第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カフェで飲み物をテイクアウトし、ホテルのさくらの部屋へ二人で入った。
さくらは備え付けのイスに座り、飲み物を一口飲むと、はぁ…と大きなため息をつく。
疲れた様子のさくらを見て安室は席を立った。
「話は少し休んでからにしましょうか。さくらさん顔色が優れませんし…」
「ううん。大丈夫です。それより聞いて欲しい事があるの」
さくらは安室の顔を真っ直ぐ見る。ただならぬ雰囲気を感じた安室が再び席に座ると、さくらは自分の立てた仮説を話し始めた。
「藤枝が情報屋として動き出したのがここ1~2年前。単純に考えてオドゥムが彼女を人質に取って、彼をコントロールしていると考えるのが普通よね」
「確かに。それが妥当でしょうね。武器商人は不特定多数の組織と繋がりがあります。そこを見込まれて恋人の命を盾に取り、情報屋として操られたのでしょう」
安室も同意見だった。
「でもね、エミリーの病気が分かったのが3年前。いつ病気で死ぬとも分からない人を人質にするのはリスクがあると思いませんか?
人質は生きているから価値が有る。病気で死んでしまっては意味がないでしょう。
それに、情報屋をやること自体に藤枝自身もメリットが無ければ、有用な情報は得られない。適当な情報を相手に掴ませておけばエミリーの治療をしてもらえるわけだから。オドゥム側にメリットが無い」
さくらは一つ一つ言葉を選びながら、推理を組み立てていく。
「オドゥムはエンジェルダストの情報がどうしても欲しい。藤枝に死に物狂いで探させるにはどうすると思いますか?」
さくらの質問に、安室はアゴに手を当ててしばらく考えた。
そしてハッと閃いたのち、まさか…と焦りの表情をみせた。
「藤枝に『エンジェルダストにガンを治す、もしくはエミリーを死なせない効果がある』と伝えていたら…?」
安室が小さな声でつぶやく。
「そう。エンジェルダストは死の恐怖も全て麻痺させ、小さな口径の銃で頭を撃ったくらいでは死なない体になる。筋力は4倍になり、『人間兵器』となる…」
そこまで話すとさくらは辛そうな顔をした。
「この情報を捻じ曲げて『死の恐怖から解放され、生命力が上がり、筋力が戻る…』などと言われれば、死期が近づいた恋人になんとしても投与したいと思うでしょう」
さくらの言葉に安室も頷いた。
「いずれにしても、藤枝はジン達が望む通り組織に連れてくる方が得策ですね。我々の近くにいてくれればその都度対応できますが、オドゥム側にいたのでは初動が遅れます」
安室の言う通りだ。だがエミリーを日本に連れて行けない以上、どうやって藤枝を説得するか…。
さくらはこめかみに指を当てた。
「サカモト達がギムレットレポートを探していた時の情報をエサにしてはどうでしょう?」
安室が思いついたように早口で言った。
「サカモト達の?」
「ええ。サカモトはギムレットの助手的な存在だった訳ですし、誰よりもレポートに近かったはず。彼らも殺される直前までレポートを探していたのですから。
そのサカモトが『何をどこまで調べていたか』を知ることは、レポート捜索には必要不可欠な情報です」
「そうか、藤枝にはエミリーの死が迫ってきているので時間がない。サカモトの持っていた情報は喉から手が出るほど欲しいはずよね」
しかしサカモト製薬のPCは、赤井とさくらで起こした爆破火災で焼失している。
「実はサカモトに暗殺の命令が出たとき、僕とベルモットでサカモトの身辺整理をしたんですよ。組織につながるデータ等をね。その時にサカモトの自宅にあったPCデータはコピーして組織が持っています。もちろん、同じデータはこちら(公安)にも頂きましたけど」
安室はニヤリと口角を上げ余裕の表情だ。
「さすがゼロですね」
その顔を見たさくらも微笑んだ。
だが、その笑顔もやはりどこか疲れの色が見える。顔色は相変わらず悪く、どこかだるそうだ。
「帰国の準備と成田のホテルの手配は僕がやっておきます。さくらさんは少し休んでいてください」
そう言いながら安室はさくらの頬に触れる。
「疲れのせいかな? 微熱がありますよ。横になりましょう」
そのままベッドに連れられ、毛布を掛けられた。
「じゃあ、僕は部屋に戻ります。食事の手配もしておきます。6:30になったら起こしに来ますから、それまでゆっくり休んでください」
心配そうな表情を浮かべ、それだけ伝えると安室は自室に戻っていった。
一人残されたさくらは、ベッドサイドに置いたバッグからスマホを取り出した。
K国に到着したことを知らせて以来、メールをチェックしていない。
アプリを開くと、昴から3件のメールがあった。
1通目はK国到着メールの返信。
『了解。気を付けて』
業務連絡のような短いメールだった。
2通目、『体調は大丈夫か? ちゃんと食事は取れているか? 無理せずに』
さくらの体調を気遣うメール。
3通目、『潜入中だろうか? 何度もすまない。心配している』メールが来ないことに心配している様子が伺えた。
3通のメールがなんだか嬉しくて何度か読み返したあと、さくらは返信をタップして昴にメールを書く。
『心配かけてごめんなさい。病院へ潜入し、情報を集めていました。
今回は女医に変装しました。つい先ほど病院からホテルに戻ったところです。
予定が変更になり、明日には日本に帰ります。しばらく成田で待機の指示が出ています。
また連絡します』
メールを返信し、ベッドに潜り込む。潜入時の緊張が取れたせいもあったのか、すうっと眠りに落ちた。
***
ブーッ、ブーッ
昴のスマホにメールが着信する。
阿笠邸に来客があったので、盗聴器で様子を伺っている時だった。
どうやら博士が頼んだどこぞやの名物お菓子が届いたようだ。哀の呆れた声が聞こえる。とりあえず何事も無さそうだとタバコに火をつけ、スマホのメールを確認した。
メールはりおからだった。
無事の報告と明日には日本に帰ってくることが書いてある。
(成田で待機か…)
まだしばらく会えないが、それでも日本にいるだけで安心感が違う。思わず口角が上がった。
よく見ると何か添付されている。
「?」
なんだろうと思ってタップすると、そこに表示されたのは女医の格好をしたりおの写真だった。
更衣室で着替えてすぐ、鏡に映った姿を撮影したようだ。