第2章 ~オドゥム編~
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さくらが出て行ったあと、降谷は部屋でひとり考えていた。
なぜ彼女にこんなにも執着してしまうのか? 今までのように感情にフタをしておくことは出来なかったのか?
長野で二人きりの時間があったせいか?
ヒロの想い人だから守りたいのか?
赤井秀一の女だから奪いたいのか?
単純に降谷零が彼女に恋をしたのか?
自分のことが分からなくなってしまった。
こんな気持ちでさくらと対峙して、結局彼女を傷付けた。
自分はあんなふうに酷く彼女を傷付けたのに、彼女は自分を傷付けまいと…。
たった今襲ってきた相手を抱きしめて、正々堂々と心を奪いに来いと言い放った。
(ヒロが惚れただけのことはあるな…)
そうつぶやいて自嘲気味に笑った。
***
ガランとしたアパート内。
りおはベッドに突っ伏していた。今になって無性に怖くなった。
信頼していた人に、無理やり体を押さえられ、自分の意思と関係なく衣服を剥ぎ取られそうになったのだ。
どうにも力で抵抗できないと観念したとき、赤井の顔が浮かんだ。(ごめんなさい)謝る事しか出来なかった。
せめて赤井を好きだという心は、絶対に守ろうと決めていた。どんなに自分が汚れても、ボロボロになっても。
そう、強く思っていてもやっぱり怖かった。
安室に体を奪われても、赤井は自分を好きだと言ってくれるだろうか?
そう考えただけで涙が出た。
日中の疲労感も手伝って、涙をこぼしながらりおはうつらうつらと眠りの淵を彷徨った。
ガタン…
「ッ!」
その時、玄関から物音がした。
りおの目がカッと開く。
ここは公安所有の部屋だが、表向きは空き部屋だ。泥棒が入ってくるとは考えにくい。
どうやらピッキングをしているようだ。
りおは銃を持つと、静かに玄関へ向かい、手前の部屋に身を潜めた。
ガチャリとドアが開き、人影が中に侵入したことを確認する。
「誰?」
一気に侵入者の前へ飛び出し、銃を突きつけた。
「ッ?!」
侵入者を見て、りおは息が止まるほど驚いた。
「す、昴さん?!」
りおは構えていた銃を下ろし、しばらく昴を見たまま動けない。
「……どうして…ここが?」
状況を把握しきれないまま、小さく問いかけた。
「風見くんを尾行したんだ」
さも、普通のことのように昴は言う。しかも声は昴だが口調は赤井だった。
「は? なぜ風見さんを?」
「お前と接点を持つ人物をはっていれば、居場所はすぐ突き止められると思ったんだ」
(そうだ…この人FBIの切れ者だった…)
自分の認識の甘さに腹が立つ。
電話で自分が泣いている事に気付いていた。
一晩安否が分からなかった相手が電話の向こうで泣いていたのだ。赤井が何も手段を講じずに大人しくしているはずが無い。
りおは黙って目を逸らすと、昴が先に声を発した。
「まだ寄るところとは公安所有のアパートのことか? だったら俺に顔を見せてからでも遅くはない」
昴の声が低い。りおは目を逸らしたまま唇を噛む。
「りお。何があった?」
その質問にりおの肩がビクッと動いた。しかし何も話そうとはせず、だんまりを決め込む。
言葉で問いかけても答えないなら…と、昴が一歩りおに近づいた。するとりおは怯えた様に一歩下がる。
「ッ!」
それを見て、昴は逃がさないと言わんばかりに速足で二歩歩み寄ると、銃を持つりおの手首を掴んだ。
「い、痛ッ!」
ゴトッ!
りおは悲鳴を上げると銃を床に落としてしまう。
「そんなに強く掴んだ覚えは…」
そう言いかけて昴は息を飲む。りおの手首は何者かに強く掴まれた痕がくっきり残っていた。しかも両手首に。
驚いて顔を見た時、気付いてしまった。首筋にある赤い印を。
「ッ!!」
乱暴にりおの洋服の胸元を開く。りおは必死に抵抗するが力でかなう相手ではない。
ブチブチッとボタンがいくつか弾けとんだ。
「ッ! 何だこれはッ!」
首筋から胸元にかけて、無数のキスマークが付けられているではないか。他にも二の腕と背中には大きな青アザがある。
「襲われ…た…のか?」
りおの顔を覗き込む。アンバーの瞳が揺れている。
「安室くん…に?」
否定も肯定もしなかった。だが、沈黙は肯定だと昴は感じた。
「最後まで…されたのか?」
それには首を横に振った。
「はぁ~~……」
りおの答えを聞いて、昴は大きく息を吐いた。
「乱暴なことをして…すまない」
りおに服を着せ、そっと抱きしめた。
「うっ…ふっ…えっ…」
りおは涙を我慢することが出来なかった。
「ご…ごめ……さい。私…しゅ…秀一さん…じゃ…なきゃ嫌…なのに……襲われて…どうにも…抵抗…できなく…て」
りおは泣きながら先ほどのことを昴に伝える。
「体だけ…なら…あげる…って言ったの」
「ッ!」
その言葉に昴の体が一瞬強ばった。
「でも! …でもっ! 心はあげないっ! 心は赤井秀一のものだって! そう伝えたの…」
「バカッ!そんなッ!」
そんなこと言ったのか! と最後までは言葉にならなかった。
どうにも抵抗できず、体を切り捨てる代わりに、一番大事な部分は手放さない。そんなこと言われて…。その一番大事な部分が赤井秀一(俺)だなんて…。
その破壊力は想像以上だ。
(お前は俺を殺す気か…?)
言葉にはしなかったが、心臓が早鐘のようだ。呼吸も速くなる。
「りお…」
抱きしめる手に力が入る。
「なあ、今日は一緒に帰ろう。怖い思いもしたんだろう? 何もしないから…。お前を抱きしめて…。それだけで良いから…」
力を抜き、体を離すとりおの顔を覗き込む。
「夕べだってずっと…ニュース見ながら心配で…」
優しくりおの頭をなでながら、昴(赤井)は思いを伝えた。
「良いの? 私、あなたを裏切っ……」
「裏切ってないよ」
りおの言葉にかぶせるように、それを否定する。
「むしろ守ってくれたんだろう? 俺への気持ちを。あんな愛の告白あるか? 嬉しくて死にそうだったよ。相手だってそれを聞いて、襲うのを止めたんだろう?」
「うん…」
「もし、最後までされていたとしても、りおへの気持ちは変わらないよ。お前の気持ちは十分わかっているから」
昴(赤井)は再びりおをぎゅっと抱きしめた。
結局アパートの部屋を片付け、りおは昴(赤井)と共に工藤邸に戻った。