平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ32(仮)
目が覚めたら朝でした。
昨日のことは夢かしら。
いや、現実だな。
アラームで目覚めた私はまた平子さんの腕の中。
だがしかし、いつもなら可愛く思うはずの寝顔を今日は引っぱたきたいし、呆れている。
まだ眠っている平子さんを放っておいて朝ご飯の準備に取りかかる。どうせ準備をしていると起きてくるのでいいのだ。
昨日のことはもちろん許していないので少しくらい雑な態度になってしまっても許されたい。
「……おはようさん」
案の定、少し遅れて起きてきた平子さんが台所に来た。
昨日のことを悪いとは思っているのかどこかバツが悪そうに見える。
「……おはようございます」
本当は無視してやりたいくらいだが、そうも出来ない性格が恨めしい。
そのまま軽く朝の身支度を済ませた平子さんが、朝ご飯をローテーブルへ運んでいく。
「「いただきます」」
いつも通り揃って手を合わせて食べ始めるが、今日は雑談がなく、ただ静かにご飯が減っていくのみ。
自分もツンケンしているというのに吐きそうなほど気まずい。
少しでも早くこの空気を脱したくて黙々と食べる。
「ご馳走様でした!」
自分のお皿をまとめて下げて、出勤準備に取りかかった。
「……なァ、また仕事やんな?」
「へ? ……はい」
急になんだというのだろう。振り返るとどこか不安そうにも見える顔をした平子さん。
「また遅うなるようなら迎え行こか? 近いんやったら今から一緒に行ったら道覚えれるし」
正直驚いた。
そんな発想もなかったから。
「……でも私、怒ってますよ?」
ジト目で見ながら口を尖らせてそう言うと平子さんは目を逸らした。
「……悪かった」
「……はい、でも三度目はありませんから」
「……迎え行ってもええか?」
やっぱり食い下がる平子さんに半ば溜息を吐きながら承諾する。
正直、遅い時間なので迎えは至極有難かった。
「じゃあ、職場ここなので! ……帰り道分かります?」
「分かる分かる。ほぼ真っ直ぐみたいなもんやん」
「なら良かったです」
「それより、終わったらちゃんと連絡しーや」
平子さんと共に職場まで歩いて、店の前で手を振って別れる。
さて、ブラック労働の始まりだ。
「だあ……」
今日も今日とてハードでした。
ロッカー前でエプロンを外しながら、忘れないよう平子さんにメッセージを送る。
「終わりましたよ、っと……」
「お疲れ様、昏水さん」
今日も残業仲間の天崎さんが遅れてロッカールームにやってきた。さっきまでレジ締めをしていたようだ。
「お疲れ様です」
「今日も昏水さんが嫌でなければ送って行こうか?」
「いえ、毎度毎度悪いです。それに今日は人と帰るので」
天崎さんには以前から遅くなるとちょくちょく送ってもらっていたためそろそろ申し訳ない。大したお礼もできていないし。
「いいよいいよ。なんならその人も一緒に乗せてってあげるから」
ぐぬぬ。
こうまで言われると断れない。
「で、なんやねんこの状況」
隣にいる平子さんが小声で耳打ちしてくる。
「仕方ないじゃないですか、平子さんのこともまとめて送ってくれるって言うし……」
こそこそと返すと肘鉄された。地味に痛い。
「いやあ、昏水さんのお友達さんかっこいいですねぇ」
「あー、どうもおおきに……」
なんだか平子さんが天崎さんのコミュ力に圧倒されている? 記憶の中では平子さんも充分コミュ力オバケだった気がするのだけれど。
「確か昨日もいらっしゃいましたよね、暗くて見えなかったので人違いだったら申し訳ないんですけど」
「そうですね、おりましたわ」
平子さんの敬語? なんだこのレアな状況は。
「仲良いんですねぇ。あ、もう着きますけど二人とも昏水さん家で降ろしちゃって大丈夫ですか? もし行く所あれば送りますけど……」
「構いません」
私が口を挟む間もなく平子さんが敬語で返答していく。
レアなので聞いてられるのは耳福なのだが、なにか怒ってらっしゃる?
にっこり頷いた天崎さんがまたゴミ捨て場前に停車してくれる。
二人してお礼を言って降りて、私だけいつものように運転席側の窓に回った。
「ありがとうございました、天崎さん」
「いえいえ」
にっこり笑う天崎さんの八重歯が街灯の明かりで光る。漫画のキャラみたいだなとぼんやり思った。
「あ、でも」
ちょいちょいと手招きされ、一歩近付く。
「僕、もしかしてお友達さん怒らせちゃったかな? ……それに、その頬っぺたの怪我、もしかして関係ある?」
天崎さんが小声で心配そうに聞いてくる。
私は小さなガーゼを貼った頬をなぞった。
やっぱり天崎さんもそう思ったのか。
平子さんも態度が少し刺々しかったし、誤解を受けるのも仕方なかった。
「怒っているかもですが、怪我は別の理由なので大丈夫です。むしろすみません」
「なら良かった。いや、僕は良いんだよ。じゃあおやすみ」
そう言うと天崎さんは仕事後とは思えぬほど爽やかに去っていった。
