尸魂界篇
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春浅し
「紫游ちゃん、甘いもん食べ行こ」
「良いねぇ、そうしようか」
あれから百年、紫游ちゃんはぼんやりとした様子も減り、幾らか笑うようになった。
けれど、それはあの人が居た頃と違い、何の感情も感じない空虚な笑みで。
廷内を歩む足取りは、ふわふわと質量が無いかのように見える。
見た目の年齢こそそう変わらないが、昔より儚げになったその容姿はまるで、夢の中の人物ではないか、と錯覚する程に今にも消えてしまいそうだ。
以前は姉のようだったその言動も百年前より幾分幼い。
彼女を見る度に失くしたものは戻らないのだと、嫌が応にもそう思わされた。
「あ、乱ちゃん」
紫游ちゃんの視線の先を辿れば、甘味処に入ろうとする乱菊。
「あっ! 紫游さん、お疲れ様です〜!」
「いや、乱菊。ボクは無視やの?」
「あらやだ、アンタ居たの?」
乱菊の冗談は割と辛辣である。
そんな遣り取りを他所に紫游ちゃんは乱菊の手を握ったまま、今日は何を食べようかと店先の品書きを眺めているようだ。
「ねぇ、乱ちゃん! 私、わらび餅食べたい」
「紫游ちゃんも無視なんやね……」
ガックリと項垂れた。
二人して無視することもないだろうに。
ふふん、と鼻で笑う乱菊の様子に小さな悪戯心が湧き、ボクは彼女を素通りして紫游ちゃんの手を引く。
「ま、ええわ。ほんなら紫游ちゃん、一緒にわらび餅食べよ」
「アンタも充分、
「ああ、乱菊もおったんやね」
しれっとそう返すと、乱菊は腕組みをして溜息を吐いた。
ボクの些細な仕返しは乱菊にちゃんと効いたようで何よりや。
春は誰の歩みも待たず。