第2章 ~オドゥム編~
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『もしもしっ!』
昴の焦った声が聞こえて、自分でもびっくりするほど安心する。
「す、昴さん。私です」
『りお! 無事なんだな!』
話し方が秀一さんだよ…。そう突っ込みたいのに、涙が後から後からあふれてくる。
泣いていると気付かれないように、努めて明るく話をした。
「心配かけてごめんなさい。潜入先は圏外になっちゃうし、崖崩れには遭うし、その後ラボに連れて行かれたので連絡できなくて…」
『ラボに? ケガでもしたのか?』
「私じゃなくて安室さんがね。木が倒れてきたの。でも、幸い大きなケガではないから、全治2週間ってところかな」
そうか、大したことがなくて良かったと言う昴の声を聞き、会いたいという気持ちが強くなる。でも今は…。
『今どこにいるんだ? 顔を見たいからこっちに来ないか? 迎えに行くよ』
「ごめんなさい。これからまだ行く所があるの」
涙を隠して嘘をつく。ツンとのどの奥が痛い。
(会いたいよ。会いたいのに…)
零れる涙はスマホを握る手を伝って落ちた。
「そうか…」
昴の声がわずかに沈む。これ以上話すのは辛い。りおが「それじゃあ」と電話を切ろうとすると、
「りお」
昴に名を呼ばれた。
「ん?」
「……なぜお前は泣いているんだ?」
「ッ!」
バレていた。だがその質問には答えられなかった。
「ごめんなさい」
そう言ってりおは一方的に電話を切った。
涙を拭き、深呼吸をした。泣くのは今じゃない。自分にはまだやらなければならない事がある。
気持ちを入れ替え、今度は風見に電話をした。
『広瀬!』
電話はすぐにつながる。
「降谷さんから連絡は?」
『いや、まだだ。一緒じゃないのか?』
風見からの問いに二人共無事だということ、降谷は腕にケガをしたことを伝えた。
「藤枝はどうなりました?」
『君の協力者がすぐに見つけ出し職務質問をして、今中国の牢屋に入っているよ』
「ええ? 牢屋?!」
風見がクスクス笑っていた。
これほど安全な場所はなさそうだ、と大笑いしている。
「確かにそうですが…」
「お前からの連絡は切羽詰っていたようだったし、あちらも手段を選んでいるヒマがなかったと言っていたよ」
チェンシーの『文法がイマイチな日本語』には苦労したよ、と風見が付け加える。
中国に住む協力者…チェンシーの大胆な行動に驚きつつ、まくしたてるような彼女の良く分からない日本語を思い出して、りおも苦笑いをした。とにかく間に合って良かった。
(この流れなら、大丈夫かな…)
「風見さん、ひとつお願いがあります」
気をよくした上司に、ひとつだけわがままを言った。
風見に頼み込んで、公安所有のアパートの一室を数日間借りることになった。
1時間後に近くの広場で風見と落ち合い、一緒にアパートに入る。
必要最小限の物しか無いから…と、食料や飲み物、女性用の着替えを渡された。
「き、着替えは女性の刑事に用意してもらったからなッ。俺はノータッチ」
「まだ何も質問していませんよ」
「え? ああ、そっか」
あたふたしている風見の姿にふふふっと笑いが込み上げる。
「広瀬、何かあったのか?」
突然風見が心配そうに声をかけてきた。
「降谷さんと何か…あっただろう。『降谷さんに内緒でアパートを借りたい』だなんて。ニブイ俺でも分かる。それに…」
「それに?」
りおは顔を上げて風見を見る。
「見えてる。首のところ」
「?!」
慌てて首元の服を掴んだ。
「冲矢さんにその姿を見られたくないから、自分のアパートにも工藤邸にも行けない…という訳か」
「さすが公安のエース」
「茶化すなよ」
風見はメガネを右手の指で押し上げると、「やはりそうか…」と小さく息を吐いた。
「ここは好きなだけ使って良いから。木馬荘からそんなに離れていない部屋だから、降谷さんも使わないし。内緒にしておいてやるよ」
風見はりおに背を向け、話を続けた。
「俺たちの上司は頭が切れる。でも、そんな超人的な人も『人』だったんだな。ちょっと安心した。お前に自分の感情をぶつけてきたんだろう。今まで全ての感情を仕舞い込んできただろうから。お前と同じように」
悲しみも怒りも、潜入中は表に出すことは許されない。その辛さはりおにも痛いほど分かる。
「恋愛だけが男と女の関係じゃないと俺は思う。俺は俺とお前の関係も気に入っているし、上司とお前の関係もキライじゃない。
人との繋がりは1つじゃないんだよ。1つに決める必要もないしな。
まあ、上司は上司で今、いろいろ考えているだろうから、お前もいっぱい悩め! たまには一般人らしい事もしないとな。じゃあな!」
そう言って風見は部屋を出ていった。
「何よ! 風見さん! 人の気も知らないで! かっこいいコト言って!」
上司が出て行ったドアに向かって、りおは悪態をつく。
「でも…ありがとう…」
風見なりの優しい言葉が嬉しかった。