第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベルモットのメールから2日後の朝。
昴はいつも通り洗面所で変装をしていた。
チョーカーを付けようとした時ジョディから電話がかかってきた。
こんな時間にどうしたのかと思いながら電話に出る。
「シュウ! 大変よ、マイクとケビンが!」
エミリーの遺体引取りとして、K国入りをしていた同僚の名だった。
昴は最悪の事態を覚悟した。
ジョディによると、エミリーをアメリカ本国へと連れ帰る任務を負った2名の捜査官が、昨日夕方から行方不明だという。
もちろん、すでに荼毘に付した遺骨も遺品も一緒に…だ。
オドゥムの刺客だと思われるが、現状で手掛かりはない。
オドゥム側も慎重なはずだ。
FBI捜査官を拉致・監禁もしくは殺害すれば、国際問題に発展しかねない。
万が一彼らを殺害していれば、死体は絶対見つからないようにするだろう。捜索は難航を極める。
捜査官も遺骨も現状で全く手がかりがない。手も足も出ない。昴は頭を抱えた。
時を同じくして、藤枝のスマホにメールが着信する。
『FBIからお前の恋人を奪った。エミリーの遺骨と遺品が欲しければ、我々に従え。
ラスティーと会い、どんな手を使ってでもエンジェルダストについての情報を奪うのだ。
その後ラスティーの息の根を止めろ。
我々に従わなければ、エミリーは永遠に冷たい海の中だ』
藤枝は歯ぎしりをし、壁を思い切り殴った。
「どこまでも汚い奴らめ…ッ!!」
FBI捜査官行方不明の一方は理事官から安室にも伝えられた。
さくらの願いがまたしても叶えられなかった事に歯噛みする。
エミリーの遺骨も行方不明なため、藤枝の動向に注意するようにとのことだった。
藤枝は現在組織のアジトの一室だ。
だが、安室自身もオドゥムからの刺客に目を付けられているため、身を隠している。
ベルモットに連絡することにした。
「僕です。ベルモット」
「バーボン。無事でいるようね。どうしたのかしら?」
ベルモットはいつも通り落ち着いた声で電話に出た。
「オドゥムが動き出したようです。藤枝の恋人の遺骨をFBIから強奪したらしいという情報がありました」
「なんですって?!」
ベルモットの声が一気に緊張する。
「藤枝は今どこに?」
「アジトの一室に閉じ込められたままよ。
だいぶ落ち着いてきたから、そろそろ出してやるとジンは言っていたけど」
「おそらくオドゥムは藤枝にコンタクトを取ってきます。彼の動向に注意してください」
「分かったわ」
「ベルモット。このことをラスティーには……」
「ええ。どうせ分かってしまうでしょうけど。しばらくは伏せておくわ」
じゃあ、あとは任せて。
ベルモットはそれだけ言うと電話を切った。
その日の昼
昴とりおはいつも通り昼食を取り、一緒に片付けをしていた。
皿を片付け終わると、りおは手話で訊ねた。
『そういえばエミリーは無事にアメリカへ着いたのかしら?』
「え、ええ。予定通りですよ」
それ以上昴は何も言わなかった。
いや、言えなかった。
声を失って数日経つが、状態は変わらない。腹部のケガもまだ完治していない。
この状況でエミリーの遺骨が強奪されたなどと、言えるわけがなかった。
安室からも朝早くに連絡が来ていた。
理事官にも風見にも、FBI捜査官行方不明事件に関わることは、広瀬りおにはしばらく伏せておくこと、ベルモットにも同様に伝えてあると報告を受けた。
昴も安室もいずれ伝えねばならないが、今はその時ではないということで意見は一致していた。
りおが知らないうちに事件を解決できれば良いのだが、無常にも何の手がかりもないまま、時間だけが過ぎていった。
午後になって、博士の家から電話がかかってきた。
少年探偵団が謎解きをしているので、昴にも来て欲しいそうだ。
りおは少し痛みがあり、体調も優れないので留守番をしているという。
「それでは博士の家へ行ってきますね。
すぐ戻りますから、ゆっくりしててください」
そう言い残して、昴は出かけて行った。
一人になったりおは、ソファーでクッションに体を預け、横になっていた。痛み止めを飲んだので若干眠気もあり、窓から降り注ぐ日差しを見ながらウトウトとまどろんでいた。
昴が出かけて十数分は経っていただろうか?
