その他短編
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「ねぇ、
あまりに唐突で不躾な質問だ。
手にしていた鉛筆の芯が折れてしまった。これは後で削り直しておかなければ。
一呼吸吐いて、悲壮感溢れる折れた鉛筆を文卓の端に置く。
そうして私は文卓に背を向け、二十年来の親友の前に居住まいを崩した。
その親友はと言えば、不躾な質問をしておきながら私の愛猫を膝に乗せたまま、器用な指で卓袱台に折鶴を量産している最中の様だ。
「これはまた唐突に何だと言うんだ、昏水」
この親友の名は
しかし、この正に色男と言った風体の親友は今まで私に今日の様な不躾な質問を投げかけた事はなかった。
「いや。なに、これは単純な話だ。私は昨日ね、キミにぴったりの女性に出会ったのだよ」
私は酷く戸惑い、目線を彷徨わせた。それでもどうにも落ち着けず、結局は文卓の上の愛飲している煙草に火を付けた。
「昏水、君は私を狼狽させてどうしようと言うんだい。今まで一度もそんな話はしたことがないじゃあないか」
「そう、私はキミがあまり色恋沙汰に興味のないことをよく知っている。ならばとキミに今日の様な話は確かに一度もしたことがない。しかしね大木、今回だけは赦してほしい」
昏水は優しく宥める様な声で話しながら、猫を撫でてやんわりと目を細める。
この親友の、この様な小さな仕草が女には堪らないらしい。
「分かった、茶を淹れよう。少し待ってくれ」
こう言う時の昏水は態度こそ変わらないものの頑固で決して譲らないのだとよく知っている。
いつの間にかフィルター近くまで吸ってしまっていた煙草を灰皿に押し付け、気は進まないながらも茶を淹れるために私は重い腰を上げた。
大木の住まいは然程広くもない木造畳張りのアパートで、今時の建物と比べれば随分古い方に入る。
そして古い造り故に中々立派な鴨居なぞがある訳だが、コレが大木には少々不便だった。
何故かと言えば、室内を歩く時に鴨居で頭を打ち付けてしまうのだ。
正にたった今も大木は額に衝撃を受けた。不便な鴨居だ。
だがしかし、コレらが全く鴨居だけの所為かと言えばそういう訳でもないのである。更にどちらかと言えば寧ろ鴨居に罪はない。
詰まる所、大木は大柄なのだ。それも随分と。
「大丈夫かい、大木」
恨めしげに鴨居を見やりながら額をさすっていると、居間兼仕事部屋からのんびりとした昏水の声がする。
「いつもの事だが何故鴨居をこう、低く造るのか。も少し高く造ってもバチは当たらないだろうに」
「仕方がないだろう、畳張りの家はどれも同じ様な造りさ。そもそもはキミが今時和服好きで、和服で住むなら畳張りが良いと譲らなかったのだから、こればっかりは我慢だよ」
振り向いて昏水を見ると、お上品に口を押さえて笑いを堪えている。
自業自得とも言える、自らの過去の軽率な行動を指摘された大木は、何とも言えない気恥ずかしい気持ちになった。悔し紛れに昏水を睨んでは見たが
「大木、キミは元々目付きが悪いのだからそんな顔をしても怖くはないよ」
と更に昏水に笑われる事となった。
「さて、本題だが。大木、キミは年齢は気にしない方かね」
昏水が熱い茶を啜って話し始める。
第一声がコレだ。茶を啜っていた大木は大いに噎せた。暫し咳き込み、改めて茶を啜って平静を取り戻す。
「その御人はとんでもなく歳上なのか」
昏水に訝しげな顔を向けると悪戯っぽい笑みを返される。
「おや、大木。歳上が好みかい」
「その言い方を見るに歳下か」
お代わりと言いたげに、目の前に出された昏水の湯呑みに茶を注ぎながら、大木は返事をする。
「そうだね、一部の男性の、夢とも言える年齢だ。プレミア、と言うのだったかね、こういうのは」
茶を啜った昏水は、長い指で、宙に円を描きながら、勿体ぶった口調で、下らない事を言う。
「態々、下らない事を言うな。君も、若さになど頓着しない質だろう」
大木の発言を受けて、一瞬ぽかんとした昏水は、再び、口に手を当てて上品に笑う。
「ふふふ、成る程、それもそうだ。では、率直に言おう。私の紹介したい彼女は高等学校生、つまりは女生徒だよ」
まさか、一日の内に二度も、茶を噴く羽目になるとは思わなかった。