破面篇
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雨垂れ穿て 姫椿
うちの隊長は変だ。
他所の隊長も確かに変わり者がいるけれど、特に変だと思う。
以前まで目立たないぼんやりした四席で、席官であることが不思議なくらいだった。
それが愛染隊長の一件から、急に人が変わった様に凛とした佇まいで隊の混乱を治めてしまったのだ。
しかしその後は、真面目に職務を熟しているかと思えば突然サボり、おやつが食べたいと喚き、挙句に現世に行きたいという。
まぁ、全て私が
「だ、め、で、す」
と言えば、ヘラっと笑って大人しくなるのだが。
ぼんやりしているかと思えば厳しい目をしたり、次の瞬間には眦を下げたり、本当によく分からない御人なのだ。
分かることといえば、書類処理が得意なこと、苺大福が好きなこと、執務室や隊首室では絶対に喫煙しないこと、隊舎裏の庭沿いにある縁側が御気に入りの場所であること。
それから、よく笑う。
けれど、御一人でいらっしゃる時はいつも寂しそうな背中をしていて、何故か放って置けない。
そのままにしておくと煙の様に消えてしまいそうで。
つい、声をかける。
「空を見ても苺大福は降って来やしませんよ」
そうすると必ず振り返って、嬉しそうに笑う。
「いいや、代わりに五席が降って来た」
変な人だけど、どこか憎めないのはあんな背中をしておいて変わらず笑うせいなのか。
この背中に何があるのか、その目の奥で何を考えているのか。
隊長の心の内は今日も分からない。
取り敢えず今言えることは一つ。
「隊長……いい加減、私の名前覚えて下さい……」
暖簾に腕押し、糠に釘……。
何度名前を教えても"五席"と呼ぶ。
懲りずに名乗る私もどうかしているが、それが報われる日は来るのだろうか。
雨垂れが石を穿つ様に、この人の心に、私の声が。