第2章 ~オドゥム編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幸い二人は別の部屋へ移動しようと荷物を持っていたため、機材も含めて無事だった。だが土砂が建物の周りを囲む様に流れてきたため、建物から脱出できない。
また、その建物も1階の廊下やエントランス部分、2階へあがる階段とその周辺の壁が土砂で流されたり埋まったりしたため、2階の階段付近から外が丸見え状態だった。
これではコルン達にヘリで迎えに来てもらうしかないが、台風が過ぎなければヘリは飛ばせない。しばらく足止めが決定となってしまった。
ただ幸いなことに、2階には階段を上がってすぐのフリースペースとトイレ、簡易キッチンが無事だった。1日2日なら過ごせそうだ。
問題は暖房機器が無く、家は半壊状態なので風雨の吹き込みがあることだった。
ふたりはフリースペースの奥に、物入れの中で無事だった毛布や布団、カーテンなどを持ち込み、家具などで雨が当たらないようにバリケードを作る。
これで急ごしらえではあるが、雨風を防ぎ暖を取る事が出来そうだ。
ただ建物の裏手の崖からは時折不気味な音が聞こえ、いつまた土砂が押し寄せるかわからない状況だ。
安室は簡易キッチンから食料と水を探し出す。非常用の電灯も見つけてきた。これでひと晩明かすしかない。
「ツナ缶に非常用のパン、非常用のご飯、チョコレート、乾パン。これだけあれば何とかなるかな」
安室が安堵の表情を浮かべる。
「ええ。水も500mlが10本ありましたし」
さくらも微笑んだ。しかし先ほどの土砂崩れで風雨にさらされ、二人共びしょ濡れだ。
さらに、壊れた家具などで周りを囲ったが、台風が近づくにつれ、風雨はますます強くなり、体感温度は実際より低く感じる。
「さくらさんこちらへ。二人でくっついていたほうが温かい」
そう言って安室は肩から毛布をかけ、さくらを呼ぶ。寒さでガタガタと震えるさくらの肩をそっと引き寄せた。
すでに日没からだいぶ時間が経ち、辺りは真っ暗だった。ビュービューと風雨の音だけが不気味に響く。
ずっと山道を歩き続けた疲労もあるのだろう。二人でくっついて暖を取るうちに、さくらはうつらうつらし始めた。
「フフ。さくらさん、お疲れですね。良いですよ。今のうちに眠っておいてください。いつまた土砂が押し寄せるか分かりませんしね…」
安室はそう言ってさくらを寝かせてくれた。
***
昴は広い工藤邸でひとりバーボンを飲みながらネットニュースを見ていた。
サカモト製薬の事件後、体調が良くなったりおは、自分のアパートに戻っていった。
一緒にこのまま暮らさないかと提案したが、沖矢昴とラスティーの接点を組織に知られるのはまずいと言って、頑として首を縦に振らなかった。
「ホント、言い出したら聞かない人だ…。まあ、そんなところにも惚れたんですけど…」
なんて、一人だから言える。
ネットニュースでは太閤名人勝利の記事が出ていた。昴の口角が自然と上がる。
記事にざっと目を通し、台風情報に切り替えた。
今夜遅くから明日朝にかけて台風はゆっくり進み、関東と近県は大荒れだという。
日中に工藤邸の周りで飛ばされそうなものは片付けておいた。大きな災害にならなければ良いが…。
ふとスマホを見るとメールが来ていた。
(片付けをしていて気付かなかったのか…)
着信は今日のお昼過ぎ、差出人はりおだった。
『組織の任務で今日はバーボンと長野の別荘地に行きます。夜にはそちらに伺います』とあった。
夜…とあるが何時に来るつもりなのだろう。今は19時を回ったところだ。台風の影響で交通機関にも影響が出ている。また連絡が来るだろうと、そのときは簡単に考えていた。
風雨がだいぶ強まり、関東、特に長野の方は大丈夫かと20時半頃に台風情報を観ようとテレビを付けた。
『繰り返しお伝えします。今日午後7時30分頃、長野県東部で大規模な土砂崩れが発生しました。
警察や消防によりますと、土砂崩れは複数の場所で起こっており、そのうちの一つは温泉街、もう一つは別荘地で発生している模様です。
この土砂崩れによる被害の状況は今のところ分かっていません。新しい情報が入り次第お伝えします!』
「ッ! 土砂崩れ…?!」
突然のニュースに昴の顔が険しくなる。
番組はすでに特番になっていて、繰り返しニュースを読み上げられている。アナウンサーの後ろはアクリル板で仕切りられ、その向こうでは、テレビ局の局員が忙しなく連絡を取り合っている姿が見えた。
やがて新しい原稿がアナウンサーへと手渡される。
『只今入ってきた情報によりますと、温泉街の近くで起きた土砂崩れでは一部の温泉旅館を巻き込み、多数の死者・行方不明者が出ている模様です。繰り返します。只今入ってきた……』
「りおは大丈夫なんだろうか?」
昴はテーブルへと視線を移す。一向に鳴らないスマホを見て、昴は一抹の不安を覚えた。
***
崩れた建物の外は相変わらず荒れた天気だった。風雨はどんどん強くなる。あちらこちらでガラガラと石が崩れる音がした。いつ崖が崩れるかわからない。
さくらも目を覚まし、あたりの物音に耳を澄ませていた。正直、建物の真裏の崖が崩れたら一環の終わりだ。ドドドドドという音が遠くで聞こえる。またどこかで崩れたのだろう。
地響きが続く。この振動が伝わらなければいいと安室は思っていた。
ザワザワザワ……
近くで木々が大きく揺れる音がした。
バキッ! バキバキバキッ!!
続いて木が倒れる音———
ズザザザザザザーーーッ!!!
安室とさくらの視線が音の方へと向けられる。
「地すべりだ!!」
安室が叫んだ。
おそらく昼間登ってきた山道の方だ。
ドドドという音と木が倒れ、土砂に巻き込まれる音が響く。
ふたりはとっさに身構えた。建物の周りは完全に土砂に埋め尽くされて、逃げ場はない。
もし地すべりが連鎖してこの場所でも起きれば、二人がいる所は直撃だ。まさに万事休すの状態だった。
だが焦りを感じる安室をよそに、さくらはなぜか余裕だ。不思議に思い、安室は声をかけた。