平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ35(仮)
「じゃあおやすみ、昏水さん平子さん」
天崎さんがゴミ捨て場の前で、運転席から手を振って去って行く。
見えなくなるまで手を振ってから平子さんの方を振り返る。
「とりあえずなんでそないなったんかは家入ってから聞くわ」
「大した話ではないですが、了解です」
家に入ってから事のあらましをありのまま平子さんに話すと、明らさまにげんなりした顔をなさる。
「けったくそ悪いなァ。酒くらい行儀良う飲めんもんかいな」
「あはは、まあ何かムシャクシャする事でもあったんじゃないですかね」
「あはは、やないねん。オマエはもっと怒ったってええねんぞ」
オマエって初めて言われた気がする。深い意味は無いのかもしれないがびっくりだ。
「まあもう終わったことですし……」
私が苦笑いするとローテーブルの向かいに座った平子さんが急に身を乗り出してきた。
思わず身を引くと二の腕を掴まれる。
「あのっ」
平子さんの頭が私の視線より下がったかと思うと、首筋に生暖かい感触。ぞわぞわと上がってくる感覚に、反射的にぎゅっと目を閉じた。
「……麦酒か」
首筋を舐められたと気付いたのは平子さんがそう言って離れた後だった。
思わず首筋を押さえる。顔が赤くなってしまっている自覚はある。
「……な、何するんですか!」
「俺もムシャクシャしたから許したってや」
平子さんはシラっとした顔で"べ"と舌を出した。
ムカつく。
つまりはお酒をかけた人達を許せるなら平子さんも許せるだろ、と。逆を言えばお酒をかけた人達も許せるものじゃないだろうと、平子さんはそう言っているのだ。
かといってやることが酷い。
「仰りたいことは分かりました! 分かりましたけど、こういうのはやめてください!」
「へーへー」
今日はとことんこの態度で来る気なんだろうか。
私、そんなに何かしただろうか。
「それより腹減ったやろ。飯作ってあんで」
「うっ……いただきます」
ムカつくのにご飯に抗えない自分が恨めしい。
美味しくご飯をいただいて、お風呂も済ませて、すっかりお酒の匂いも取れてさっぱり。
あとは寝るだけである。
「……毛布のバリケード要らんやろ」
やっぱり撤去した犯人は平子さんでしたか。
「でも、私達そうそうくっ付いて寝る仲じゃないですよって前にも言ったじゃないですか」
「くっ付いて寝るくらいええやん、減るもんでもなし」
減るんだよ! 私のHPが!
「ええから今日もおいで」
キラキラしないでください!
そしてさり気なく毛布を投げないでください!
惚れた弱みとはなんとも厄介で、呼ばれるとどうにも抗えないのだから嫌になる。なんで平子さんはこんなに平気な顔をしてくっ付こうとしてくるんだろう。
せめてもの抵抗に背を向けて横になると、後ろから抱きすくめられた。私の後頭部あたりで平子さんが深く息を吸ったのまで分かるくらいに密着している。あんまり苦しくて、平子さんの腕をタップすると僅かに手が緩んだ。
「なぁ、この家って姿見無いん」
これまた唐突だな。
「ないですよ。大体洗面台で済ませちゃいますし」
「買おうや」
「え?」
ヤケに真面目な口調で言うものだからたじろいでしまう。平子さんは余っ程姿見が欲しいらしい。
「いいですけど……あと2日くらい待ってください。仕事があるので……」
「おう」
「でもなんで姿見なんて?」
正直私的には、普通に生活していたら案外必要ないものだ。
「俺の男前さを確認するためや」
「……」
「……冗談やで? 服見たいだけやん」