スマホに1件のメールが着信した。
誰だろうと送り主を見たが知らないアドレスだ。本文を開けてみる。
藤枝からのメールだった。
エミリーの訃報を知った際、何も知らないで暴力を振ってしまったことへの謝罪が書かれていた。
そして、FBI捜査官行方不明事件の事、そして遺骨が強奪されたこと、遺骨を返す条件がエンジェルダストの情報とラスティーの命だということが書かれていた。
『エミリーの遺骨が強奪された?!』
その事実にりおは驚く。
事件が起こったのは昨日。
FBI捜査官の事件だ。昴が知らないわけがない。おそらく安室も風見もみんな知っているはず。自分の体調を考慮してみんな黙っていたのだろう。
その気持ちは嬉しかったが…エミリーの遺骨が奪われたことはショックだった。
だが泣きたいのに涙が出ない。本当は叫びたいのに、声が出ない。悲しみも悔しさも外に吐き出せない。
ただただ苦しさだけが積もっていく。
胸の奥が痛い。
グッと苦しさと痛みに耐える。
こうやって苦しさにフタをすることを覚えて、もうどれくらい経つのか…。
胸を押さえ、肩で大きく息をする。
ゆっくり何度か繰り返すうちに、痛みが遠のいていった。
どれくらいかして少し落ち着くと、りおはそっと立ち上がる。薬を服用したので腹部の痛みは先程よりラクになっていた。
簡単な変装をして、昴に置き手紙をした。
『ちょっと出かけてきます。戻る時に連絡します』
りおは工藤邸を後にした。
***
「昴のお兄さんスゴーイ!」
少年探偵団達は尊敬の眼差しで昴を見ている。
博士が考えたトリックにみんな頭を悩ませていたが、昴のヒントで謎はすぐに解けてしまった。
「昴くんや哀くんのヒントは的確過ぎてすぐにトリックがバレてしまうわい…」
博士は苦笑いだ。
「いや、よく考えられたトリックだったと思いますよ。ただ、小学1年生には少々難しすぎたかと」
昴の指摘に博士はタハハと笑った。
「そうなのよ。大人げなく難しい問題をこの子達に出しちゃうから、この子達もすぐにあなたに頼ってしまって…」
江戸川くんは、蘭さんたちと出かけてしまっていないし…。
そう言いながら、出来たてのアップルパイを哀がリビングに持ってきた。
「『哀くんはすぐにヒントを出しちゃうから、おやつでも作っててくれ』なんて言われて、私だけのけ者だったのよ」
「それで、子どもたちは私のところに助けを求めたんですね」
「ヒント欲しかっただけじゃないよ。お兄さんにも会いたかったんだもん」
歩美の可愛い告白に自然と顔がほころぶ。
「さくらお姉さんにも会いたかったなぁ」という歩美に、今度は一緒に来るねと約束をした。
みんなでおやつを食べ、さくらの分のパイをお土産にもらって昴は帰宅した。
リビングの入口から覗いたがソファーにりおの姿はない。
部屋も行ってみたがいなかった。
どこへ行ったのだろうと思いながら、再びリビングへ戻ると、テーブルの上に置き手紙があった。
痛みがあって博士の家へ行けないと行っていたはずなのに…。どこへ出かけたんだ?
昴は胸騒ぎがした。
すぐにりおのスマホに電話をするが、電源が入っていないという無機質な音声が流れる。
それならばとPCの置いてある部屋へ行こうとしたが、テーブルに小さな発信機が置いてあることに気付いた。
万が一のためにと、昴がりおのスマホにこっそり付けておいたものだ。
やはりバレていたか。
だがこれで確信した。またりおが何か危険なことを考えているのだと。
エミリーの事は知らないはずだ。
いったいどこへ何しに出て行った?
それが分からなければ探しようがない。
りおと接点のある人間が、りおが家を飛び出すほどの何かを伝えた…。
誰が?何を?
まて、ちゃんと考えろ……。
昴は順を追って考える。
りおとの接点…。
公安は今、重要な情報はりおに流していない。
組織も、ベルモットが情報を止めているはず。
「?! まさか!!」
オドゥムが藤枝に接触すれば、間違いなく藤枝はりおにコンタクトを取るだろう。
そこでエミリーの遺骨が奪われたとりおに伝えれば…。
昴はすぐに安室に連絡を入れた。
『はい安室です』
「冲矢です。安室さん、オドゥムから何らかの連絡を受けた藤枝が、さくらとコンタクトをとったようです。さくらが姿を消しました。藤枝と接触するかもしれません」
『なんだって?!』
安室の驚いた声が響いた。
『じゃあ、エミリーの遺骨のことをさくらさんは知ってしまったと?!』
「その可能性は高いです」
『ッ!』
エミリーの遺骨のことを知って、さくらはどう思ったのだろうか。安室はグッと胸が痛くなった。
『すぐにベルモットと連絡を取ります。アジトへも行ってみますので、冲矢さんはそのまま連絡を待ってください』
「分かりました。お願いします」
安室は電話を切るとすぐにRX-7に乗り込んだ。