千年血戦篇
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饅頭怖い
涅隊長は約束通り解毒剤を作ってくれた。
しかし、御饅頭の形をしたそれを、私は平子隊長に渡せないでいる。
「犀峰隊長。それ、まだ御渡しにならないんですか?」
御饅頭片手に執務室の前で溜息を吐いていると、横から雀ちゃんが心配そうに覗き込んで来た。
「いや、今戻ったら散々揶揄われそうな気がして……」
思わず本音が飛び出す。
これは致し方ないと思う。
寧ろ今まで冷静に対応してたことを褒めて頂きたい。
「なんやそれ、饅頭か」
はい、事の元凶ォォォ!!
私は思わず眉を顰めた。
雀ちゃんとの会話に集中していたせいで、近付いてくる平子隊長に気付かなかったらしい。
振り返ればすぐ傍に長い金髪。
「そう、です……が」
「あげませんよ」と言いかけた私の脇腹を、雀ちゃんが肘で小突いた。
チラとそちらを見れば、今でしょうと言いたげな瞳がこちらを見ている。
いつするの? 今でしょ! ってか?
反射的に否定の形に開いた口を、何度かはくはくと開けて閉じて、私は再び掌の上の御饅頭に目を落とす。
確かに、今渡すべきなのだ。
道理として戻らないままで良い訳がないのだから。
渡す以外の選択肢は、本当はない。
そう自分に言い聞かせると、意を決して平子隊長に御饅頭を差し出した。
「真子さん。この御饅頭、差し上げます」
「? ありがとうな」
平子隊長は不審な私達の遣り取りに小首を傾げつつも御饅頭を受け取る。
これだけを見れば、何だか時期の外れたバレンタインデーのようだ。
「ほな、早速」
解毒剤の御饅頭を手にした平子隊長はするりと執務室へ入り、心做しかうきうきと長椅子に腰掛けた。
すぐに御饅頭の懐紙を開く。
私はゴクリと生唾を飲んだ。
きっとこれが固唾を飲むと言うのだろう。
ゆっくりと平子隊長の口に御饅頭が消えていくのを、執務室に入りながら横目で確認する。
「ごちそうさ……ん」
すっかり消えてから突然、再度の異変は訪れた。
"ボフン"と例えるしかない音と共に、細かい霊子の霧のようなものが辺りに拡がる。
途端に消化器をぶちまけたように視界が悪くなった。
「お?」
少しして、霧が晴れて来た向こうに見えてきたのはオカッパの金髪。背丈も先程より幾分高い。
「なんや。この饅頭、十二番隊のマユリのんかいな! えらい目遭うたわ!」
振り向いたウンザリ顔はやはりいつもの顔で、少しだけ、ホッとした。
「……最初から貰い物には警戒して下さい」