第2.5章 二人の遠出~温泉旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昴の車は雑木林の中の駐車場に停車した。
「ここに車を停めて少し歩きますよ」
「この山道の先に温泉があるの?」
「ええ。なんでも旅人が足をケガした際に、ここの湯につかったら痛みが引いた…という逸話もあるらしいですよ。あなたも私も今回ケガをしましたし、ゆっくりつかっていきませんか?」
「露天風呂?」
「そうみたいです。けど、混浴じゃないのでご安心を」
「それは良かった…。あ! でも昴さん…変装…どうするの?」
いつもは夜遅くに入浴して変装を解いている。
今はまだ真っ昼間。その上防水仕様ではないので、このまま入浴するわけにはいかない。
「向こうで他に人がいるようだったらトイレで変装を解きますから。その辺は上手くやります」
昴はニッコリと微笑んだ。
緩やかな上り坂を二人でゆっくり歩いていく。
「野鳥の声が聞こえますね」
「うん。あれはメジロのさえずりね」
「おや、りお詳しいですね。あ…カッコウが鳴いています。これくらいなら私も知っていますよ」
「カッコウは鳴くだけで、自己紹介しているようなものですからね」
クスクス二人で笑い合った。
ほかにもエナガ、ヤマガラなど、いくつかりおに教えてもらった。こんなことでも無ければ、りおが鳥の名前に詳しいなんて知らなかっただろう。
「小学校の担任の先生が野鳥好きだったの。授業そっちのけで良く散歩に連れて行ってくれる先生でね。その時にいろいろ教わったの」
カサカサと枯れ葉を踏みながら、懐かしそうに言った。
「どんなに小さくても一生懸命生きている。
だから鳥も、草花も、命あるものは皆大事にしなければいけない。そう教えてくれた先生だったわ」
「なるほど。りおが優しい理由が分かった気がします」
初めて聞くりおの子どもの頃の話。おそらく誰も知らない小さな昔話。
自分だけに話してくれることが嬉しかった。
「私、優しくなんかないですよ。特に今回は昴さんにもずいぶん心配かけましたしね」
「そういえばそうでした。前言撤回ですね。強盗には吹っ掛けるし、病院は抜け出すし、暴行動画を撮ると言い出すし…。あなたの心配をするだけで寿命が縮まるかと思いました」
ニヤリと悪い笑顔を向ける。
「ははは…ごめんね…」
りおは肩をすくめて謝った。
15分程歩いただろうか。
目的の小さな温泉にたどり着いた。
趣のある平屋の小屋がまるで隠れ家の様に建っていた。
入り口には小さな募金箱のような箱が置かれ、《入浴1回300円》と書かれていた。
どうやら無人の温泉のようだ。
小屋自体は建てて数年しか建っていないらしく、中に入ると水洗トイレや洗面所、休憩が出来るスペースが有り、とてもきれいな施設だ。
「誰もいないね」
「そうですね。観光シーズンでもないですし、平日の昼間ですからね」
とりあえず変装を解くのもするのも、心配いらないようだと分かって二人は安堵する。
「じゃあ、またあとで」
「ええ。後ほど」
ふたりはそれぞれ男湯と女湯へと別れた。
りおは脱衣所で服を脱ぎ、髪を結わえてタオルを持つとガラガラと戸を開けた。
白い湯気がもわ~~と立ちのぼっていた。
「わ~。すごい!」
そのまま備え付けの洗面器を持って湯をかけ、体を流した。
湯気の向こうでも、バチャバチャと湯をかける音が聞こえる。
「秀一さんかな?」
それにしても音が近いな…と思ったが、気にせず湯船に入った。
「ふぅ~~」
思わずため息がこぼれた。
温泉なんて何年ぶりだろう。
しかも外! 露天風呂! 人生で数えるほどしか入ったことが無い。
周りは高い垣根のようなもので目隠しがされている。それでも上を見れば青空と、葉が生い茂る木々が見えた。風が吹くとざわざわと木々の揺れる音がする。
