過去篇
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結局その後も、ひよ里さんに鈍い鈍いと言われながら、隊舎への帰路に着いた。
もう陽が傾き、紫がかった雲間に薄っすらと月が覗いている。
別れ道で手を振って、一人になると、急に煙草が吸いたくなって、懐の巾着から小さな
「少し、サボり過ぎてしまった……」
罪悪感から、ほんの少し猫背になりつつ門を潜り、こそこそと、まるでコソ泥の様に隊舎庭の縁側に移動する。
誰も居ないことを確認してから縁側に腰掛け、煙管に詰めた刻み煙草に火を入れた。
幾度か空へ煙を吐くと、自分の口から、小さな雲が立ち昇っている様に感ぜられて、思わず、くすりと笑ってしまう。
小雲製造機となった自分が少々ツボにハマり、次の刻み煙草を煙管に詰めようと、再び懐に手を入れた。だが、小さく息を吐いて、取り出しかけた刻み煙草を懐に戻す。
「覗き見は良い趣味とは言えませんよ、平子隊長」
振り向いて、廊下の角の向こうに声を掛ける。すると、予想通りの人物が、顰めっ面で現れた。
「覗き見なんてしとらんわ、今来たんや」
「はい、嘘です。私が煙草に火を入れた辺りから居ました」
中々居なくならないからこそ、諦めて声を掛けたのに、今来たばかりの訳がないのだ。
さらりと嘘を
「長々とサボっといて、ホンマ態度デカイわァ」
「休憩してもバチは当たらないと仰ったのは平子隊長ですよ」
言われた事をそのまま言えば、平子隊長はバツの悪そうな顔をして頭を掻いた。
「確かに、そやったなァ……」
それきり黙って空を見る。
並んで腰掛けた、掌一つ分の距離が妙に穏やかで、触れても居ない右半身が何故だか温かかった。