第2章 ~オドゥム編~
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昴とりおは、先週からある約束をしていた。
夏が終わり、花壇の花が少し寂しくなっていたので、花の苗を買いに行こうとりおが提案したのがきっかけだった。
ふさぎ込んでいても仕方がない。
昴はりおに買い物に行こうと声をかけた。
「そうですね。すぐ支度して来ます」
りおは返事をして自分の部屋へと向かう。
「少しは気分転換になると良いが…」
昴はりおの表情が曇ったままなことに不安を覚えた。
二人は昴の車でホームセンターへとやってきた。
春は明るい色の花が多いが、秋になると少し落ち着いた色の花が多くなる。二人で店内を回り、どこに何を植えるか話し合う。
スイートアッサム
ブルーサファイア
プリムラ
たくさんの種類が所狭しと並んでいた。
そんな二人の姿を、蘭と買い物に来ていたコナンが見つけた。
二人が花を見比べたり、育て方のコツが書かれたラベルを読んだりしている姿は、なんだか微笑ましくてこっちまで笑顔になってしまう。ニヤニヤしていたら蘭に突っ込まれてしまった。
「な~に?一人でニヤニヤしちゃって…。あ~~、さくらさんと昴さんのデートを盗み見してたのね~! おませさんなんだから!」
「い、いや盗み見って、そんなんじゃないよ」
慌てて否定するも、蘭は聞いていない。
「新一の家の花壇にお花を植えるのかな。二人が居るようになって随分花が増えてきたし、工藤家の庭も良い感じよね~」
蘭も二人の様子を見て目を細める。
「あんな感じの恋人同士ってあこがれちゃうな~。なんか信頼し合っているというか、お互いのことちゃんと分かってる、みたいな…」
私は新一のこと全然わかんないし…小さく呟いた一言を、コナンは聞こえないフリをした。
と、その時。
ガチャーン!!
きゃあああぁぁぁぁ!!
店内で大きな音と悲鳴が聞こえた。
昴とさくらは顔を見合わせすぐさま店内に向かう。
コナンは蘭に「蘭姉ちゃんはここにいて」と一言かけると、同じく店内へと走り出した。
3人が店内に入ると、一人の男がサバイバルナイフを手にし、女性店員の首を羽交い締めにしていた。
明らかに常軌を逸する姿に、さくらは一瞬エンジェルダストを投与したギムレットを思い出す。
「どいつもこいつも俺をバカにしやがって! みんな殺してやる!!」
そう叫びながらギリギリと店員の首を締め上げる。このままではナイフで刺される前に首の骨が折れてしまいそうだ。
どうやら男は強盗目的で店にやってきたようだが、警察が来るまでの時間稼ぎをしようとノロノロ金を用意する店員にしびれを切らしたらしい。
「まあまあ、落ち着いて下さい」という店員の言葉も、火に油を注ぐ結果となった。
完全に頭に血が上った男は、薬(ヤク)をやっているのか焦点が定まらず、今にも店員を刺し殺しそうな勢いだった。
「ねえ」
見かねたさくらが男に話しかける。
「…ッ! さくら!」
彼女が何をしようとしているか悟り、昴は制止しようと名を呼ぶ。
「その女性と私を交換しない?」
笑みを浮かべて男に交換を申し出る。
「ああ? 俺をバカにしたこの店員を…」
そこまで言いかけて、男はさくらの姿をまじまじと見た。
白い肌に栗色の髪、琥珀色の瞳。形のいい唇は弧を描き自分に微笑んでいる。
男はさくらの容姿に舌なめずりをすると、
「ようし、良いだろう。お前こっちに来い。お前ならたっぷりかわいがってやる」
アゴで自分の元へ来るように指示をした。
さくらは一歩ずつ男に近づく。
目の前まで来ると、男はナイフを持ったままさくらの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
ナイフの刃先がさくらの顔に近づく。
その時に一瞬、首筋のキスマークが男の目に入った。
「ふーん。昨夜はそこの色男とお楽しみだったのかい?」
男は掴んでいたさくらの服を離すと、持っていたサバイバルナイフでさくらのシャツを切り裂く。胸元にある無数のキスマークが晒された。
「ほ~お…。二人共おとなしそうな顔をして、なかなかアツいじゃないか」
ナイフの刃先でさくらの服をめくると服の片側をスルリと後ろに落とす。さくらの左肩が露わになった。刃先が触れたのか、白い肌に一筋の赤い線が見える。ジワリと血がにじんだ。
「…」
さくらは男にされるがまま、微動だにしない。
(まだよ…。男の左手にはまだ店員が羽交い締めにされている)
さくら視線はぼんやりと男の行動を捉え、チャンスを伺う。
「俺が書き換えてやるよ」
そう言って男はさくらの肌に唇を寄せた。
昴は眉間にしわを寄せ、両手の拳を握り閉める。コナンはハラハラしながら見守っていた。
(昴さんがここで飛び出すわけにはいかねえんだ。沖矢昴はただの大学院生。耐えてくれ。赤井さん!)
