過去篇
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息をする
そういえばひよ里さんの愚痴、聞いてあげる暇なかったな……。
もう粗方解決したんだろうけど。
最近自分のことでいっぱいいっぱいな気がする。物語が動く時期だからだろうか。それとも頭の悪さか。
全てが後手に回っている気がする。
飲み会帰りの夜道を一人、トボトボと歩く。
上を見れば、雲のない夜空に満天の星。おまけに月が綺麗で、酒に火照った頰を撫ぜる少し温い風が意外と悪くない。
うん。
よく考えてみたら、私が何かしたいというだけで、何もしないのが実の所は正解なのかもしれない。
嗚呼、スッと腑に落ちた。そういうことだ。
立ち止まって目蓋をぎゅっと閉じて、深く息を吸う。
呼吸なぞ常にしているというのに、意識して行った呼吸は酷く辿々しく。しかし、妙に私の心を落ち着かせた。
「五十年も、息をしてなかったのかもしれない」
「いや、しとらんかったら死んでるやろ」
ギクリとした。
一人きりだとばかり思っていたら、これまた私が注意力散漫だっただけらしい。
「いや、既に死んでますし。ストーカーしないで下さい、平子隊長」
この人、しょっちゅう
「アホ! ストーカーちゃうわ! ただ夜道は危ないし、送ったろうかなァ……っちゅう俺の優しさや」
自分で言ってりゃ世話無いぜ、ですよ隊長。
「それはどうも御親切に」
「今、失礼なこと考えたやろ……」
勘の良い隊長様は眉間に皺を寄せてジトーッとこちらを睨んでいるが、雉も鳴かずば撃たれまい……私も言わずば怒られまい。
「それにしても、いつの間に喜助と仲良うなったんや」
「いえ、初対面ですよ? 多分」
「……アイツ、初対面であないな爆弾発言かましよったんか……」
あの浦原喜助のことだ、おそらく"面白そうだから
「ほんならひよ里辺りからなんや聞いたんやろなァ」
ホンマ、アイツは……とかなんとかぶちぶち文句を言いつつも、ひよ里さんとも浦原隊長とも仲良しなくせにー。
……ん?
「あれ? 今日は君坂五席は?」
ふと、いつも平子隊長と一緒にいる君坂五席の不在に気付いた。
今日だって、当然君坂五席を送って帰るのだと思っていたのだが。
「さてなァ、俺は知らへんで」
ふむ……。
まぁ、たまにくらいは私が平子隊長の側に居たって
「ホレ、ボサッとしとらんと早よ帰るで」
いつもの猫背で少し前を歩く隊長の姿に、なんとなし頰が緩む。
今夜この帰り道だけは、唯々、平子隊長の背中をまた見て居られる喜びに浸ろう。