平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ23(仮)
口を離した時、紫雨は真っ先に深呼吸をした。
終話ボタンを押して、それから静かに泣いた。
「……すまん」
「……私が可哀想な女だからですか? だからこんなことするんですか?」
紫雨は泣きながら、悲鳴を上げるようにそう言うた。
そないなつもりはなかった。気ィ付いたらそうしとった。しゃーけどそれが弱みにつけ込んどるように見えたやろうことは事実やった。
「ちゃうねん……思うてもないことでなんべんも謝らなアカンのどないに切ないやろォ、て見とったら身体が勝手に動いててん……」
「だからって、あんなことするのどうかしてますよ!!」
紫雨の悲鳴みたァな声は、なるほど母親の金切り声に確かに近かった。親子やなと思う。それと同時に紫雨のンはどうも嫌いやないなと思うた。場違いな思考をしとることは分かっとった。
「ホンマにすまんかった」
なんであんなことしたんか俺にもよう分からんかった。「もうそない謝らんでええのに」と思うたことまでは覚えとる。
「……ちょっとしばらく許せそうにありません」
「……すまん」
当たり前の反応やった。
ただ慕っとるだけの相手に突然あないなことされたら誰でも怒る。しかもやった俺にも理由が分からんときた。謝る以外どないしょもない。
紫雨は頑なにそっぽ向いとる。自業自得やけど、あんだけ懐いてきとった紫雨に拒絶されるんは存外堪える。張り飛ばされんかっただけまだましやろか。
平子さんが分からない。
突然あんなことするなんて、そんな人だと思っていなかった。混乱で頭が回らない。
どう考えてもそれ以上に考えることがあるはずなのに、私は自分のファーストキスが苦い思い出になったことが頭から離れなかった。大好きなはずの平子さんを盛大に詰りたくなった。罵倒したくなった。
正直、私だってこんな気持ちになるとは思ってもみなかった。大好きなのだから、もしキスされでもしたら嬉しくて死んでしまうのではないかと思っていた。
それがどうだろう。何故こんなにもイライラするのだろう。
まあ元はと言えば好きでもないのにキスなんてする平子さんが悪いのだ。
……好きでもないのに??
好きなら良いのだろうか。
いや、なんだかそれも違うような気はするが、そもそも聞いてみたこともないな、と思い至る。
少しはこのモヤモヤも軽くなるかもしれない。
「……平子さんて私のことが好きなんですか?」
すぐにキョトンとした顔をされる。
また少しイライラした。
「……それはどないな意味で……?」
「どーもこーもありませんよ。キスするような間柄の好きなら一つしかないでしょう」
感情のままにそういうと、平子さんは口元を被って俯き、何やら考えているそぶりを見せた。
「……いや、多分それやったら、違う……と思う」
違うんかーい!!!!!!
心の中で過去最高レベルのツッコミを入れた。
呆れすぎて頭が痛くなってきた。
この人はそういう意味で好きなわけじゃない人にあんなキスをするのか。
「……あのですね、平子さん」
「お、おう」
「あんなことは恋人とか、そういう意味の好き同士でしかしちゃいけないんですよ? 分かりますか?」
なんで私より何倍も年上の平子さんに、幼稚園児にするようなお説教をしなきゃいけないんだろう。
「わ、分かっとる……多分」
「多分、多分て……」
おっといけないお口チャック。
お小言が行き過ぎるところだった。
「……兎に角、お分かりいただけたならもう良いです。仲直りしましょう」
ちゃんと仲直りしとかないと今夜が気まずい。喧嘩したままセミダブルで並んで寝るなんて無理である。
「お、おおきに、ありがとうな」
平子さんはあからさまにホッとした顔をした。
見た目よりも深く反省していたのかもしれない。
それを見て私も、強ばっていた身体からやっと力が抜けた。
そして平子さんも別に完璧超人な訳ではないことが理解出来て、頬も緩んだ。
私はここにきて初めて、"平子真子"という"個人"を好きになったのかもしれなかった。
