第1章 ~運命の再会そして…~
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4日後の8月8日午後10時
周辺は3日前から電話線の工事のため、夜間の交通規制がされていた。そのため、いつもは車通りが激しいこの通りも今日は閑散としていた。
また、歩行者通路も迂回路を用意されていたため、人通りもほとんどない。公安警察がうまく手を回したようだ。
サカモト本社ビルの屋上には赤井とさくらの姿があった。二人共上下黒の服を来て、帽子を被っている。
事前の調査・検証でエンジェルダストの工場は、やはりサカモトビルで間違いないという結論に至った。また、ラオスで見つかったギムレットのPCの解析も進み、彼が爆弾を仕掛けた場所もこのビルでほぼ確定している。
後は直接目で見て確認するのみだ。
「よし。行くぞ」
「ええ」
二人は屋上の通気口から侵入を開始する。
垂直に階下に降りるため、簡易の避難ばしごを設置しながら慎重に降りていく。
1階までは赤井も通れるくらいの広さがあったが、地下へ伸びる垂直な穴はさくらがギリギリ通れるくらいだった。地下へはさくら一人で降りていく。
10分後——
ワイヤレスイヤホンを付け、それぞれの持ち場についた。
ふたりの帽子には小型カメラが付いており、その様子は博士のPC、赤井・さくら双方のタブレット、降谷のスマホで見ることが出来る。
赤井は警備部の上を通り過ぎ、となりの機械室へと忍び込む。ここは出入り口にカメラがあるものの、室内にカメラが無いことが分かっていた。
大きなパネル盤の扉を開け、ジャケットの中からタブレットとケーブルを取り出す。慣れた手つきでパネルとタブレットをつないだ。
地下2階にある3台の防犯カメラ。この1時間の映像を早送りして誰も映っていないことを確認。警備部のモニターを再生に切り替える。
1時間後には自動的に録画に切り替わるようにしておいた。
細工が終わるとタブレットをしまってパネル盤の扉を閉じ、再び通気口へと戻る。
イヤホンのマイクに向かって「カメラOK」と伝えた。
赤井の報告を聞き、工場の真上で待機中だったさくらは内部に侵入する。工場は現在閉鎖されており、機械類には白い布がかぶせられていた。
アクリルの間仕切りで仕切られたスペースに、数台のパソコンと、さくらの腰の高さほどの金庫があった。金庫に一番近いPCの電源を入れる。
PCが立ち上がるまでの間、金庫を丁寧に調べた。
特段変わったところが無いように見えたが、金庫の真下の僅かな隙間をライトで照らした時、さくらは息を飲む。
金庫の裏全面にプラスチック爆弾が仕掛けられていたからだ。
巧妙に配線が隠されていて、それがデスクの下で小さなボックスを経由してPCにつながっている。化学式や数式の美しさにこだわるマッドサイエンティスト、ギムレットらしい仕掛けだった。
イヤホンで「プラスチック爆弾によるギミック(仕掛け)を確認」と全員に報告した。
さくらの帽子に取り付けられたカメラが、その様子を映し出す。
「金庫を開けてみても大丈夫かしら?」
「ちょっとまって。僕に全体が見えるようにしてもらえるかい?」
降谷からの指示を聞き、帽子のカメラを使って金庫周辺を映した。
「見える範囲でトラップはなさそうだ。金庫のロックを外して扉を開けるとき、内部にワイヤーが無いか確認して」
「了解」
さくらは金庫のダイヤルをゆっくり左右に回し、ものの数分でロックを解除した。降谷に言われた通り、扉を少し開けると僅かな隙間にライトを当てて、ピンを引っ張るワイヤーが無いか確認する。
「トラップはなさそうね。開けてみるわ」
金庫の扉に手を掛けるとゆっくりと開けた。
そこには150kgのエンジェルダストが収められていた。金庫の内部も調べてみると、外側のプラスチック爆弾と連動して爆破されるように、棚の内側にも爆弾が仕組まれていた。
さくらは金庫内部をタブレットで撮影すると、そっと扉を閉めた。
PCが立ち上がったことを確認し、博士から預かったUSBメモリを差し込む。マウスを動かしリムーバブルディスクをクリックすると、ものの数秒で作業は完了した。
さくらはPCの電源を落とし、今度は工場の生成機器の元へ急ぐ。
工場の中に入ってグルリと見回す。整然と並んだ機械類。今は布を掛けられているが、素人目に見ても間違いなくここが薬を作る工場だと分かる。
建物案内にあるような、倉庫・書庫・利用廃棄物一時保管所だとは到底思えない。
ギムレットが爆弾を仕掛けていることといい、この設備といい、ここがエンジェルダストの生成工場と見て間違いなさそうだ。
「ここであんな悪魔の薬を…」
さくらは薬を注射したギムレットの事を思い出す。
あんなふうに兵器化した人間が、街のいたるところに潜んでいるなんて…。
考えただけでも背筋が凍る。エンジェルダストは完全に消し去らなくてはならない。
手袋とマスクを付け、機械に残っていた僅かな粉末をチャック付きの小さな袋に入れる。それをポケットにしまった。手袋類を外し長居は禁物だと、もと来た通気口へジャンプしようとしたとき、背筋にゾクリとしたものを感じた。
(なに? この感じ…。ギムレットがラボの個室に入ってきた時と同じ感覚…。まさか…、まさか…)
「どうした? さくら」
イヤホンから赤井の声が聞こえた。
「秀一さん…このフロアに誰かいる…」
「何?」
工場は閉鎖されて時間が経っている。従業員も今はいないはずだ。今日はパーティーで幹部もそちらに行っている。
「それが…人じゃ…ないような…何か…」
さくらの声が震えている。
「人じゃない? どういうことだ?」
はぁ…はぁ…はぁ…
さくらの呼吸が荒い。
「さくら! 大丈夫か? 人じゃないってどう…」
そこまで言いかけて赤井は何かを悟った。
「おい、まさか…」
「わからない。だけど…誰かに見られてる。確実に誰かいる」
「……今からそっちに行く」
「え?」
「1階から下の防犯カメラを全て再生に切り替える。機械室を出て非常階段を使ってそっちに行くから、さくらもそのフロアの非常階段前に待機しろ。おそらく鍵が掛かっている。開けておいてくれ」
「了解。1階はまだ人がいるわ。気をつけて」
「ああ。わかった」
赤井は再び機械室に戻り、タブレットをパネル盤とつなぐと1階から下の防犯カメラを全て再生に切り替える。
そのまま機械室のドアを開け、1階エントランスの様子を伺った。
機械室を左手に出て廊下をしばらく行くと、非常階段の階段室だ。
そこまで誰にも会わずに行かなくてはならない。廊下には部屋が無いため、鉢合わせしたら隠れる場所もない。ほとんどイチかバチかだ。
そっと機械室から出ると、気配を消して非常階段を目指した。
階段室のドアが閉まるのと同時に、別の方向から来た社員二人組の声が聞こえた。赤井はドア越しにしばらく様子を伺うが、どうやら気づかれなかったようだ。
ホッと安堵のため息をつき、地下2階へと急いだ。