平子真子逆トリ(仮)
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平逆トリ20(仮)
抱き枕事件再来!!
からの目覚めは存外スッキリとしたものだった。
雷の日の後はいつも朝も疲れが抜けないのだが、今日は違っていた。更に言うなら私は平子さんの腕の中にいるというのに妙に落ち着いていて、日向ぼっこでもしているかのような穏やかな気分だった。
そしてなんだか昨夜はまた平子さんの雰囲気が違った気がする。
「……おはようさん」
「おはようございます」
ぼんやり平子さんを眺めていたら薄く開いた琥珀色の瞳と目が合い、掠れた声で朝の挨拶を交わす。
「天気ようなったな」
「そ、そうですね」
子どもを宥める時の様な優しい声と瞳で平子さんが話しかけてくる。オマケに頭を撫でてくださった。
平子さんが私めの頭を撫でてくださった!!
思わずどこぞの妖精さんの口調が出そうになる。
今日の平子さんはいつも以上に優しくないか?
優しすぎてちょっと怖い。
俺は気付いた。
紫雨は俺に惚れとんのとちゃう。
言うなれば憧れの対象っちゅうやつや。
昨日の質問への返事で確信した。
一人でヤキモキしとった時間を返してくれ。
惚れてるんやったら余計欲の対象にしたらアカンよな、とかそれでもドキドキするやんな、とか慌てふためいとったのが阿呆らしゅうなる。無邪気に慕われとるとなるとそんなん全部考える必要もあらへん。
ただ普通に優しゅうしたったらええだけやった。
昨夜も俺の態度が変わったんが伝わったんか、急に警戒心無く腕ン中ですやすや眠っとった。
猫みたいやな、と思うた。
今朝も落ち着いた様子で、撫でたらゴロゴロ喉でも鳴らしそうな顔しよるからやっぱりオモロい。
「朝メシなんにしよか」
「今日は気分が良いので鯖焼きます」
「ほしたら俺は卵焼き作るわ」
向けられとる感情の正体に気付いてから恐ろしく穏やかや。
二人して台所に移動して朝の身支度を軽く済ませて、朝メシに取り掛かる。
「米は?」
「冷凍あります!」
「チンしといて」
"ゴンッ"
突然、玄関扉から異音。
立て続けに扉が殴られとるよう。
「なんやコレ……」
隣におる紫雨に目を向けると、青い顔してガタガタ震えとった。しかし俺の目線に気付くと途端ににこりと笑う。
「多分知り合いなので、平子さんは部屋で待っててください」
「お、おん……」
よう分からんまんま言われたように俺は部屋へ移動する。俺がおることがバレたら都合が悪いんやろうことだけは分かった。
少しして扉の開く音と話し声が聞こえる。
どうやら相手は男。しかも怒鳴っとる。穏やかな会話やないのは察した。
"ゴッ"
扉の時とは明らかに違う異音。
嫌な予感がする。
出て行っては不味いことはよう分かっとったが、反射的に身体が動いた。
「紫雨!!」
扉を開けた先に見えたんは、恰幅のエエ男に髪を掴まれてへたり込む紫雨。男の指に嵌っとる指輪に血が付いとるのが見えた瞬間、早足に距離を詰めて男の腕を捻りあげた。男が呻くが更に強く捻りあげる。
「わ、分かったから離してくれ!」
そう男の口から出てきて初めて手を緩めた。
「誰か知らんけど早よいねや」
今湧き上がってきている怒気をあるだけ込めて言い放つ。そのまんま男を突き飛ばして、ドアを直ぐに閉めた。鍵とチェーンも忘れずに。
「……大丈夫か?」
紫雨はまだへたりこんだままでピクリとも動かん。よう見ると頬が切れて血ィが出とる。
とりあえず玄関にずっとおるわけにもいかんし、と抱き上げてベッドに運んだ。直ぐにガーゼと滲みる消毒液を用意する。
「滲みるで」
あれほど滲みる消毒液を当てられても紫雨は顔色一つ変えずに焦点の合わん目で床あたりをぼんやり眺めとる。
とりあえずガーゼを頬に貼り、他に怪我は無いか確認した。
「何があったんや?」
「……お父さんが、仕事休んでいることを知って、それで……」
「ほんで殴られたンか」
紫雨がこくりと頷く。
拳を握り締めて、下唇を噛み締めとる。泣くのを我慢しとるんやってことは誰が見ても明らかやった。
俺が出来ることと言えば一つしかなかった。
「泣いてもええ、いくらでも泣き」
背中に腕を回して上下に撫でながらそう言うと少しして耳元で、押し殺したすすり泣きが聞こえた。
こんな時まで我慢するのが癖になっとるんやとよう分かった。