男がさくらの体を固定しようと店員から手を離した瞬間…
(今だ!)
さくらの肘打ちが男のみぞおちに決まる。
「ぐぅぉおおおお!」
男は後ろ向きに吹っ飛んだ。
「早く! 安全なところへ!」
さくらの指示を聞いて、店員は這うようにその場から離れた。
「こッ!このアマァッ!!」
逆上した男は目を血走らせ、サバイバルナイフを振り上げた。
男は連続で3回切り付けてくるも、そのすべてをさくらはかわす。さらに男は蹴りも仕掛けてきたが、それも避けた。
あとは一発お見舞いして、男の意識を飛ばせば…さくらがそう思った時だった。
(あ、あれは!)
店内で迷子になった男の子がフラフラとこっちにやってくるのが見える。
男の目がその子を捉えると、さくらに向かってニヤリと笑った。
「まさか!!」
「まずい!」
コナンはベルトからサッカーボールを放出しようとしたが、野次馬が多く集まっているため男が狙えない。
「チィッ!」
コナンは場所を変えようと走り出す。昴もさくらに向かって走り出した。
さくらは男の意識を自分に向けようと、連続で蹴りを仕掛ける。確かに攻撃は効いているはずなのに、興奮してさらにクスリがキマっている男には、痛みを痛みとして認知していないようだった。
瞳孔が開き真っ赤に血走った眼は、迷うことなく男の子を見ている。
(マズイ! このままじゃ…)
さくらは男の足元へ蹴りを入れる。
ガタイの良い男はバランスを崩し、膝をついた。さくらはそのスキに男の横をすり抜け、迷子の男の子へ駆け寄り抱きしめた。
そして次に来る衝撃に身構える。
ザシュッ!!
血しぶきがあたりに飛んだ。
「え?」
男のサバイバルナイフが捉えたのは、さくらを庇うように飛び出した昴の右肩だった。
「ぐぅッ!」
肩を押さえて昴が倒れこむ。
「昴さん!! 昴さん!!」
男の子を抱えたまま、動けずにいたさくらは飛び散った血と倒れている昴の姿を見て叫び続けた。
「まずは…お前からだ」
男は昴の前に立った。昴はわずかに頭を上げ、男を睨む。
さくらは焦っていた。男の子を抱え、昴を挟んで向こう側に居る男を攻撃するのは無理だ。
(どうする? どうする?)
床に流れる昴に血。
ギラリと光る血の付いたサバイバルナイフ。
さくらの鼓動は飛び出しそうなほど激しく打つ。
その時、さくらの近くにいた人が「男の子をこちらへ」と声をかけてきた。
「早くッ!あの男性を…」
男には聞こえない小さな声で言う。
さくらはその人のおかげで一気に冷静になった。
男が昴に気を取られているスキに、そこに居た客や陳列棚に隠れ、そっと男の背後に回る。
「女を守るために出しゃばったお前が悪い。あの世で後悔しな」
男はサバイバルナイフを逆手に持ち替えた。
「後悔するのはあなた…のようですよ」
痛みに表情を歪ませ、昴は男を見て言った。
「なに?」
そう問いかけようとした時、男の背後からさくらが飛び出す。
ドカッ!!
勢いをつけた蹴りが男のアバラに決まる。男が床に倒れる直前にもう1発、首もとにも手刀を入れた。
油断していた男は完全に意識を飛ばした。
さくらは昴のもとに走り寄る。
「昴さん! 昴さん! なんで…」
さくらは泣いていた。ポケットからハンカチを取り出し、傷を押さえる。
昴は体を起こすと、
「大丈夫ですよ。致命傷になるところは避けましたから」と微笑んだ。
コナンも人込みを押し分け、二人のもとに駆け寄った。
(赤井さんだったら、あの場で男を気絶させることは簡単だった。だが、今日ここにいるのは沖矢昴だ。格闘術を使って相手を倒すわけにはいかない。あくまでも昴は大学院生…。
だがもし、あのまま何もしなかったら、間違いなくさくらさんは殺されていた。
さくらさんを助け、尚且つ赤井さんだとバレないためには、身を呈して守る方法しか無かった)
ケガをしているのに、安心したような顔をする昴を見て、コナンは小さくため息をこぼした。
「止血のため…に…少し…強く縛る…から…」
応急処置をしているさくらの手も声も震えている。そして昴の血で着ているシャツも血だらけだ。
「はっ…はっ…は…ぁ…はぁ…」
「ッ!」
さくらの呼吸がおかしいことに昴が気付く。
処置が終わったところで、昴はさくらを抱きしめた。
「私は大丈夫ですよ」
背中をさすりながら、さくらに話しかける。
「ごめんなさい…ごめ…なさ……」
さくらはうわ言のように謝罪を繰り返すばかりだ。そんな姿をコナンが泣きそうな顔で見つめている。
遠くから救急車とパトカーのサイレンが聞こえてきた。