第7章 ~記憶の扉が開くとき~
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***
「こんにちは~」
「は~い」
高木の挨拶に、さくらがドアの向こうから返事をした。
ガチャ!
「あ、高木刑事! 佐藤刑事も! どうしたんですか? こんな所に」
白衣を着てネームストラップを首から下げたさくらがドアを開けた。二人の姿を見てやや驚いた顔をする。
事件の事は佐藤たちがここに到着した際、学校側に知らせた為、さくら達はその事実をまだ知らない。
「あ~、実は……。東都大の研究室に務める助手の方が、昨夜何者かに殺害されまして……。それで事情聴取をしに伺ったんです」
「「えっ!?」」
殺人事件と聞いて、そこに居た森教授や研究員達が一斉に佐藤達の方へ振り向いた。
「助手の方って…いったい、どなた…が…?」
険しい顔をしたさくらが高木に問いかける。
「島谷教授の研究室で助手をされていた、尾沼裕樹さんです」
「えぇッ! 尾沼さんが!?」
さくらの顔色がサッと変わった。
ガタタッ!
「ほ、星川さんッ!」
ふらついたさくらが壁にもたれかかる。近くにいた深田が、倒れそうになるさくらの体を抱き留めた。
「あ……ありが…とう…深田くん…、ご、ごめん…」
血の気を失った真っ青な顔で、さくらは礼を言う。
「とにかく座って下さい。立っているのはしんどいでしょう?」
深田はさくらの体を支え、近くにあったイスに座らせた。
「大丈夫ですか? 無理しない方が……」
「ありがとう…ちょっとめまいがしただけだから…しばらく休めば大丈夫」
深田の心配をよそに、さくらは青い顔をしたまま微笑んだ。
「東都大にはたくさん助手の方がいらっしゃいますが……あなたは尾沼さんをご存じなんですね?」
しばらく経ってさくらが落ち着つくと、佐藤が静かに訊ねた。
「え、ええ。島谷教授と森教授は同期で……。まあ、そのせいもあってよくケンカもするんですけど。研究員と助手同士はお互い行き来もあって、私が助手として入ったばかりの時は仕事を教えてもらっていました。
とても真面目な方で、島谷教授を尊敬していましたし、教授の研究の手助けをずっとされてきた方です」
「なるほど…」
高木はさくらの話を聞いて熱心にメモを取った。
「では、その真面目な尾沼さんがカジノにハマっているという話は聞いたことがありますか?」
佐藤はさらに訊ねた。
「カジノ? まさか! 尾沼さんはギャンブルにはまったく興味が無いと言ってました。むしろ毛嫌いしていたと思います。
あんなものに時間を費やすなら、教授の為に研究の下調べに使う…っておっしゃっていたこともありますから。でも何故カジノ?」
さくらが不思議そうに佐藤の顔を見る。佐藤は小さくため息をついた。
「どなたに訊いても同じ答えが返ってくるんですが……。実は彼が殺された現場が、違法カジノのあったナイトクラブなんですよ」
「違法カジノのあったナイトクラブ?」
さくらが眉をひそめる。
「ええ。捜査一課では尾沼さんがイカサマに気付いてそれが原因でトラブルとなり、殺されたのでは…と見ています。ただ何故ギャンブル嫌いの彼が、そのナイトクラブに居たのか、それが分からなくて」
佐藤は視線を落とし考え込んだ。
さくらも「尾沼さんがカジノ……」と訝し気に黙り込む。
その後も高木と佐藤は、その場にいた全員に夕べの行動を訊ねた。その度に高木は手帳にメモを取る。
その様子を横目に、佐藤はさくらに声をかけた。
「あの…失礼ですけど…。星川さんって私と以前お会いしたことありませんか?」
「え?」
さくらが不思議そうに佐藤を見る。
「ホームセンターでの強盗事件の時が初対面だと思いますが……」
