平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ33(仮)
「……平子さんまたなんか怒ってます?」
「怒ってへん」
出た出た怒ってるのに怒ってないとか言うやつ。
こういう時は多分何をやっても駄目だ。
「そういえば平子さんて敬語も使うんですね」
「アレは…… 紫雨の職場の人間やろ? 下手な態度取られんやんか」
「え、私のこと気にしてくれて敬語だったんですか? ありがとうございます!」
レアな敬語に盛り上がってしまい、気遣いかどうかなんて気にもしていなかった。けれど、平子さんが私の職場の人間だからと気を遣ってくれたのが、なんだかとても嬉しい。
「……そないなことより早よ寝る準備すんで」
平子さんは、御機嫌にニコニコしている私を怪訝そうな顔で見ながらそう言って、ご飯の準備をし始めた。私も直ぐにそれに倣う。
今日は豪快に鶏腿肉ステーキだ。フライパンからはじゅうじゅうと、如何にも美味しそうな音がしてきて食欲を唆る。
"ぐぅ〜"
垂れてきそうな涎を我慢していると、私のお腹がなんとも間抜けな音を立てて空腹を主張した。
それを聞いた平子さんは一瞬きょとんとして、ふっと眦を下げて笑う。
「ホンマ食いしん坊さんやなァ」
ん"ん"。
不意打ちでそれはずるいんですが!!
最近の平子さんへのイライラとは裏腹に惚れた弱みが発動してしまう。
どうしてそんなに優しく笑うんですか、困ります。
常備菜をレンジに突っ込みながら下唇を噛んでときめきに耐える。
今は軽率にメロついてる場合じゃないんですよ。正直まだ怒ってるんですから。なんて思いながら、平子さんが炊いておいてくれた炊飯器のお米も混ぜる。ちょっとぐちゃぐちゃになったかもしれないが気にしていられない。
そんな私を他所に平子さんは着々と晩御飯の準備を進めていく。ローテーブルにはもうほとんどおかずが並んでいた。早くお米を盛らなければ。
「あちっ!!」
「どないした!?」
慌ててお米を盛ろうとしたせいで熱々のお釜に手が当たってしまった。
私が軽く涙目になっていると、平子さんがすかさずお茶碗としゃもじを私から取り上げて水道へ誘導してくれる。冷たい流水に当たりながら「今度は火傷かぁ……」と増えてく傷に溜息を吐いた。
「なに溜息吐いてんねん……溜息吐きたいんはこっちやで」
後ろ斜め上を見上げるととんでもなく呆れ顔の平子さん。世話が焼けるとお思いなことだろう。大変申し訳ない。
「いやぁ、すみません……」
「ちゃうちゃう。謝らんでええから、もうちょい気ィ付けたってやァ」
と言われましても、どう気を付けたら良いのか全くもって見当がつきません。
「……今、『どないしたらええんか分からん』て思うたやろ」
ジトっとした視線が刺さる。
なぜにそんなに鋭いのですか平子さん。
「一生懸命目ェ逸らしたかて分かんでェ。自分、余所事考え過ぎやねん」
「……はい、否めません」
だって、そりゃあ大好きな平子さんがうっかりときめかせてくるのだから仕方がないじゃないですか。
なんて流石に言える訳もなく、素直に頷く。
「……お小言言いたいんちゃう。紫雨が心配やから言うてるんやで」
わあ。
だから、それなんですよ。
それやめてください。
好きでもないのに。
そうだ、好きでもないくせに。やめてほしい。
なんだかもう無性に悲しくなってきた。
俯き、ひたすら流水に冷やされている手を見つめる。
そう、この人は好きでもないのに私にキスをしたりする人なのだから、うっかり絆されている場合ではないのである。
やっぱり他に好きな人を作らなければならぬ。
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