第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
帰宅後、りおの気分が良くなってから二人で食事をした。
食後のコーヒーを飲んでいる時、りおは「話がある」と言って昴に向き直った。
「昴さん…明日からしばらくの間、K国へ行ってきます」
突然の事で昴は驚く。
「K国へ? それは組織の任務ですか?」
「ええ。昼過ぎにジンから連絡が来たの」
「つまり…バーボンと行くのですね?」
「……はい…そうです」
りおの返答を聞き、昴は大きなため息をついた。
「りお、あなた自分が今どういう状況か理解していますか?」
「…はい。先日の事件で、『血液』や『赤』に対して過剰反応を起こしています。ですが、新出先生からもらった安定剤を服用すれば問題ありません」
事務的に淡々と話すりおの言いように、昴はカチンときた。
「薬? まだ薬に頼っているのですか? 薬に頼っているような状態で、組織の任務がこなせるとでも?」
「飲まないよりはマシです。『仕事』ですから…私に拒否権はありません」
「本気で言っているのか?」
いよいよ腹立たしくなり、昴の口調が変わる。
そんな状態で安室と、得体の知れない組織が暗躍するK国の都市へ行けるというのか。
昴は声を荒げるが、りおは顔色一つ変えない。
「薬に頼らなければならない状態で、その上先日暴行してきた相手とK国へ行く。
酷くバカげていると思うけど。でもこれが私の使命。誰にも肩代わりできないの。
私の中には、《赤井秀一》を愛しているという確かなものがここに、心にあるから。必ずあなたのところに帰ってきます。
だから…信じて待っててくれますか?」
アンバーの瞳が真っ直ぐ昴を見つめる。
りおは今までどんな状況だろうと、任務を遂行してきた。そして彼女の正義を貫いてきたはずだ。りおや安室の働きによって、エンジェルダストの取引を察知し、先手が打てたのも事実だった。
「はぁ…」
昴は大きなため息をついた。
「絶対に死なないと約束してくれますか?」
かつて赤井秀一と交わした約束と同じ約束を口にする。
「危険だと察知したらそれ以上踏み込まず、必ず生きて帰ってくると約束してくれますか?」
りおは一瞬目を丸くしたが、懐かしそうに微笑んで「約束します」と答えた。
「大好きなあなたのところへ、必ず戻りますから」
りおは席を立ち昴に近づくと、そっと口づけた。一瞬で離れてしまったので、昴は左手をりおに伸ばす。
「しばらく会えなくなるのに、それでは足りないな」
もう一度キスをしようとりおが身をかがめると、伸ばしていた昴の左手はりおの後頭部を捉え、グッと引き寄せた。
唇が触れたと思った時には、昴の舌が入ってくる。それだけで体はゾクリと反応した。
「ん…ん…は…」
昴の舌は的確にりおの弱いところを攻める。
全身の力が抜けそうになった。
昴は唇を離すといたずらっぽく笑い、
「続きは赤井に戻ってから」
りおの耳元で囁いた。
早朝
アラームよりだいぶ早く赤井は目を覚ました。となりでりおはまだ眠っている。
昨夜はグズグズに溶けたりおがもう無理だと言っても抱き続けた。
どれだけ抱きしめても、熱を放っても、心がすぐに乾く。すぐにりおが欲しくなる。
自分がこんなにも独占欲が強いとは思わなかった。
しかし愛している女に『信じて待っていて』と言われれば、もうそれは待つしかないだろう。赤井は目を閉じる。
C国の息のかかった危険な都市。
そこへりおと、りおを襲った相手を一緒に行かせることになるとは…。
心がざわつくが覚悟を決めるしかなかった。
「ん……」
りおが目を覚ました。
「おはよう、りお」
赤井は優しく声をかける。
「おは…ょぅ…」
りおの声は随分かすれていた。
「ひどい声だな」
