第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「まず俺はこの女を利用してこいつらの組織に入り込み、ギムレットの右腕だったという男のPCを調べた。
だが、エンジェルダストに関するデータは何も入っちゃいなかった。
ギムレットという男は組織内で疎まれていて、薬が完成すれば始末される事になっていた。
本人もそれに気付き、マスターレポートを組織のメインコンピューターから消し去っていた」
「そこまでは我々も把握している」
キム・ウジンは相槌を打つようにつぶやいた。
「俺はギムレット周辺をくまなく探ったが、マスターレポートに繋がる物は何も出てこない。
そこで、ヤツと最後に接触したのがラスティーとバーボンだと知り、二人について調べた」
藤枝は視線を落とし、ラスティーを見る。
「バーボンはギムレットが死ぬ数十分前に戦闘で接触があったのみ。そのためその後の調査対象から外した。
だがラスティーは数年前にもラボで接触がある。そしてギムレットが執着していた。
何か情報を持っていると睨んで、拘束した」
「で、何か吐いたか?」
「吐いたには吐いたが…。お前たちが期待する情報では無かったよ」
藤枝はラスティーの胸ぐらを掴んで、顔を上げさせた。
ウジンの部下が耳打ちする。
「ウジン様、女の手錠が片手だけで大丈夫なのでしょうか?
ラスティーという女、相当腕が立つと聞いています」
ウジンはラスティーを見た。
「ヤツは右利きだ。利き腕を拘束されている。
問題ない。
あの女、今声が出ないために手話で話すそうだ。両手を拘束していては情報が聞き出せないのだろう。気にするな」
「はっ!」
藤枝はラスティーの頬を2、3度叩く。
「おい!起きているか? もう一度さっき俺に伝えたことをやってみろ!」
するとラスティーは力の入らない左手を懸命に上げ、手話で伝える。
『彼は…レポートを…完全に…削除した…』
ウジンの部下の中に日本の手話が分かる者がおり、ラスティーの手話を口話で訳した。
「なんだと?! マスターレポートはこの世に存在しないというのか?」
ウジンの顔色が変わり、声に怒りの色を含んだ事が分かった。
「そんな情報を信じるとでも思っているのか?
あのマッドサイエンティストが何年もかけて作ったものを、いとも簡単に消すはずがないだろう!」
「信じる信じないはお前の勝手だ。
だが、俺もずっと探し続けたが何一つ出てこない。
こいつらの組織の科学者が雁首揃えて調べても出てこなかった。
お前の言うマッドサイエンティストは、その優秀な頭脳にのみ精製法を残し、死んじまったってことだ」
藤枝はウジンをあざ笑うように叫んだ。
「ラスティー、本当なのか? 本当にギムレットはレポートを…」
ウジンはラスティーを睨みつける。
『彼は…自分の…研究を…誰にも渡したく…なかったの…。
自分を…消そうとしている…組織に…ダメージを…与えようと…すべてを…』
そこまで手話で伝えると、力尽きたようにラスティーは倒れ込んだ。
ガチャリと手錠の鎖が鳴る。
「まさか…こんな…ソジュン様に何とご報告すれば良いんだ…」
ウジンの声は震えていた。
「このまま帰る訳にはいかない…。
それが事実ならば、あの組織に天誅を与えねばならん。こちらの計画を台無しにした責任は取ってもらう…。
まずはラスティー…お前に死んでもらうぞ。
ジンという幹部のお気に入りだそうじゃないか。お前の死だけでも将軍様に献上する」
そう言うと部下に合図する。
後ろに控えていた部下が銃を構えた。
「藤枝。お前もよく働いてくれた。
だがもう用はない。二人仲良くエミリーのところへ送ってやるよ」
「な?! 話が違うぞ!!」
藤枝は目を見開き、慌てたように声を張り上げた。
「やれ!」
ドゴーン!
ガォーン!
ガォーン!
ウジンの指示と同時に数発の銃声が響く。部下たちの銃が弾き飛ばされた。
「な、なにっ!」
銃を撃ったのはラスティーだった。
左手に銃を持ち、銃口を手錠の鎖部分に向けるとさらにもう一発撃つ。
バシュッ!
鎖はちぎれ、ラスティーは立ち上がった。
「残念だったわね。情報も私たちの命も献上できなそうよ」
真っすぐウジンを見つめて笑った。
「お、お前! 声が! しかも、ひ、左利きなのか?!」
ウジンは相当焦っていた。
「私は左利きではないわ」
さくらは左で銃を持ったまま、スッと構える。
「両利きなの」
そう言って残りの部下が持つ銃にも1発放ち、撃ち落とした。
「お前…! 藤枝とグルだったのか!
ではギムレットの情報もガセだな?!」
ウジンは焦りを感じつつも、僅かな可能性を期待した。
「残念ながらレポートの情報は本当よ。
彼は自分の研究を誰にも渡したくは無かった。レポートを消し去り、彼は死んだ」
さくらの言葉にウジンは奥歯を噛みしめる。
「くそッ! お前達ただで済むと思うなよ。
何をしている! ヤツの銃はS&W M36! もう弾は無い!! とっとと殺せ!!」
部下たち4人がふたりに襲いかかった。
さくらは部下の攻撃を昴に教わったジークンドーの手業で次々と弾き流す。
スキを見て相手の腹に膝蹴りを繰り出した。
倒れた仲間を見た部下が一瞬怯んだのを見逃さず、首元に手刀を入れるとその男も倒れた。
「くそッ!!」
もう一人が近くにあった鉄パイプのようなものを持ち、さくらに襲い掛かる。
その攻撃の全てを避け、背中に廻し蹴りを入れた。
藤枝も部下のひとりに蹴りやパンチを決めていた。
このままではまずいと感じたウジンは、懐から銃を出し、さくらを狙う。
その動きを、じっと物陰で様子を見ていた昴が察知した。
ドゴーン!
ドゴーン!
一発はウジンのジャケットの左ポケットに。
もう一発はウジンの持っていた銃に当たり、弾かれた銃はカラカラと音を立てて地面を転がっていった。
「な、なに? もう一人仲間がいるのかッ!?」
コンテナの上から黒いキャップを目深にかぶり、顔を隠した昴が飛び降りる。
ウジンを守るように立っていた部下2人をあっという間に倒した。
「ひ、引け! 引くんだ!!」
ウジンが叫び、部下たちがよろめきながら一斉に出口に向かって走り出す。
それを見て昴は装着したワイヤレスイヤホンで「Get ready!」と指示を出した。