「う~ん…そうですよね。でももっと前に…お会いした事があるような…」
佐藤が口元に手を当て考え込む。さくらはその姿をジッと見つめた。
(佐藤刑事…あなたとはほんのわずかな間だったけれど…警察学校で一緒だった。あなたが覚えているのはたぶん…私が学校を卒業する時——)
佐藤はさくらの半年後輩にあたる。警察学校では数か月だけ在籍が重なっていた。
本来、さくらは降谷たちと同期生として入学する予定であった。が、当時祖母の体調が思わしくなく、入学を半年遅らせた経緯がある。
さくら本人は祖母の体調が安定するまで看病をして、一年遅れで入学するつもりでいた。しかし祖母の強い希望で、半ば押し切られる形で秋期生として警察学校に入学。その数週間後に祖母の容態が急変し、帰らぬ人となったのだった。
あの時、祖母は分かっていたのかもしれない。自分の命が長くないことを。
私の事には構わず、決めた道を行きなさい——。
祖母なりの優しさだったのだろう。
入学時期が違えば、当然訓練も違う。
本来なら先輩後輩が顔を合わせることはほとんど無いのだが、教場やグラウンドへの行き来、不定期に行われる合同訓練や寮などで顔を合わせる可能性はある。
実際さくらも、教場への移動の時に落とし物に気付き、先輩である諸伏に声を掛けている。
ただ諸伏たちヤンチャ組が卒業後、学校の規則は一段と強化され、行動の制限は強まった。
そのせいもあって、佐藤とは顔を合わせる機会は無く、お互い面識はない。
あったとすれば——
さくらが主席で警察学校を卒業し、卒業生代表として壇上に上がった時くらいだ。
佐藤がその事を思い出せば、自分が警察官だとバレてしまう。それは避けねばならなかった。
「佐藤刑事、世の中には自分と似た人が少なくとも3人は居ると言います。もしかしたら、そのうちのどなたかと会ったことがあるのかもしれませんね」
「う~ん…そうかもしれない…わね」
決定打のない佐藤は結局何も思い出せず、さくらの言葉に納得するしかない。
「ごめんなさい。ショックを受けていらっしゃる時に、ヘンな事に時間を取らせてしまって…」
「いいえ。それより尾沼さんの事件、よろしくお願いします。彼がカジノなんて……やっぱり考えられなくて…。きっと何かわけがあると思います」
「ええ。必ず犯人を捕まえて、謎を解いてみせます!」
佐藤は力強く応えた。
佐藤たちはその後、全ての研究員と助手から事情聴取を終えると、礼を言って研究室を出て行った。
(違法カジノか。もしかして先日ガサ入れしたナイトクラブと同じ、アロン・モーリスの店なんじゃ……。後で風見さんに確認しないと……)
またしても、自分の近しい人が命を落とした——。
さくらは震える手をグッと握り閉め、二人の後姿を見送った。
「こんにちは~」
「は~い」
高木の挨拶に、さくらがドアの向こうから返事をした。
ガチャ!
「あ、高木刑事! 佐藤刑事も! どうしたんですか? こんな所に」
白衣を着てネームストラップを首から下げたさくらがドアを開けた。二人の姿を見てやや驚いた顔をする。
事件の事は佐藤たちがここに到着した際、学校側に知らせた為、さくら達はその事実をまだ知らない。
「あ~、実は……。東都大の研究室に務める助手の方が、昨夜何者かに殺害されまして……。それで事情聴取をしに伺ったんです」
「「えっ!?」」
殺人事件と聞いて、そこに居た森教授や研究員達が一斉に佐藤達の方へ振り向いた。
「助手の方って…いったい、どなた…が…?」
険しい顔をしたさくらが高木に問いかける。
「島谷教授の研究室で助手をされていた、尾沼裕樹さんです」
「えぇッ! 尾沼さんが!?」
さくらの顔色がサッと変わった。
ガタタッ!
