破面篇
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落日
寒さに身震いして目が覚めた。
泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。
目を閉じたままでも、自らの周囲の様子が先程までと違うのがよく分かる。
ガヤガヤザワザワと沢山の人の気配。
食べ物の匂いや、香水、煙草、時折酒の匂い。
ベンチらしきものに腰掛けて居る私の前を誰かが通り過ぎる度に、冷たい風が頰と膝を撫でて行く。
急激な環境の変化に不安を覚えた私は、微かな痛みに耐えつつ腫れぼったい目蓋を持ち上げた。
「……は、」
直後、目に入った景色に思わず唖然として、開いた口から小さな息が漏れる。
建ち並ぶビル。
コンクリートで舗装された道路。
洋服を着て行き交う人々。
見慣れたコンビニ。
明らかに尸魂界ではない風景。
そうだ。
"見慣れた"コンビニ。
現世ならまだ良かった。
でも、これは"現実"だ。
あの世界に行く前に、私が生きていた街。
「今更、何で……」
いや、理由ならいくつか思い付かなくもない。
その最たるものが"市丸ギンの生存"。
本来筋書きに無い大きな展開の変化を、誰かが許さなかったのだとしたら。
「……私は、あの世界から追い出されたのか」
無理な介入は修正される。
分かっていた、理解していた。
けれど、
生きる筈の人が容易く死ぬ事は容認したくせに、
死ぬ運命は変えてはいけなかったのか。
そして、もう一つの可能性。
私はあの世界で死んだからこちらに戻った、という仮説。
卍解をして少ししてから記憶が無い。
卍解が解けて藍染に斬られた、とも考えられる。
「どちらにせよ、事実確認の方法は無いし……何が何だか分からない……」
久々に訪れた纏まらない思考に頭を抱えた。
溜息とともに視線を落とせば、自らが身につけている黒い学生服と死ぬ前に好んでいた前下がりのボブヘアの横髪が目に付く。
死覇装も、斬魄刀も、いつも結っていた長く伸びていた筈の髪さえ、あの世界にトリップする前の状態。
"お前の百五十年は全て虚構の夢だったのだ"
そう突き付けられた気がした。
ポケットを探ろうと、鞄を開こうと、あの世界で生きた自分を証明してくれるものの無さだけを思い知る。
「全部夢だったら……何て、今は言えないな……」
私の生きた百五十年は何処にも無い。