破面篇
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夜半の月
すっかり陽が落ちたが、家には帰りたくなかった。
幸いにもこんな時間でも大通りは街灯で明るく、人通りも多い。
もしも今日がトリップする直前ならば、帰宅したところで私は死ぬだけだ。
空腹は、財布にあったお金で百円の御握りを食べて凌ぐ事にした。
口を開くと、冷たさを増した風が肺をキュッと絞る。
もう、独り言を言う事すらも苦痛と言えるだろう。
ただひたすら、ぼうっと辺りを見渡して、寒さから意識を逸らす。
「……あ、……え……?」
何気無く視線を向けた雑踏の中、遠くで金糸の髪が揺れた。
"平子隊長"
金の髪を見て真っ先に浮かんだのが隊長の顔。
我知らず私は走り出していた。
夢から醒めてしまった。
でも私はヒロインではない。
だから、夢を糧に現実を前より前向きに生きていく、なんて無理で、無謀だった。
嗚呼、なのに貴方という人は、またここで夢を見させるのか。
懐かしく恋しいあの背中が人混みに紛れて見えた。
そんな訳ない、錯覚だ。
私は否定をするのに。
あの人の背中を追うのに慣れてしまったこの身体は動いてしまう。
必死に走って、走って。
でも、人にぶつかって、また目が覚めた。
何を縋っているのか、自嘲気味の笑いが溢れる。
「ホンマ、オマエは難儀なやっちゃなァ」
一瞬身体が強張るが、幻聴だ、遂に幻聴まで。
「ちゃーんと付いて来んかい。その諦め癖、そろそろやめや」
手を、掴まれた。
知ってる様でまるで知らなかったその手が、有る。
夢ではないのか。またしつこく夢を見せようと言うのか。
期待して落胆するのはもう疲れたんです。止めてください。
そう言いたいのに声が出ない。
見慣れてしまった意地の悪い目と目が合ってしまったのだ。
呆れた様に微笑うその顔を見てしまったらもう駄目なのだ。
「迎えに来た」
嗚呼、神様。私は誤解をしても構わないのでしょうか。
自惚れても、良いのでしょうか。
出ない声の代わりの様に、後から後から、止め処なく涙が溢れて。
もう、前が見えない。
夢など有り得ないと、信じていたのに。
焦がれて、否定した、貴方の体温はやはり柔らかくて甘かった。
めんどくさい方が好きですか平子隊長。