死神代行消失篇
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鈍い決心
トボトボと、腹を括って歩けばあっという間に着いてしまったレコードショップ。
その店先に立つ平子隊長を見て、私は、
「あ……」
土壇場になって尻込みした。
思い切り腰が引けた。
又はビビったとも言う。
長々と待たされ、やっと来た紫游は、あからさまに目が泳いでいる。
正直に言ってしまえば、ほぼ白目。
な〜んや、言い難い事言うつもりなんやろォけど……せやかて、その顔はナシやろ。
「はァ、明日は雨やろか」
呆れ混じりに小さく溜息を吐きつつ、厚い雲のかかり始めた空へと目をやる。
そうしてこちらから目を逸らせば、"好機を得た"と言いたげに顔色を良くした紫游がやっと口を開いた。
「平子隊長」
「おう」
雲行きを見る振りをしたまま、気の抜けた返事を返す。
「私は、別の世界から来て、藍染の裏切りについても初めから知っていました」
その言葉に、決して驚かんかった訳やない。
せやけど、同じくらいにスッと腑に落ちる自分も居って。
思たよりもずっと、俺の頭は冷静やった。
「で、それがどないした」
「え……あの……」
代わりに冷静さを欠いたのは、驚くべき事実を告げた紫游本人だった。
怒鳴られるとでも思っていたのだろうか、横目で見た紫游は困惑と安堵の両方が入り混じった表情で口をはくはくと開けたり閉めたりしている。
「ええから落ち着き。金魚みたァになってんで」
俺の指摘に、紫游は慌てて口元を押さえるが、既に後の祭り。
揶揄いたい衝動に駆られながらも堪えて、話の腰を折らぬよう言葉を継いだ。
「……俺は、オマエが今までのこと知っていようがいまいがどっちでもええ。別の世界の人間やって事もな」
立て続けに想定外の返答を受け、動揺を隠せない紫游が大きく目を見開く。
「なん、で」
「大事なんはな、"オマエが何をして来たか"や。俺の知る限り、オマエは良うやった。……せやから、そないな顔しな」
雲から目を外し、緩りと向き直った先の紫游は、またぐちゃぐちゃな顔をして泣いていた。
「……オマエのことやから、"自分が上手くやれば助けられたのに"とか何とか思てんねやろけどなァ、知っとるからてな、万能ちゃうねん。知っとるから何でも出来るっちゅうのは完全な思い上がりや。あっちこっちに手ェ出して、ほんで上手いこと誰も死なんように、なんて喜助でも出来へんねやぞ? どうにもならん中で、オマエは市丸も、ひよ里も、五番隊の奴等も、上手いこと助けて来たやないか。何を恥じる事があんねん」
嗚呼、平子隊長の言葉に一年前の夜一さんのくれた言葉が過ぎる。
"何もかもを拾おうとすれば必ず何かを取り零す"
そういう意味の言葉だった。
そして、その言葉で決心をしたじゃあないか。
私は、自分の知る未来を守ると。
私は揺らぎやすいこの決心を、きちんと守っていかねばいけない。
それが、私のやるべきことで、やりたいことなのだから。
「なァ、オマエがどんな世界を知ってようが、ココはオマエが百五十年生きて来た世界なんや。そない気張らんと、好きなように生きてええんやぞ」
そう言って頭を撫でる平子隊長の手に身を任せて、止まらない涙を私は只管拭い続けた。