第2.5章 二人の遠出~温泉旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
キムウジンの自爆後、ベルモットと電話で話をしてから数日が過ぎた。
残党による襲撃を警戒して、りおはまだ工藤邸で過ごしている。
オドゥム・黒の組織双方に『エンジェルダスト』を諦めさせ、オドゥムの幹部の右腕だった男を倒したことで、『長野の別荘潜入』から始まった今回の一件はひとまず収束した。
だが、このことで二つの組織の亀裂は決定的となり、新たな火種を生む結果となってしまった。
そのことに責任を感じたりおは、ひどく落ち込んでいた。
***
「ねえ、昴さん。さくらさんって…ずっとあんな感じなの?」
火曜の夕方、博士の家に来ていたコナンが工藤邸に顔を出した。
さくらはソファーに座ると膝の上にPCを乗せ、ずっと何かを調べているようだった。
「ええ。昨日組織のアジトへ出かけていって、ジンと会ったようですけど…。
『いずれオドゥムと決着をつける。そのための情報収集を今のうちからやっておけ』と言われたようです。それからずっとあの調子ですよ。
事態を少しでも良い方へと向けられないかと、躍起になっているようで…」
コナンはキム・ウジンの自爆の後、すべての事を赤井や降谷から聞いていた。オドゥムの残党を心配して、もう少しのあいだ身を隠した方が良いと進言したのも、コナンに他ならない。
「そっか…。自分のせいでって思っているのかな」
「そのようです。まあ今回の事が無くても、エンジェルダストをめぐっての抗争は、いずれ起きていたでしょう。さくらが気に病む必要は無いのですが…」
彼女の性格ですかね…。昴はそう言うとため息をついた。
「気分転換が必要かもしれないね」
そこまで言ってコナンはハッと閃いた。
「ねえ昴さん。今ってさくらさん、大学の仕事もお休みしてるんでしょう?」
「ええ。休職扱いになっています。森教授は公安の《協力者》ですから、その辺はうまく処理してもらっていますよ」
それを聞いてコナンは「ちょっと待ってて」と言って、かつての自室へと行ってしまった。
「これこれ!」
しばらくすると一冊の雑誌を持って下りてきた。
「昴さん、これ見て。東京からそんなに遠くないし、気分転換にさくらさんとココに行ってみたらどう?」
「温泉?」
そこには東京から1時間ほどで行ける温泉が、特集記事で載っていた。
「さくらさんのお腹の傷、だいぶ良いといってもまだ痛みがあるって言っていたでしょう? 温泉の効能にも《ケガの痛み》に良いってあるし。
今回は昴さんも肩にケガしたし…。
温泉以外にもちょっとしたハイキングコースがあったり、絶景ポイントもあるんだって。
さくらさんの体調が許す範囲で、二人でゆっくり出掛けてきたら? 灰原の事は僕やジョディ先生達に任せておけば大丈夫だよ」
記事を読みながら、昴は藤枝に勧められて海に出掛けたことを思い出した。
(自然の中で過ごしてりおの声が出るようになったし、良いかもしれないな)
「ありがとうコナンくん。さっそくさくらに相談してみます」
「うん!」
昴の言葉にコナンも笑顔を見せた。
翌日——
りおの説得に成功した昴は、車に荷物を積んでいた。
「りお~。準備出来ましたか~?」
玄関で声を掛けた。
「は~い。すぐ行きま~す」
返事が聞こえてしばらくすると、荷物を持ったりおが玄関へとやってきた。
「忘れ物は無いですか?」
「タオルに着替え、洗面道具、メイクセット、あとハイキングに行くならと思って軽食を少々。バッチリです!」
久しぶりに晴れやかな良い笑顔を見せた。
「じゃあ出発しますよ」
車は米花町を出て高速道路へと入った。
窓から見える景色はどんどん後ろへと流れていく。
