第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
送信完了のPC画面を見て、昴もふぅと小さなため息を漏らした。
やはり自分の仲間の安否は気になっていたのだろう。
「お前さんたち、似た者同士だな。いや、一緒にいると似てくるのかな」
藤枝がニヤリと笑って言った。
『似てる?』
二人は顔を見合わせる。
「ははははは! そういうところだよ。顔を見合わせるタイミングも、安堵で緩む顔も、緊張でこわばる顔も。
お互いの心が近い時、シンクロするんだ。
そういう時が一番…幸せな時だよ」
最後の言葉は寂しげに響いた。
「弁当ごちそうさん。うまかったよ。
ここ最近食欲も無くて食ってなかったし、その前は栄養ゼリーや菓子パンみたいなモンしか口にしていなかったから、ありがたかった」
どう致しましてと言えない代わりに、さくらは笑顔で応えた。
『次はこの幹部と会う段取りをしないと』
さくらは筆談で藤枝に伝えた。
「ああ、だがその前に…」
『?』
「お前、失声症だといったな。原因は何だ?
エミリーの事か?」
突然の質問にさくらは驚き、どう答えるか分からないまま下を向いた。
それを見て昴が代わりに答える。
「彼女の失声症の原因は複雑に色々な事が絡み合っていますので…」
だが藤枝はそんなことは意に介さず、質問を続ける。
「エミリーの前には直近に何を見聞きした?」
『刺客の遺体』
「腹の傷を負った時か?」
さくらは小さくうなずいた。
「刺客の遺体、エミリーの死、それが直接的な原因と言って良いか?」
「いえ…もう一つ…」
昴が口を開く。
「もう一つ?」
「先日私は彼女の目の前で、強盗に肩を切りつけられました」
さくらの体がピクリと動く。
藤枝はそれを見逃さなかった。
「なるほど。好きな男が目の前で切り殺されそうになったって事か」
藤枝は自分のアゴに手をやった。
「それで? お前はその時の感情をどうした?」
『え?』
「この男にすがって泣いたか? 生きてて良かったとか、なんで切りつけられてるんだとか、お前の心の中から湧き出る感情をぶつけたか?」
藤枝の問いかけにさくらは首を横に振った。
『ただ吐き気がして……昴さんが治療中はトイレでずっと吐いていた』
「そうか…。治療が終わった後は?」
「泣いて…自分で自分を責めるように謝罪を繰り返すだけでした」
昴は悲しげにさくらを見て答えた。
「なるほど。よくわかった」
藤枝はそう言うとさくらの方へ向き直る。
「このままでは一生声が出るようにならんぞ」
『え?』
「それはどういう…?」
昴が驚いたように聞き返す。
「ラスティー、お前は感情を表に出さなすぎだ。人に気を使いすぎ。
負の感情はその時々で昇華しないと、お前が思っている以上に心に負荷をかけるんだ。
感情を押し殺す時、胸が苦しくなったり痛くなったりしないか?
その苦しみ、痛みを表に発散していないだろう? それが失声症の原因だ。
そして声を失ったことで、さらに感情を表に出せなくなった。
泣き叫びたくても叫べない。違うか?」
図星をつかれてさくらは目を背ける。
その様子をみて「アタリだな」と藤枝はつぶやいた。
「いいか、よく聞け。このままでは声が戻らないばかりか、体の不調が別の形になって出ることだって考えられる。
目が見えにくくなったり、耳鳴りや頭痛、吐き気、手足のしびれ……あげたらキリがない。
すでに頭痛や吐き気は…あるんだろう?」
言い当てられたさくらはハッとなった。
「……エミリーと同じだな」
「「?!」」
昴とさくらは藤枝の言葉に驚いた。
「アイツも俺と付き合うようになって、裏の世界にドップリ浸かっちまった。
頭のいいやつだったから、俺の仕事をすぐに覚えた。俺にとっては公私共に最高のパートナーだった」
さくらの顔を見つめる藤枝の瞳は、悲しい色をしていた。
「だが心の優しい彼女にとって、武器商人のサポートってのはかなりの負荷をかけてしまったんだ。
善悪の狭間で、彼女は神経をすり減らしていった。
自分たちの売った武器で人が死ぬ。それが彼女の精神を蝕んでいった……」
そこまで話すと藤枝は立ち上がり、窓辺から外を見た。
「お前と同じ失声症になったのはガンになる3年くらい前だ。なかなか声が戻らず、次第に吐き気や頭痛、耳鳴りなどに悩まされた。
そうやって体を蝕まれ、常に体調を崩していたから気付けなかったんだよ。ガンの発症にな」
藤枝は振り返り、さくらの顔を見る。
「気付いた時にはすでに手遅れだった」
「俺がアイツを殺したようなもんさ」
その顔から笑顔は消えていた。
「だから、お前に同じ過ちを繰り返して欲しくないんだ。今からでも声を取り戻す努力をするんだ。いいな」
目線をさくらに合わせ、強い口調で言い聞かせる。
「冲矢くんといったな。車持っているんだろう?」
「え、ええ。ありますが」
「今日は二人で海にでも行ってこい」
藤枝の言葉に、一瞬さくらは不安になる。
『あなた、一人でオドゥムに仕掛ける気じゃ…』
さくらは心配そうにノートのメモを見せる。
「心配するな。そんなことはしない。大人しくここにいるし、余計なことはしない。
失声症と聞いて黙っていられなくなっただけさ」
再び藤枝に笑顔が戻る。