなかったが、目は意外と垂れていないことに気付く。正面からの見た目は可愛らしい反面、横顔は綺麗だなと思った。
ん? 違うか。正面も整ってるから横顔も綺麗なのか?
「何見てんのー? やらしー」
ぼんやり眺めていたらいつの間に夜笹さんと目が合ってしまった。
ニッと笑われ、気恥しさにすぐ目を逸らす。
「……ごめんなさい、ぼーっとしてて」
「もしかしてオレに見惚れちゃってたー?」
あながち間違いでもないので押し黙ってしまうと、夜笹さんがけらけらと笑った。長めの赤い髪が風に揺れる。
「ジョーダン! ゴメンね、からかってー」
タバコを持ってない方の手で頭をぽんぽんと撫でられる。見た目に反して手が大きくて驚く。
あ、この人を好きになろう。
反射的にそう思った。なぜだかは分からないけど。