りおは運転する昴の横顔をちらりと見た。
心なしか口元が綻んでいるように見える。
「なんか昴さん嬉しそうね」
「そりゃ、りおと初めての遠出ですからね。嬉しくないはずないでしょう?」
「なんか…照れるわ…」
あんまり嬉しそうに言うので尋ねた方が照れてしまった。
「りおも嬉しそうですよ。いつもよりおしゃれしてますもんね」
「昴さんと初めての遠出ですからね」
同じようなセリフを言って照れているのをごまかした。
しばらくすると海が見えてきた。
海沿いの道をひた走る。
「わぁ~。キレイ!」
海面が太陽の光を受けてキラキラしていた。
窓を開けるとほんの少し潮の香りがする。
「藤枝に言われて、昴さんと海に来たのがずいぶん前のような気がする。つい最近なのにね」
「ええ。あの後いろいろありましたからね」
ウジンとの後、藤枝と共にエミリーの遺骨を捜索するため空港へ向かった。その後はFBIによる事情聴取と藤枝の逮捕…そして藤枝とエミリーの見送り…たった数日で事態は目まぐるしく変わっていった。
特に遺骨と対面した藤枝を見た時は辛かった。
陶器の入れ物に入った遺骨を抱きしめ、小さくなってしまった恋人の名を何度も呼ぶ藤枝を、りおは直視出来なかった。
思わず目を背けてしまった時、りおの肩を昴が抱いてくれた。その手にわずかに入った力。
思ったことは同じだったのだろう。
「さあ、今日は全部忘れてのんびり過ごしましょう」
「はい!」
優しい潮の香りと心地よい風が、二人を迎えてくれた。
「ちょっと早いですけど、昼食にしましょうか」
インターを降りて、雑誌に載っていた海鮮のお店に入った。
「りおはお刺身でダメなものがありましたよね?」
「うん。生の貝がダメなの。前にそれを食べて、ちょっとした騒ぎになりましたし…」
《番外編『ヒヤリ、ハッと』》
そういえばそうでした…と昴もバツが悪そうに答えた。
「私、この定食にするわ。火が通っていれば大丈夫だから」
「じゃあ、私は…こっちの海鮮丼にします」
メニューを決めて店員さんに伝えた。
大きな窓際に席を取り二人で座った。
高台にあるお店のため、景色が良く窓の向こうには砂浜と海が見える。
「わ~。気持ち良さそうね~」
浜辺では小さな犬を連れた老夫婦が散歩をしていた。少し離れた所では、フリスビーを投げる女性とそれを追いかける大型犬が見えた。
「さすがに泳いでいる人はいないですね」
「そうですね。でもこの辺りはサーフィンする人も多いらしいから。波が高ければ居るかもしれないわ」
そう言って窓から昴の方へと視線を移す。
太陽の光を真横から受けたりおの瞳は、金色に光っていた。
「?!」
「どうしたの?」
「あ、いえ。あなたの瞳の色…元々アンバーで…薄いはちみつ色ですけど…。日の光が入るとさらに色が薄くなって金色に近くなるんですね」
「え? ああ、そうかもしれません。昔よく友達にからかわれましたよ」
「外国の血が入っているのですか?」
「さあ…私…両親の事はあまり覚えていないから」
「え?」
そういえば、りおの家族の事を聞いたことが無かったと今更ながらに思った。
「それはどう…」
「おまちどうさま~」
両親の事を聞こうとしたその時、注文した海鮮丼が運ばれてきた。
「わ~! すごい! 美味しそうですよ。
私も海鮮にすれば良かったかなぁ…。貝だけ昴さんにあげれば良かったんだし…。あ、でもせっかく来たのにお腹痛くなっても…」
キレイに盛り付けされた丼を見て感激しているりおに、それ以上聞けなくなってしまった。
結局お昼を食べながら、次に行く場所を相談して店を出た。
(まあ、旅は始まったばかりだし…。機会があったらゆっくり聞いてみよう)
昴はそう思い直して車を発進させた。