「ほ、星川さんッ!」
ふらついたさくらが壁にもたれかかる。近くにいた深田が、倒れそうになるさくらの体を抱き留めた。
「あ……ありが…とう…深田くん…、ご、ごめん…」
血の気を失った真っ青な顔で、さくらは礼を言う。
「とにかく座って下さい。立っているのはしんどいでしょう?」
深田はさくらの体を支え、近くにあったイスに座らせた。
「大丈夫ですか? 無理しない方が……」
「ありがとう…ちょっとめまいがしただけだから…しばらく休めば大丈夫」
深田の心配をよそに、さくらは青い顔をしたまま微笑んだ。
「東都大にはたくさん助手の方がいらっしゃいますが……あなたは尾沼さんをご存じなんですね?」
しばらく経ってさくらが落ち着つくと、佐藤が静かに訊ねた。
「え、ええ。島谷教授と森教授は同期で……。まあ、そのせいもあってよくケンカもするんですけど。研究員と助手同士はお互い行き来もあって、私が助手として入ったばかりの時は仕事を教えてもらっていました。
とても真面目な方で、島谷教授を尊敬していましたし、教授の研究の手助けをずっとされてきた方です」
「なるほど…」
高木はさくらの話を聞いて熱心にメモを取った。
「では、その真面目な尾沼さんがカジノにハマっているという話は聞いたことがありますか?」
佐藤はさらに訊ねた。
「カジノ? まさか! 尾沼さんはギャンブルにはまったく興味が無いと言ってました。むしろ毛嫌いしていたと思います。
あんなものに時間を費やすなら、教授の為に研究の下調べに使う…っておっしゃっていたこともありますから。でも何故カジノ?」
さくらが不思議そうに佐藤の顔を見る。佐藤は小さくため息をついた。
「どなたに訊いても同じ答えが返ってくるんですが……。実は彼が殺された現場が、違法カジノのあったナイトクラブなんですよ」
「違法カジノのあったナイトクラブ?」
さくらが眉をひそめる。
「ええ。捜査一課では尾沼さんがイカサマに気付いてそれが原因でトラブルとなり、殺されたのでは…と見ています。ただ何故ギャンブル嫌いの彼が、そのナイトクラブに居たのか、それが分からなくて」
佐藤は視線を落とし考え込んだ。
さくらも「尾沼さんがカジノ……」と訝し気に黙り込む。
その後も高木と佐藤は、その場にいた全員に夕べの行動を訊ねた。その度に高木は手帳にメモを取る。
その様子を横目に、佐藤はさくらに声をかけた。
「あの…失礼ですけど…。星川さんって私と以前お会いしたことありませんか?」
「え?」
さくらが不思議そうに佐藤を見る。
「ホームセンターでの強盗事件の時が初対面だと思いますが……」
「う~ん…そうですよね。でももっと前に…お会いした事があるような…」
佐藤が口元に手を当て考え込む。さくらはその姿をジッと見つめた。
(佐藤刑事…あなたとはほんのわずかな間だったけれど…警察学校で一緒だった。あなたが覚えているのはたぶん…私が学校を卒業する時——)
佐藤はさくらの半年後輩にあたる。警察学校では数か月だけ在籍が重なっていた。
本来、さくらは降谷たちと同期生として入学する予定であった。が、当時祖母の体調が思わしくなく、入学を半年遅らせた経緯がある。
さくら本人は祖母の体調が安定するまで看病をして、一年遅れで入学するつもりでいた。しかし祖母の強い希望で、半ば押し切られる形で秋期生として警察学校に入学。その数週間後に祖母の容態が急変し、帰らぬ人となったのだった。
あの時、祖母は分かっていたのかもしれない。自分の命が長くないことを。
私の事には構わず、決めた道を行きなさい——。
祖母なりの優しさだったのだろう。
入学時期が違えば、当然訓練も違う。
本来なら先輩後輩が顔を合わせることはほとんど無いのだが、教場やグラウンドへの行き来、不定期に行われる合同訓練や寮などで顔を合わせる可能性はある。
実際さくらも、教場への移動の時に落とし物に気付き、先輩である諸伏に声を掛けている。
ただ諸伏たちヤンチャ組が卒業後、学校の規則は一段と強化され、行動の制限は強まった。
そのせいもあって、佐藤とは顔を合わせる機会は無く、お互い面識はない。
あったとすれば——
さくらが主席で警察学校を卒業し、卒業生代表として壇上に上がった時くらいだ。
佐藤がその事を思い出せば、自分が警察官だとバレてしまう。それは避けねばならなかった。
「佐藤刑事、世の中には自分と似た人が少なくとも3人は居ると言います。もしかしたら、そのうちのどなたかと会ったことがあるのかもしれませんね」
「う~ん…そうかもしれない…わね」
決定打のない佐藤は結局何も思い出せず、さくらの言葉に納得するしかない。
「ごめんなさい。ショックを受けていらっしゃる時に、ヘンな事に時間を取らせてしまって…」
「いいえ。それより尾沼さんの事件、よろしくお願いします。彼がカジノなんて……やっぱり考えられなくて…。きっと何かわけがあると思います」
「ええ。必ず犯人を捕まえて、謎を解いてみせます!」
佐藤は力強く応えた。
佐藤たちはその後、全ての研究員と助手から事情聴取を終えると、礼を言って研究室を出て行った。
(違法カジノか。もしかして先日ガサ入れしたナイトクラブと同じ、アロン・モーリスの店なんじゃ……。後で風見さんに確認しないと……)
またしても、自分の近しい人が命を落とした——。
さくらは震える手をグッと握り閉め、二人の後姿を見送った。