第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜——
少し無理をしているようにも見えたが、食事もとれるようになった。
声が出ないということ以外、落ち着きを取り戻してきていたので、昴はいよいよ今回の事件の核心をりおに話すことにした。
「りお、現段階ではまだ証拠が足りず憶測の域を出ませんが、おそらくこれが核心です。
聞きますか?」
りおは真剣な面持ちで頷いた。
「今回の全容は『C国がアメリカに牙を向ける』ための布石です。C国にとってアメリカはまともに戦って勝てる相手ではありません。
そのために、C国はエンジェルダストを使ってテロを起こす殺人兵器を何十人、何百人規模で日本に配置し、文字通り日本を人質にしてアメリカを攻撃するつもりです。
つまり、アメリカを黙らせるために日本でいくつもテロを起こす。そのために奴らはエンジェルダストを手に入れたいんですよ」
恐ろしい計画にりおは息を飲む。
だからあの時自分を襲った刺客は「愛する将軍様にこの国を献上する」と言っていたのか。
オドゥムは事実上、C国直属の組織ということになる。
ジンにはああ言ったものの、ギムレットレポートが削除された証拠はまだ何も掴んでいない。どこかにまだ存在している可能性もゼロではない。
そういえば、ギムレットは解毒薬を開発しようとしていた。
『ギムレットが作っていた未完成の解毒薬を完成させることはできないの?』
りおは手話で問いかけた。
その質問に昴は首を横に振る。
「作動薬と拮抗薬は化学構造が類似しているんですよ。作動薬を作れる者しか拮抗薬は作れないでしょう。つまりレポートを持つ者か、ギムレット本人しか作れないのです」
解毒薬を作るにもレポートが必要…。
全てが手詰まりだ。
あとはレポートが削除されている事実を突き止めるしかない。
りおは苦しい表情で下を向いた。
「慌てるな」
声は昴だったが、口調は赤井になっていた。
昴はため息を一つついた。
「良いですか? 今あなたがその体で出来る事はありません。それよりも、あなたはオドゥムから狙われているのです。
藤枝を手駒として使えなくなった奴らは、直接あなたと接触を図ってきた。それについて早急に手を打たなくてはなりません」
そこまで言って昴は咳払いをする。
「それなのに病院から抜け出し、そのケガを隠して飛行機に乗ってK国へ行くつもりだったのでしょう?
傷が塞がっていないのに飛行機に乗ったらどうなるかくらいあなたも知っているでしょう? まして、命を狙っている組織の息のかかった病院へ行こうだなんて…」
昴の眉がグッと寄せられた。
「私はあなたの何なのですか?」
珍しく昴に強い口調で問われた。
『私はあなたが好きだから、私とあなたの接点を組織に知ら…』
「せめて相談相手にはなりませんか?」
りおの手話に被せるように昴が一際大きな声で言った。
「確かに沖矢昴とラスティーの接点があると知らせるわけにはいかない。でもこうやって顔を合わせているのに、なぜ一つも相談してくれないのです?」
『それは…』
「私に制止されるとわかっているからでしょう」
図星で返事ができない。
「止められると分かっていて無茶をする。
自分は死なないとでも思っているのですか? 確かにあなたの行動はすべて計算されている。ですが無茶が多い。何かあってからでは遅いのです。
もう少しご自分を大事にしてください。でないと私の寿命も縮まりそうだ」
『ごめんなさい…』
捨てられた子犬のような顔で手をひらひらと動かし、手話で謝る姿を見て再び昴がため息をつく。
「お説教をしたかったわけではありません。今後のことを考えましょう」
『はい』
りおは小さく頷いた。
「オドゥムはラスティーを狙っています。おそらくバーボンもターゲットでしょうね」
昴は表情を変えずに続けた。
「あなたが刺客に襲われた時のことを考えると、目的はおそらく拉致してギムレットについて聞きたいのでしょう。
ギムレットと最後に接点があったのはバーボンとラスティーですから」
りおは安室の事が心配になる。
「特にあなたはギムレットに執着されていました。何か知っていると思われているのでしょう」
そこまで話して昴は立ち上がり、窓辺に立つとカーテンをほんの少しだけ開け外を見た。
病院の敷地内に帽子をかぶった怪しい人影が見えた。
明らかにこの部屋の様子を伺っているようだ。
「これは提案ですが…退院したらしばらく身を隠した方がいいかと思います。森教授の助手も塾の講師もお休みして」
「え?」
「星川さくらには、しばらく行方不明になってもらいます」
突然の事にりおは驚く。
『安室さんはどうするんですか?』
「もちろん彼にも」
『組織に方には何と言うんです?』
「組織にもオドゥムから命を狙われているのでしばらく身を隠すと言えば良いでしょう。
藤枝のことでバーボンとラスティーに任務を与えたのは彼らですから、とやかく言うはずがありません」
昴の説明にりおは小さくうなずく。
『どこに身を隠せば良いのですか?』
昴と離れ離れになると思うと、途端に寂しいという気持ちが湧き上がる。
「安室さんはいくつかある、公安のセーフハウスを使うようです。
あなたは…ケガをしていますし、工藤邸にいてもらいます」
『え?』
「私が24時間護衛しますよ?」
「もちろん、遠出のフリはしてもらいますがね」