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星墜しの

 きらり、光の粒が空を走った。あ、と声を上げたザンゲツに釣られたリオンも顔を上げたが、光は既に去った後。今日、アルケミストと楽し気に話していた誰かの言葉を思い出す。今夜は確か、流星群が見られると話していたな、と。
「りおん、見たか」
「いいや」
 流星なら見た事がある。獣もいない、寒さもないからと、屋根も木もない草原で寝転んで空を眺めた夜。眠たくて薄目で見た空から、星がするりと流れ落ちた。見間違いか、と思って見つめた瞬間また流れたのでそれが流星だと分かった。
「また来るかも分からん、今のうちに願いごとを考えておけ」
「願いごとを?」
「ああ。星が流れている間に胸の内で唱えれば、その願いは叶うのだと。聞いたことはないか?」
「いや、初めて聞いた」
「流れ星ではなくとも、星に願いを託すのはよくある話ではないか?」
 よいせ、とザンゲツはその場に腰を下ろした。胸を反らして手を後ろにつき、また空を見上げる。今夜の月はとても細く、ザンゲツの表情までは読み取れないが、じっと空を見つめていることは分かった。
 熱心に願うことでもあるのだろうな。リオンもザンゲツの側に腰を下ろすと、以前そうしたように草原に寝そべって空を眺めた。ちらりと見たザンゲツも並んで寝転ぶ。
「流れる前から願いを託されるなど。星も、それは流れたくもなるだろう」
「……重かったのだろうか?」
「君が何を願ったのかは知らないが。何かに願いたくなるものが軽いとは思わない」
「我の願いが星を墜したというのなら……なんとも、申し訳ない話だ」
 一瞬声が揺れた気がしてザンゲツを見たが、星を見つめる目はしんと静かだった。
「そなたは、何か願いはないのか」
「新しい楽器が欲しい」
「ふ、そうか」
 短く息を吐いて笑われた。ザンゲツの考える願い事とは色が違うのだろう。新しい楽器など、本気で手に入れようと思えばどうとでもなる。そう簡単にはいかない願いを、ザンゲツは思い浮かべているのだろう。
 常日頃、アルケミストに訴えている言葉を思い出す。アルケミストにとっては、耳にタコができているだろうか。もしくは、全く相手にせず耳にも入っていないか。「この世の平定」は、ザンゲツにとって願いなのか使命なのか。気になったが、星を見上げる真剣な目を邪魔する気にはなれなかった。
「本当に……」
 逆に、ザンゲツが顔を傾けてリオンを見た。
「本当に、新しい楽器以外の願いごとはないのか、そなたは」
 先程星を見つめていた目で、今度はリオンを見る。ここには星はないぞ、と言いたくなる程の真剣な目で。
 迷ったが、首を振った。
「強いて言えば、星が見たい。今までと変わらない、綺麗な星空が。流れ星もあると尚良い」
「……なんとも、無垢だな」
「これ以上願いごとで星が落ちると空から光が消えてしまうからな」
「なんだ、我の願いの尻拭いか」
「もう少し良い言葉はないのか」
「はは、いやすまぬ」
 笑い、胸を揺らす。目を細めたザンゲツは、また空に目を戻した。先程のような真剣な目、というよりも、こぼれんばかりの光の粒を眺めているふうに目元は和らいでいた。
「……そなたの楽器が鳴らぬ夜も珍しい」
「今夜は草と風の音が綺麗だからな。この星空とよく合う」
 返事をするように、耳元の草がかさりと揺れた。
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