第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
安室とさくらを乗せた飛行機は正午過ぎに日本を離陸し、K国コムンセク市に到着したのは15:00。
二人は組織が予約したホテルにチェックインした。
シングルを2部屋取っていたので、お互いいったん部屋に入り、15分後に安室の部屋に行くことにした。
ホテルからエミリーが入院しているフェセク総合病院までは徒歩10分ほどだ。
今回エミリーを日本へ奪還するのが二人に与えられた任務だった。
ジンはエミリーを日本へ連れて来次第、藤枝とコルン達を接触させるらしい。ただ心配なのはエミリーの容態だった。
事前の調査によると入院期間がかなり長い。
体調が思わしくないのか、それとも藤枝を操るために入院という形で監禁しているのか、現状では分かっていない。
そのため、まず病院に潜入しエミリーの病状を調べることが最優先だ。病状によっては奪還方法も変わる可能性もある。
安室とさくらは作戦の最終確認をした。
まず、さくらは研修医に成り済ましエミリーのカルテを入手。可能であれば病室で本人と接触する。
安室は入院患者として潜り込み、病院内のセキュリティーを調査することになっている。
すでにさくらには「キム・ソフィア」、安室には「パク・メイソン」という偽名を組織から用意されていた。どちらもK国系のアメリカ人という設定なので、K国の言葉が話せなくても英語で事足りる。
安室が組織のアジトで受け取ってきたジュラルミンケースには、「キム・ソフィア」「パク・メイソン」のIDカードと患者用リストバンドが入っていた。
準備は全て整った。
翌朝予定通り、6:30にさくらは研修医キム・ソフィアとして出勤した。
安室はいったん警備員の服で院内に入る。
それぞれまだ誰もいない更衣室に入り、着替えた。
さくらは更衣室を出ると、薬局に寄って輸液を1つ、さらに申し送り中のナースステーションを通り過ぎ、となりの処置室から点滴用のチューブ、クレンメ等一式、点滴用のスタンドをそっと拝借した。
その後、二人は3階の入院患者が誰もいない空き部屋で落ち合った。
安室をベッドに腰掛けさせ、さくらは点滴を準備した。
「本当に点滴を落とす事もできるけど、万が一の時に逃げにくくなるから、フリだけにしておきます。薬液が落ちていないのは不自然だけど…。上手くやってください」
チューブに輸液を満たし、本当に点滴をしているかのように腕にテープを貼った。
次に包帯を取り出し、安室の頭に巻いた。どこからどう見ても入院患者だ。
「さくらさん、ホントに手際が良いですね。前の組織で教わったと言っていましたけど…」
「ええ、今回みたいに医療機関に潜入する任務があって。そこで組織の先輩に基礎から教わったの」
最後はほんの少し寂しげな声だったため、安室はそれ以上聞くことが出来なかった。
「じゃあ、私は4階のナースステーションに行ってきます。事前の調査だと彼女は4階に入院しているようですし」
「僕は1階からゆっくりフロアを確認して警備とカメラの位置を探ります」
「では2時間後に2階の談話スペースで落ち合いましょう」
ふたりは時間差で病室を出た。
***
さくらは4階のナースステーションに着くと、流暢な英語で若いナースに話しかけた。
『スミマセン。研修医のキム・ソフィアといいます。パク先生からエミリー・ハワードのカルテを確認するように言われたのですが』
事前に入手していたエミリーの主治医の名を出す。若いナースは突然英語で話しかけられたので驚いた顔をしたが、K国はアメリカ軍のキャンプがあり軍人も多く駐在しているため英語は通じる。
『少々お待ちください』
K国訛りの英語で言われ、数分ほど待っていると『こちらです』とカルテを渡された。
礼を言って受け取り、さくらはその場を離れた。
フロアの中ほどに休憩スペースがあったので、そこで受け取ったカルテを開く。
流れるような英語とK国の単語が書かれていた。K国の言葉は分からないので、とりあえず英語の部分だけ読みすすめる。
「ッ!」
病名を見て、さくらは言葉を失った。
***
安室は点滴スタンドをガラガラと押しながら、ゆっくりフロアを回る。防犯カメラの位置や向き、警備員の立っている位置や動きを観察した。
不自然にならない程度に周りを見回すと、非常用出口のそばに中年の警備員がいた。
(あくびをしていて緊張感がないな…。ちょっと話しかけてみるか)
試しに売店の場所を聞いてみると、人懐っこくどこか憎めない感じの警備員だったので、安室は世間話を英語で始めた。
警備員は英語で話しかけられて一瞬面食らった顔をしたが、最近は警備員のなり手がいないとか、金曜はギリギリのメンツで回しているとか、見回りも必要最低限しか回れていないなど、ペラペラと話してくれた。
なかなか話好きなおじさんだった。
安室は人の良さそうな笑顔を作って、必要な情報をこのおじさんから引き出していった。
さくらは4階のナースステーションからほど近い、個室の前にいた。部屋の前に名前は出ていないが、カルテに記載されていた部屋番号だ。ノックして入室する。
部屋に入るとすぐ、ベッドの周りにある医療機器が目を引く。
ピッ…ピッ…と、無機質な電子音が響いていた。ひと呼吸おいてベッドに近づいた。
そこにいたのは確かにエミリー・ハワードその人であった。だが、その体はFBIの資料で見た写真よりやせ細り、肌は渇き、生気が感じられない。痩せて小さくなった体には無数の点滴とモニター、そして人工呼吸器が付けられていた。
「……これは……」