第1章 ~運命の再会そして…~
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今回のバーボンとラスティーの活躍に、組織の上層部は大喜びだったようだ。
ジンも今回は機嫌がいい。珍しく二人を労った。
しかしゴキゲンなジンとは裏腹に、ベルモットの表情は浮かない。
「今回バーボンと二人だったものの…。まさか臓器売買とは…。発作が起きなければ良いのだけど…」
そう。夏の前…この時期は毎年ラスティーの体調が良くない。
さくらが以前いた組織が壊滅し、さくらの仲間がたくさん死んだ。それが丁度夏の少し前。日本の梅雨の時期と重なる。
「仲間のために戦い、仲間のためなら死ねると言った。そして全てを失ったあの子は…。例え敵の死でも、あの子の心を傷つけるには十分。
人の死に敏感すぎるのよ…。この世界に向かない子…。やはりあの動画は見せるべきでは無かった…」
そう呟きながら、ベルモットは雨が降り続く窓の外を見ていた。
***
今回ラスティーと組み彼女の仕事を間近で見た安室は、彼女の仕事の速さ、正確さ、大胆さに感嘆するも、それとは真逆の違和感を持つ。
組織に溶け込み、ジンのお気に入りとまで言われている彼女が臓器売買の取引を見たとき震えていた。
先日ポアロに来た時も彼女の美しさに一人の男性客が声をかけていたけれど、嫌な顔一つせず丁寧に対応していた。
時折見せる組織のメンバーとしてかけ離れた姿。彼女は一体何者なんだと疑問に思う。少しでも彼女を知りたいと思い周辺を探るが、情報操作されているのか何も出てこない。
こうなったらベルモットに聞いてみようと思い、彼女のスマホにかけてみた。
電話に出たベルモットは一瞬沈黙したが、
「あなたは知っていたほうが良いかもしれない。いいわ教えてあげる。今からいつものお店に来れるかしら?」
そういって電話を切った。
ベルモットが指定した店は全てが個室になった、いわゆるセレブ御用達の店だ。誰にも邪魔されず秘密の話ができる。
電話から約1時間後———
店で落ち合った二人はテーブルをはさんで向かいあう。
ベルモットはふたり分の飲み物を頼むと、
「さて、何から話そうかしら?」といってテーブルに肘をつき足を組んだ。
長い時間をかけ、安室はベルモットからさくらの過去を聞いた。自分が想像していた以上に過酷な内容に息を飲む。
「始めは諜報活動の他にも、情報伝達や武器の調達等で殺しの現場にも行ったけれど…。
そのうち頭痛や吐き気なんかを訴えるようになってね。極めつけは、公安の裏切り者…。名前はなんだったかしら?」
「スコッチ…ですか?」安室が呟く。
「そうスコッチの死も目撃してしまったらしいわ」
「!?」
「最近ではあの赤井秀一の銃殺動画をジンが彼女に見せてしまったの」
それ以来顔色も優れないし、食事もあまり取れていない…と、ベルモットは言う。
「とりあえず、ジンには殺しにかかわる現場にラスティーを行かせるなと言ってるんだけど。この世界にいる以上、避けて通れないしね。
バーボン、あなたそういうところ気が利きそうだから…。彼女のこと頼むわよ」
タバコに火を点け、そっと安室に依頼する。
「善処します」今はそう答えるよりほかなかった。
ベルモットからラスティーの過去を聞き、安室の彼女への興味は膨らんでいく。
先日カフェで待ち合わせ、コードネーム以外の名前を教えてもらった時にアドレスの交換もしていた。
彼女に会って話がしたい。そう思った安室は
「近々会いませんか?」と短いメールを送った。
しばらくすると返信が来た。
「いいですよ。今日は夕方5時過ぎには仕事が終わります。その後どうですか?」
さくらからのメールに気をよくした安室は
「それでは、6時にこの前のカフェで」そう返信した。
その日の夕方6時———
6二人はカフェで落ち合う。
「こんにちは。先日はお疲れ様でした」
月並みの挨拶を交わす。
「今日はどうしたんですか?」
突然のメールにさくらは少し驚いたようだ。
「あなたと組んだ初の仕事が随分上手くいったので、祝杯をと思いまして。おかげでNOCの疑いも晴れそうです」
「なるほど。それは良かった。私もあんなに上手くいくとは思いませんでした」
さくらは笑顔で答える。
「それも全てさくらさんのおかげです。今日は僕のおごりでご飯でもどうですか?」
そう提案するとさくらは少しだけ困った顔をした。
「とても魅力的なお誘いですが…最近暑くなってきたせいか食欲がないんです。こんな私でも食べられるもの、ありますか?」
ベルモットから彼女の食欲不振を聞いていたので、彼女が食べられそうなものをリサーチ済だ。
「大丈夫ですよ。お任せ下さい」
数十分後。二人は都内の料亭にいた。
店の人には、のどごしの良い体に優しいものを事前にお願いしておいた。
「こんな高そうなお店、良かったんですか?」
謙遜顔のさくらを見て安室はクスクスと笑う。
「さくらさんが心配しなくて大丈夫ですよ」
こんなところも組織の構成員とは思えない態度だ、と安室は思う。
金庫の鍵を短時間で開けたり、ハッキングに気づいたり、通気口への出入りをする身のこなしを知らなければ極々普通の優しい女性だ。
なぜこんな女性が黒の組織に身を置いているのだろう。ますます彼女のことが知りたくなる。
「さくらさん、さっきメールで仕事とありましたけど、お仕事は何をされているのですか?」
まずは当たり障りのない質問をしてみた。
「東都大学の理学部、森教授の助手をしているんです。森教授の奥様が経営する塾の講師も週2回やってるんですよ」
「なかなかお堅いお仕事ですね。」
「もともと興味があった分野だったので。安室さんだってポアロでバイトされてますけど、お料理に興味あったでしょ?」
「まあ、確かに」
「体調が良くなったら、ポアロのハムサンドを食べてみたいです」
と言われれば、悪い気はしなかった。
板前さんが作ってくれた料理は、見た目もそしてのど越しも良く、さくらは時間をかけてはいたが食べることができた。
結局、二人は美味しいものを頂きながら、他愛もない会話をして笑ったり驚いたりして過ごした。
帰り際、「ベルモットから何か聞いたでしょ? 気を使ってくれてありがとう」とさくらは安室に伝えた。
「ベルモットに言われた…というのもありますが、今日は単純にあなたと食事がしたかっただけです」
少しだけ本心を伝える。
さくらは一瞬驚いた顔をしたが、
「ありがとうございます」と笑顔で答えた。
今日は安室に気を使って一生懸命食事をしていた。だが、先日よりもやつれている感じは否めない。
しばらく彼女の様子を見たほうがいいな…。
安室はさくらの後ろ姿を見送りながら、そう思った。