第2章 ~オドゥム編~
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ブーッブーッブーッ
朝食後の片付けをしていると、昴のスマホが着信を告げる。
りおが洗い物をしている横で、昴はチョーカーの電源をoffにして着信をタップした。
「キャメルか」
昨夜の身元引受人の詳細がわかったらしい。しばらく話をした後、
「そのデータを俺のスマホに送っておいてくれ」と頼んで電話を切った。
ピッとチョーカーをonにして、「どうやらビンゴでしたよ」
昴はにっこり笑った。
「藤枝俊政がFBIに捕まって、後に釈放された時の身元引受人は…エミリー・ハワード。
生年月日は19XX年12月8日…。パスワードのナンバーと同じ…」
「あなたの読みが当たりましたね」
「藤枝は今年36歳、エミリーは31歳って事ね。やっぱり恋人ってことかな」
エミリーの身分証明書の写真は、金髪碧眼のいわゆるアメリカ人女性だ。藤枝は黒髪黒眼のいわゆる日本人。血のつながりはなさそうだ。
「今、彼女はどこにいるのかしら?」
「キャメルからデータが来ているはずです」
昴はスマホに送られたデータを確認する。
「あった…。彼女は今、K国コムンセク市の病院に入院しているようです」
「コムンセク市? C国との国境近くの比較的大きな都市よね?」
K国とC国は同じ民族同士で過去に戦争があり、数十年前に休戦宣言がなされていた。
その後、未だに正常な国交はなされていない。
特にC国はいわゆる独裁政権に近い国となり、大国アメリカにも牙を向こうとしている国だ。
コムンセク市はK国の都市だが、C国との国境に近いため、一般人レベルでは公然と人や物資の行き来が行われているという。C国にとって、いわゆるK国内の拠点と言って良い場所だ。
これは詳しく調べた方が良さそうだと、りおは直感的に思った。
「エミリーの入院している病院名はわかりますか?」
「フェセク総合病院…ですね」
フェセク総合病院…りおはPCを立ち上げると、その病院について次々と調べを進めていった。
そしてある事実にたどり着く。
フェセク総合病院は10年前、C国のある権力者の入院・手術をしていた。その権力者の名前はチュ・ソジュン。
C国の闇組織、通称「オドゥム」の幹部だ。
「C国系組織の『オドゥム』? その名前どこかで…」
昴は過去のデータを探す。
「これだ」
黒の組織とエンジェルダストの取引をするはずだった国や組織のリスト。
その中に「オドゥム」の名があった。
「もしかして、藤枝が組織から奪いたかった情報の本命は…エンジェルダスト?」
「おそらくそうですね。
しかしエミリーの病気も本当です。彼女は藤枝と繋がりがあることから、FBIでも重要参考人としてその行動をマークしています。
それによれば、アメリカでも病気の治療歴があるようですよ」
昴はキャメルからの資料を見て考え込む。
「これはあくまで推測ですが、エミリーを人質、もしくは病気の治療を条件に、藤枝に情報屋をさせているのかもしれません」
「確かに有り得ます。ですが、ジンにはどうやって報告しましょう…?」
さすがにFBIの情報をそのままジンに渡すわけにはいかない。
「藤枝がオドゥムの犬だということだけ知らせましょう。おそらくジンのことですから、藤枝の狙いがエンジェルダストに関することだとすぐ気付くでしょうから。それでジンの出方を見ましょう」
「分かりました」
りおはジンに『藤枝のバックにいるのは《オドゥム》』とだけメールを送った。
間もなくジンから電話がかかってくる。
「もしもし?」
「ラスティー、よく調べたな。あいつらの目的はギムレットのレポートだ。俺たちがサカモトを使っても見つからなかったレポート。藤枝に探させるっていうのも悪くない。ヤツを生きたままアジトに連れてこさせる」
暗殺から拉致に変わった。当初の作戦は成功と言って良いだろう。
「藤枝の気持ちを動かす切り札が欲しい。それを探しておけ」
そういって一方的に切られた。
「切り札はエミリーで間違いありません。
彼を組織に招き入れられなければ、迷わずジンに殺されます。聞かれたらエミリーの事も伝えるべきでしょうね」
昴のアドバイスに、「分かりました」とりおは答えた。
殺される可能性が消えたので、チェンシーには藤枝を釈放して良いと伝える必要がある。
りおはスマホを取り出すとチェンシーに電話をかけた。程なくして、元気な中国語が聞こえてきた。
『さくら! ちゃんと生きていたわね!あなたなら大丈夫だと思っていたわ。
あなたの上司の風見さんの方が死にそうな声出していたわよ』
彼女らしい挨拶に思わず吹き出した。
「風見さんの死にそうな声なら私も聞いたわ。ホント申し訳ないことしちゃった」
ふふふとふたりで笑い合う。
『それで? 藤枝のことで電話してきたんでしょ?』
「ええ。アタリ。明日か明後日には釈放していいわよ」
『了解! ホント彼を見つけたのは良いけど、身柄を確保しろったってセーフハウスはすぐ用意出来ないし、あなたとはその後不通で詳細を聞けないし。結局牢屋が一番安全かなって思ってね!』
「正解だったわ。あなたしか出来なそうよ、そんな作戦。職質からよく逮捕勾留まで取り付けたわね!」
彼女の行動力や起点の良さに、昔は何度も助けられていた。今となっては懐かしい。
『でもホント、さくらが無事で良かった。また会いましょう!』そう言って彼女は電話を切った。
「中国語お上手なんですね」
隣で聞いていた昴が感心している。
「ケンバリにいた頃は中国語を話す人も多かったですから」
りおはそう言って少し寂しげに微笑んだ。
「藤枝は明日か明後日のうちに釈放されます」
そこでコルン達に身柄を拘束されれば、日本に帰ってくるだろう。そして再びギムレットのレポート探しが始まる。
すぐにりおの表情が曇った。
レポートは、サカモト達が数週間探しても見つからなかった。
そして組織は知らないが、ラオスにあったギムレットのPCに残っていた、未完成の解毒剤のレポート。それらの状況証拠から、エンジェルダストの生成レポート(ギムレットレポート)は、ギムレット本人によって完全にデリートされたと推理している。
だが、それを裏付けるものがあったわけではない。
(もしも…。もしもレポートがまだ存在していたら…)
そう思うとりおは不安でたまらなかった。
「ギムレットのレポートに関しては、私もコナンくんもあなたと同じ見解です。心配いりません」
りおの気持ちを察してか、落ち着かせるように昴は言う。だが、りおの顔から不安の色が消えることは無かった。