第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ラスティーは藤枝が閉じ込められている部屋の前にいた。
トントン
「誰だ」
藤枝の声が聞こえた。
鍵を開けドアを開けると、中には憔悴した藤枝がいた。
「君か…」
警戒心をあらわにしていた藤枝は、相手がラスティーだと分かると少し声のトーンが落ちた。
部屋の中に入り、ラスティーは黙ったまま唇を噛み締める。藤枝を直視することが出来ず、うつむいたまま視線は藤枝の足元を彷徨う。
しばらくの沈黙があった。それを破ったのは藤枝だった。
「すまなかった。何も知らず、俺は君に暴力をふるった」
突然の言葉にラスティーは驚き、首を横に振った。
声が出ないので持っていたノートに、『エミリーの遺骨が奪われたって本当?』と書いて見せた。
「ああ。FBI捜査官ふたりも行方不明だ。遺骨と引換えに、エンジェルダストに関する情報と君の命を奪えと」
藤枝の顔が険しくなる。
「だが俺は…君の命を奪わずにエミリーの遺骨を取り戻せないかと考えている」
『どういうこと?!』
ラスティーは藤枝の言葉に驚いた。
「俺はオドゥムに騙されていた。エンジェルダストを改良すれば、エミリーの命が助かるかも知れない。根治がダメでも、痛みや不安から解放されて延命に繋がると言われてたんだ。
全てウソだった。奴らに騙され、エミリーと過ごせる最期の時間すらも俺は無くしてしまった。一緒に……いてやれなかった。
そんな奴らに例え情報を渡し、君を殺しても俺は用済みになって消されるだけだ。
だから君から情報も、命も奪う気はない」
『それではエミリーが!』
「分かっている。これから奴らのところに奪いに行くんだ。玉砕覚悟でね」
ラスティーは藤枝の両腕を掴み、首を横に振る。
「もうこれしか方法がないんだ!」
藤枝はラスティーの手を振りほどき、部屋を出ようとした。
ラスティーはノートを手に取った。
『方法は…ある!』
走り書きされた言葉に藤枝は目を見開き、ラスティーの顔を見た。
そこへベルモットとバーボンが血相を変えて飛び込んできた。
「ラスティー! 無事なの?!」
ベルモットが銃を構えて部屋に入ってきたため、ラスティーははとっさに腕を広げ、藤枝をかばう。その行動に二人は驚いた。
『エミリーの遺骨を奪い返すために藤枝と組むわ』
手話でバーボンに訴える。
「ラスティー! 何を言っているんです。相手は国家ぐるみの組織なんですよ」
『だからこそ牽制をして、私たちへは簡単に手が出せないと思わせないと。いつまでも身を隠しているわけにはいかないわ』
ラスティーの言い分も分かる。だが彼女が動く時は決まって嫌な予感しかしない。
「あなた、また無茶なこと考えているんじゃないでしょうね? ケガをしているのに。そんな体でどうするつもりですか?」
バーボンの脳裏には、病気を利用してラボに潜入し、ギムレットと対峙した時の事が浮かんだ。
ラスティーは目をそらす。
今考えている計画を伝えれば、絶対反対されるのは分かっていた。
「…図星か…」
そうつぶやいたバーボンは、ラスティーの肩に手を置くと「ここから一歩も出しませんよ」と怖い顔で言った。
ラスティーはバーボンの威圧的は言葉にしゅんとして下を向く。
少しは気持ちが伝わったのかとバーボンが一瞬気を抜いたところを見逃さず、みぞおちに一発拳を入れた。
「ぐっ!」
不意をつかれてバーボンが片膝をつく。
「ラスティー?!」
彼女の行動にベルモットが驚いていた。
スキをついて藤枝と部屋を出ようとするが、バーボンに手首を掴まれる。
「ダ、ダメだと言ってるでしょう!」
ゴホゴホと咳をして、腹を押さえながらバーボンが立ち上がった。
立ち上がってラスティーの顔を見た時、バーボンは気づく。彼女の額に大量の汗が浮いていることを。
「ッ! あなた…その汗…。キズの痛み…ひどいんでしょう?」
このまま行かせるわけにはいかない。
彼女の手首を握る手に力が入った。
「ラスティー…勝算はあるの?」
突然ベルモットが問いかけた。
ラスティーはベルモットの顔を真っ直ぐみつめ、力強くうなずいた。
「行かせてあげましょう、バーボン」
「ベルモット?! 何を言い出すんです!」
思わず語気が強くなる。
そんなことは意に介さず、ベルモットは続ける。
「この子、言いだしたらきかないし、閉じ込めたって抜け出すに決まってる。
有能な子が勝算はあるって言ってるんだから、行かせてあげましょうよ」
ベルモットがバーボンの肩に手を置いた。
「ただし…、死んではだめよ。ラスティー」
強い視線を送って牽制する。ラスティーは微笑んでうなずいた。
それでもバーボンは納得いかない。だがベルモットに言われては、手を離すより他なかった。
ラスティーは藤枝とアイコンタクトを取る。
ふたりが部屋を出る瞬間、ベルモットは藤枝に声をかけた。
「藤枝、ラスティーを頼んだわよ」
「ああ。俺の恩人だ。命に代えても守るさ」
残されたベルモットとバーボン。
「なぜあんなことを…」
バーボンはベルモットを問い詰める。
「あの子の言っていることが正しいからよ。確かにこのままずっと身を隠しているわけにはいかない。
牽制して、簡単に手出しできないと分からせたほうが良い。それにはエミリーの遺骨…この件を利用しない手はない」
ベルモットはバーボンを見る。その顔はわずかに微笑んでいた。
「おそらく全て考え尽くして行動しているのでしょう。衝動的にやってるわけじゃない。
ああいう時の彼女、強いから」
自信有りげなベルモットの表情に、バーボンは何も言い返せなかった。
藤枝にも簡単な変装を施して、ふたりはアジトを出る。都内のホテルを別の偽名で取り、そこにチェックインした。
変装を解き、備え付けのイスにドカッと座ってため息をついた藤枝に、さくらは『これから私の協力者を呼ぶ』と伝えた。
さくらはスマホに電源をいれ、メールを打つ。『心配かけてごめんなさい。今、藤枝と東都ホテルの1203号室にいます。来れますか?』
昴のアドレスを入れて送信した。
ちょうどその頃、昴は安室からのメールを見ていた。
『藤枝と接触中のさくらさんと会いました。
藤枝はさくらさんに危害を加えるつもりは無いようです。
たださくらさんは、《エミリーの遺骨を取り返すために藤枝と組む》といって、ふたりでアジトを飛び出しました。
何か作戦があるようでしたが…。
心配なのは腹部のケガです。
相当痛みがあるのか、汗を大量にかいていました。
ベルモットは大丈夫だと言っていましたが、念のため居場所を突き止め、行動を把握します』
(やはりな…)
最近、彼女の行動は読めるようになってきた。
いや、だいたい自分がやってほしくない事をやらかしている気がする。
相談をしろとあれだけ言っても、頭の回転が速く瞬時に全てを計算するから、行動が先に出てしまうらしい。
ただ、自分の事は蔑ろにするから始末が悪い。こっちの身にもなって欲しい。
昴は大きなため息をついた。
スマホをテーブルに置こうとした時、再びメールの着信がある。
安室が何か掴んだのかと慌ててメールを開くと、りおからのメールだった。
「東都ホテルの1203号室…か」
状況が分からぬまま、とりあえず安室にりおからメールがあったことと場所を伝え、車に乗り込んだ。