赤井はクスリと笑う。
「誰のせいだと…!?」
自分で言って真っ赤になるりおの顔を見て、赤井は大笑いした。
「あはははは! お前のそういうところ、ホントかわいいな」
「もう! 茶化さないで! 思い出しただけで恥ずかしい…」
『ゆうべはあんなに乱れていたのに?』
「~~~ッ!!!」
赤井がりおの耳元に唇を寄せて囁くと、りおは盛大に照れていた。怒ると思っていたのに、予想外の態度を見せて、赤井も戸惑う。
「あ、いや、俺も無茶させすぎた…」
囁いた本人も、思わず赤くなった。
**
「今日は何時のフライトなんだ?」
赤井はまだ変装せず、朝食を食べながらりおに訊ねる。
「お昼です」
「そうか…」
それ以上の言葉は出てこないだろうな…
りおはそう思っていた。
「りお、…気を付けて行ってこい。信じて…待っているから」
まさか赤井の口から《待ってる》なんて聞けるとは思っていなかった。
一瞬驚いた顔になったが、満面の笑みで「はい!」と答えた。
滞在予定期間は長くて1週間。向こうでも出来るだけ連絡する。無理はしない。
そう約束をして、りおは空港へと向かった。
空港内のカフェでバーボンと落ち合う。あの日以来、初めて顔を合わせる。
先に店についていた安室は、席に座って本を読んでいた。オーダーした飲み物を持って、さくらは安室に近づく。
さくらが自分の真横に立った気配を感じ、安室の緊張はピークに達した。
「お待たせしてごめんなさい」
さくらの優しい声が頭の上から聞こえた。
見上げるとキレイなアンバーの瞳が自分を見ていることに安室はドキリとした。
「どうかしました?」
見事に動きを止めた安室に、さくらは心配そうに声をかける。
「え? あ、ああ。スミマセン。緊張してしまって。って! いや、そうじゃなくって!」
一人であわあわしている安室の姿にさくらは吹き出してしまった。
「ぷっ!…・ふふふ、あははは! 安室さん。緊張していたの?」
トレーをテーブルに置き、イスに腰かけた。
「お互いあの時のことはゼロにしましょう。今からスタートです」
さくらはテーブルに肘をつき、組んだ手にアゴを乗せる。
「スタート?」
「私を振り向かせるんでしょう?」
ニコニコしながらさくらが言った。
「ホントに落としに行って良いんですか?」
「私がそう簡単に落ちると思っているんですか? だいぶ見くびられましたね」
さくらは穏やかな笑顔を見せ、カフェオレを一口飲んだ。
「その代わり…私より好きな人ができたら、私の事なんてキレイさっぱり忘れてください」
「そこまで僕に気を使うのは…スコッチのためですか? 彼の親友だったから?」
「それは違うわ」
さくらは先ほどとは違う、強い眼差しを安室に向けた。
「スコッチが死んで、その時支えてくれたのがライだった。でもそのライも、スコッチの死後1年ほどでFBIだとバレて組織を去った。
あの時、組織の中であなたの存在だけが心の拠り所だった。あなたは私を覚えていないようだったけど、私は警察学校時代からあなたを知っていたわ。
NOCとして同じように神経をすり減らし、同じようにスコッチに対して、種類は違えど強い思いを持っていた…。バーボンも一緒だ、同じだと考えるだけで安心できた。話したりすることはほとんど無かったけれどね」
もし、あの時もっと話をしていたら…。
もっと同じ任務についていたら…。
さくらは僕を好きになってくれただろうか…。
話を聞きながら、安室はふとそんなことを考えてしまった。
「だからちゃんと向き合う。真正面から。同情とかそんなものでは無く。私がそうしたいの」
さくらは言葉を選びながら、自分の気持ちを伝えた。
「分かりましたよ。じゃあ、遠慮なく落としに行きますよ」
「望むところです」
二人は心底楽しそうに笑顔を見せた。