尸魂界篇
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君有りて幸福
「只今、彼岸花」
今日はこの世界の空は分厚い雲で覆われている。
雨か、嵐か。
「遅い」
久しぶりの顰め面を愛おしく思う。
意図せず頰が緩むのを感じた。
「やっぱり、そっちのほうが"らしい"ね」
「そっくりそのまま返そう。お前は減らず口を叩くくらいが丁度良い」
腕を組んでそっぽを向く動作すら、なんだか懐かしい。
「ここは良いね、何を言っても心配しなくて良い。伸び伸び出来る」
ここでなら私は、外の様に演技をしたり気を張らなくて良いのだ。
「葵には会ってやったのか」
「葵は今日は返事をしないからまた明日にする。多分、引き籠ってるんだよ」
相変わらずだな、と彼岸花がボヤいた。
「御帰りなさいませ、
天竺葵は微笑む。
その姿は物腰の柔らかな女性。
地に付きそうな程に長い艶やかな黒髪からの芳香が、風に乗って私の鼻を
「只今、天竺葵」
天竺葵はざっくり例えるなら引き籠りで、こうして会いに来る事は少ない。
「今日は暖かいから散歩しようか」
「ええ、主様との御散歩は久方振りで御座いますね」
来る前は、この世界も彼岸花と同じ様に花が咲き乱れるのみかと思っていた。
しかし、小さな家が有り、小川が有り、からからと水車の回る音のするこの世界は酷く穏やかだ。
「主様、私と同じ名の花があちらに咲いているのです」
「また、見つけたんだね」
天竺葵の花は群生してはいないが少しずつ咲く。
それを探す散歩をするのが私達の楽しみなのだ。
「今日は何色だったの?」
「赤ですよ。ほら、あそこに」
天竺葵の指す方を見れば、小さな赤い花畑。
嗚呼、赤なら今は本当に調子が良いのだろう。
「可愛いでしょう?」
花畑に座り込む天竺葵の方が可愛いよ、なんて甘い言葉がつい出そうになる。
「うん、そうだね。とても綺麗だ」
いつも天竺葵との対話はこうして唯只管に穏やかに過ぎる。
この対話で何故、力が扱える様に成るのかは分からない。
しかし、彼女を笑顔にする事がきっとするべき事なのだと思う。
「主様、天竺葵は主様と再び会えて嬉しゅう御座います」
天竺葵の優しい声音に、私は微笑んで頷いた。