第2章 ~オドゥム編~
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「ぅん……」
さくらが目を覚ました。薬が効いて眠ってしまったらしい。
昨晩は風雨の中一晩中起きていたので、その疲れも出たのかもしれない。時計を見ると午後4時を回っていた。
(少しだるいけど…さっきよりだいぶ良いかな…)
さくらはベッドから起き上がり、安室の様子を見に隣の部屋へ向かった。
コンコン
遠慮がちにノックをして病室に入る。安室も眠っているようだった。
そっとその首筋に触れる。抗生剤の点滴をしたおかげで熱もだいぶ下がっていた。
もっとも、さくらも微熱が有るので高熱では無いと分かっただけだが。
「さくらさん」
不意に名前を呼ばれた。
「起こしてしまいましたか…。スミマセン。私はこれで帰ります。明日また来ます」
その時着替えも持ってきますねと告げると、
「僕も一緒に帰ります」と言って安室は体を起こした。
「何言ってるんです。無理しちゃダメですよ」
さくらは何度もなだめたが、安室は「鍛えているのでこれくらい大丈夫」と言ってきかなかった。
結局無理を押し通して、二人でラボを出た。
近くの駅までラボの職員に送ってもらい、米花町の駅まで電車に乗る。
電車に揺られながら昴に連絡をしようと思ったが、タイミング悪くスマホの充電が切れてしまっていた。
お互いに盗聴器や発信機の類が付けられていないか調べ、さくらは木馬荘の安室の家まで彼を送った。
布団に寝かせ、湯を沸かしてお茶を入れる。その間にスマホの充電をさせてもらった。
微熱があるせいか、疲れのためか体が重い。二人分のお茶をどうにか入れ、風見や昴に無事の連絡を入れようとした時、安室にその手を掴まれた。
「まだ連絡するな」
「え? だって皆心配しています。早く無事をしらせな……」
そこまで言いかけたところで、掴まれた手を引かれ、さくらは安室に抱きしめられた。
「もうしばらくこのままで」
安室の腕は何度もさくらを抱きしめた。
どれくらいかして、さくらを抱きしめたまま安室は話しかける。
「君がヒロの想い人だと知ったときは驚いたよ。君はヒロが初恋だった?」
少し間を置いて「ええ」とさくらは答えた。
「俺はあの時、君に嫉妬していたんだ。親友を取られた気持ちになって。でも今は…あの男に嫉妬しているよ…。赤井秀一に」
さくらは黙って聞いていた。
「君は今、彼を愛しているんだろう?」
「ええ」
「そうか…」
さくらの返事に、安室の声が低くなる。
「ではヤツから君を奪う…と言ったら?」
「え?」
ガタタッ!ドサッ!
さくらが聞き返す間もなく、押し倒された。
安室はさくらに覆いかぶさり、首筋にキスをする。
「はっ! や、やめ…ぅん」
やめてと伝えようとしたが、それも安室のキスで塞がれた。言葉を発しようと口を開けていたため、簡単に舌の侵入を許してしまう。
「ふぅッ……んッ…んんんッ」
両手首を押さえられ、足元も安室の体重をかけられて押さえつけられれば、さすがに身動きが取れない。
舌は容赦なく絡められ、舐めあげられ、呼吸すらも奪われる。
体をよじり力の限り抵抗するが、到底どうにかなる相手ではなかった。ましてや微熱で体がだるい。頭がクラクラしてきた。
「ぷはっ!」
ようやく唇が離れ、肺に空気が入る。呼吸に気持ちが向いたその一瞬で、安室はさくらの両手首をひとまとめにして片手で押さえる。空いた手でさくらのシャツのボタンをはずし始めた。
ついばむ様に唇へのキスをして、やがて首元…耳…そしてあいた胸元へと下がりながら、いくつもいくつもキスを落としていく。
「あ、あむ…ろさんっ! や、やめ…! んっ!」
何度も強く肌を吸われ、痛みが走る。
手も強く押さえられているせいか、痺れて感覚が無い。押し倒された時にテーブルにぶつけた背中も、ジクジクと痛みが広がる。
しかしそれよりも赤井の顔が浮かび、心が痛むのを感じた。
(秀一さん! 秀一さん!)
心の中で赤井の名を呼ぶ。アンバーの瞳から涙がこぼれ落ちた。
自分の力ではどうすることも出来ないと悟ったさくら。諦めたように全身の力を抜いた。
まさか抵抗をやめるとは思わなかった安室は驚き、さくらの顔を見た。
「体だけで良いならあげるよ」
さくらの言葉に安室の動きが止まる。
「でも心はあげない。心は赤井秀一のもの」
そう言われて、安室はビクリと体を揺らす。
「俺は君の体が欲しいわけじゃない! 心が!」
「じゃあ、なぜこんな事するの?」
さくらは泣いていた。
安室はさくらの涙を見て、ヒロと話をしているさくらはいつも笑顔だったことを思い出す。そしてヒロも。
こんな顔をさせたかったワケじゃないのに…
安室の体から力が抜けた。体を起こし、さくらに背を向ける。
さくらは体を起こすと、背を向けた安室を見る。下を向いたままの彼を辛そうに見つめた。
気まずい空気の中、さくらはただ黙って安室を見つめていた。
彼が今傷ついていることは分かるが、何を言ってもさらに傷つけてしまう気がする。
かといってこのまま立ち去ることも出来ずに、心の赴くまま、さくらは安室の体を抱きしめた。
「ッ!」
まさか抱きしめられるとは思っていなかった安室は、驚いたように目を見開いた。
「奪うならこんな風に体じゃなくて、正々堂々と心を奪いに来てよ。少なくとも私はあなたを信頼している。信頼を愛に変えてみせて。もちろん、そう簡単に落ちる気はないけど……」
さくらは右手でそっと安室の頬に触れる。
「またね。バーボン」
少し悲しげに微笑むと部屋を出ていった。
部屋を出たさくらは乱れた服を直し、通りへと出る。そのまま河川敷へと趣いた。人通りの少ない橋の下で自分の体を確かめる。
首元から胸元まで安室に付けられたキスマークがいくつか見えた。
手首を見れば、強い力で握られた痕が残っている。このまま自宅アパートに帰っても、音信不通だった自分を心配して、昴は会いに来るだろう。
(こんな姿見せられないよ…)
それでも連絡をしないわけにはいかず、スマホを取り出すと《沖矢昴》の名をタップして電話をかけた。