破面篇
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甘いのは甘味だけ
グイと手を引かれる感覚に、極自然に目を覚ます。
私の身体の下には幾度も御世話になった四番隊のベッド。
「お早うさん」
目の前には、私の手を握る平子隊長。
頰が冷たい。目頭が熱い。
困惑した頭のまま、目覚める前と同じ様に私は泣いている。
何が起きたのか、何を言えば良いのかも分からない。
ただ、嬉しかった。
握られた手から伝わる体温は紛れもない本物で。
帰って来れたのか、あれは夢なのかも、もう気にする余裕はなくて。
「たい、ちょう……」
今、私は相当酷い顔をしているだろう。
鼻が詰まってきちんと発音出来なかった呼びかけに、平子隊長は眦を下げた。
「今度はオマエが他所行く前に迎えに来たったで」
はい、と返事をしてもつっかえて上手く言葉にならず、只管頷く。
「そないに嬉しいか。そーかそーか」
嬉しい。
嬉しい以外に何も頭に浮かばない。
ずっと鼻をすすりながら頷いてばかりの私の頭を、平子隊長の右手がわしゃわしゃと撫でる。
「百年前かて、そうやって素直に泣いたら良かってん。全部抱えて、一人で無茶して、よう見てられへん。心配で心配で、こっちは息も碌に出来んわ……」
「ずびばぜん……」
「……いや、鼻詰まり過ぎやろ。ほれ、鼻かみや」
隊長の渡してくれたチリ紙で有難く鼻をかむ。
鼻をかむ音が響く、何とも色気のない再会だと自分でも思う。
「……平子隊長……あの」
「何や、鼻かんだ紙は流石に代わりに捨てたらんで」
「いえ……その……有難う、御座います」
夢? の中では素直に縋り付けてしまった勢いでうっかり告白をしかけてしまい、即座に無難な御礼に切り替える。
危ない危ない……。
御礼を言いながらヘラリと笑った私に、少しだけ目を見開いた平子隊長は、なんと、意外なことに飛び切り甘く微笑んだ。
途端に顔が熱くなるのが自分でよく分かる。
「有難うも何も、俺が待ちとうて待っとったんやからええねん。……あの日は言い損ねたけどな、俺は……オマエが好きなんや」
「はっ?」
いや、鼻をかむとかそんなんではなく、今の私は最高に空気を読めていないと断言出来た。
今何と仰りましたか平子隊長。