「あ~…気持ち良い~~」
温泉の香りと草木の香り、そして土の匂いが疲れた心を癒してくれた。
程よく温まったところで体と髪を洗う。
泡を流して湯船に再び入ると、心も体も軽くなった。
広い湯船には自分一人しかいない。
思いきり手足を伸ばして入ることが出来る。
なんて贅沢なんだろう。
都心からそんなに離れていないのに、こんな所があったとは。教えてくれたコナンに感謝だ。
ひとりでのんびり温泉を満喫していると、突然風が強く吹いた。
周りを覆い隠していた湯気が、風に吹かれてス~ッと消えて無くなった。
「え?」
誰もいないと思っていたのに、そこには人影がある。
黒い髪。
引き締まった筋肉。
見覚えのあるシルエットだった。
「秀一さん?!」
「え? りお?」
何と脱衣所こそ男女に分かれていたが、肝心の露天風呂は繋がっていた…いや、同じだった。
赤井の腰ほどの高さの岩を背にして、お互い湯船に浸かっていたらしい。
「こ、こ、混浴じゃないって言ってたじゃない!」
「雑誌にはそう書いてあったんだが…。まさか分かれていたのは脱衣所だけとは…」
「仕切りくらいあるのかと思ったのに…」
「ああ。湯気で全く分からなかった」
気まずい時間が流れていく。
「まあ、裸はお互い見慣れているだろう。今更照れなくても…」
「いやいやいや! 他にお客さんは入って来たらどうするのよ」
「平日の真っ昼間だぞ。そうそうお客は来ないだろう。もし来たら俺が隠してやるから」
「秀一さんは自分の心配してください。お客さんが男だとは限りませんよ」
「ああ、そうか…」
言われてみればそうだな、と一人納得してしまう。
りおは恥ずかしさのあまり、首まで湯につかっている。
「りお、のぼせるぞ」
「うん…でも…恥ずかしくて…」
「まだ誰も来ていないだろう。俺しかいないんだから。恥ずかしがることないじゃないか」
「だってこんなに明るい時間に…裸だよ? 恥ずかしいに決まってるじゃない」
眉を下げ、困った顔をして湯に浸かるりおの顔がみるみる赤くなっていく。
「おい、顔真っ赤だぞ。そろそろ限界じゃないか?
意地を張ってないであがれ。
ケガの診察だと思えば良いだろ。腹の傷…見せてみろ」
「秀一さんはドクターじゃないでしょ」と言いながらも、さすがに限界だったのだろう。
りおは渋々湯からあがった。
タオルで隠して露天風呂のふちに腰かけた。
赤井は手を伸ばし、腹の傷が見えるようにタオルをずらす。
「ああ、やっぱり痕が少し残ったか。こうやって見るとまだ赤みもあるし痛々しいな…。
でもきれいにくっついているし、半年もすれば目ただなくなりそうだ」
そっと傷痕に触れた。
「ちょ、ちょっと! くすぐったいわ」
「すまん」
すぐに手を引っ込めた。
「秀一さんの肩の傷も見せて」
「え? ああ、良いよ」
赤井は体の向きを変え、傷が見えるように後ろを向く。
「傷、浅かったって言ってたけど深さがない分、傷自体は大きかったんだね。サバイバルナイフ…だったもんね…」
傷は少し隆起し薄茶色に変色している。その長さは10㎝以上あった。
キレイに塞がっているとはいえ、皮膚はまだ薄く痛みはあるのだろう。時々肩を押さえる姿を目撃していた。
今度はりおが赤井の肩の傷に触れた。
「ふッ! くすぐったいな」
赤井は肩をすくめた。
りおは手で湯をすくって赤井の肩にそっとかける。
「早く治りますように」
そう言って何度も何度も湯をかけた。
「ッ!」
そんな可愛らしい事を言われて、黙って見過ごすことなど出来なかった。
赤井は振り返るとその手を掴み、自分の方へと引き寄せる。自然と二人は湯の中へ…。そのままそっとりおにキスをした。
再び立ちのぼった湯気が、二人の姿を覆い隠す。
どちらからともなく舌を絡め、角度を変えて何度も口づけた。