彼女の体温
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手汗が滲む。持っている箱の包装が、湿気でふやけないか心配になるほど。
廊下の冷気も、今夜は一段と肌を刺している。その寒さのせいか、緊張のせいか、私の体は酷く震えていた。
今すぐ自分の部屋に戻って、布団に包まれて安心したい。
そう考えるけれど、どれだけこの日を待ちわびたかを思い出して気を保っていた。
たどり着いた重厚な地下室の扉の前に立ち、震える手を堅く握って扉を三度ノックする。
「……何か用かね」
開かない扉の奥から、低く冷たい声が聞こえる。
少しでもいい、扉の隙間から暖かい空気がこちら側へ流れてくれれば。そんな淡い期待も沈んで消え去り、残ったのは微かに感じる頭痛とめまい。
早く暖かい部屋に戻りたいのに、会いたい人は出てきてくれない。箱を持つ手に力が入った。
「スネイプ教授、フラムです……少し時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「我輩は忙しい。今日中に、生徒達の失敗作の魔法薬を処分しなければならないのでな」
「受け取っていただきたい物があるんです。ほんの数秒でも、いけませんか……?」
「そんな暇はない。扉の前にでも置いていきたまえ。もっとも、それがゾンコの店で売られているような物ならば、今すぐ寮に戻って暖炉にでも放り込むがいい」
教授が、快く受け取ってくれるとは思っていなかった。わかっていたはずなのに。
間近で聞いた言葉が私の体を通り抜けていくと、寒さのあまり震えが止まらなくなった。立っているのもやっとなくらいだ。
顔はすでに熱を持っていたのに、それよりも目頭が熱くなって視界が滲む。
「スネイプ教授の迷惑になるような物では、ないはずです。でも、不要でしたら捨ててください……」
扉の前に、そっとプレゼントの箱を置く。黒地に白い花の包装紙が、暗い廊下に似つかわしくない。けれど、異常に映えているようにも見えた。
プレゼントは、教授のことを考えて実用的な物を選んだつもりだ。
たった一人で、暗闇の中を凛と立ち進むような、そんな後ろ姿に惹かれたのは随分と前のこと。何が起きてもぶれない芯の強さに憧れて、あんな強さが欲しい、と目で追うようになっていた。その気持ちが恋に変わるのに時間がかかるはずもなく。
そんな私の恋が実ることよりも、教授のことを考え想っている人間がいることを知ってもらえれば、たとえプレゼントが捨てられても構わない。
ふらつく体を壁に支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。それだけで、くらりと酷いめまいがした。
「ここに、置いていきます……失礼し、ます……」
心が寒くて体も寒い。それでも、体の奥の奥は燃えたぎっているように熱くて。足下もおぼつかない気がする。
暗いはずの廊下が、何故かチカチカと白く光っている。
世界がゆっくりと回って、再び暗闇に包まれた……ーー。