第1章 ~運命の再会そして…~
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点滴を終え工藤邸に帰ってきた。
朝早く出かけたので、時刻は午前10時を過ぎたところだ。
りおは車の中でもぼんやりしていた。家に着くとソファーに倒れこむ。
「疲れましたか?」
ジャケットをハンガーにかけながら、昴はりおに声をかける。
「ううん。ただ…」
「ただ…どうしました?」
昴は心配そうな顔でソファーに近づく。
「何でもない」
りおは少し頬を赤くして顔を背けた。
「隠し事はしない約束ですよ」
昴はソファーの後ろからりおの肩に片手を置く。しばらく黙っていたが、りおは恥ずかしそうに「秀一さん不足です…」とつぶやいた。
そういえば、ここ数日秀一の姿では会っていなかった。朝も変装してから「おはよう」と挨拶していたし、夜はりおが部屋に入ってから入浴していた。
「随分可愛らしい事を言ってくれますね。でも今は沖矢昴なので妬けますね」
軽口を叩きながら、昴はりおの隣に腰を下ろし抱きしめた。
「私では役不足ですか?」
わざと寂しげな顔をして、りおの顔を覗き込んだ。
そんな顔を見せられれば、自分がすごくわがままを言っているみたいでなんだか悔しい。りおは出来るだけ表情を変えずに昴の背中に手を回した。
「今はこれで我慢しておきます」
「『これ』ってひどいですね」
昴はクスクス笑いながら、そっと頭を撫でてやる。
「…温かい…」
りおは小さくつぶやいて、タバコの香りが僅かにする昴の胸に顔を寄せる。そのまま眠ってしまった。
次に目を覚ますと、ソファーで昴といわゆるお昼寝をしている状態だった。
そっと動いたつもりだったが、その気配に昴も目を覚ます。
「スミマセン。いつの間にか私も眠ってしまいました」
昴はメガネを外し、目をこする。
「少しは充電できました?」
再びメガネをかけた昴が声をかけた。
「はい」
満面の笑みで答えると、
「沖矢昴でも良いのか…。ちょっと複雑だ」
アゴに手を当ててボソリと赤井の声でつぶやいた。
りおは盛大にふいてしまった。
(ああ、りおは笑った顔が可愛いな)
口に出すと照れてその笑顔が見られなくなると思い、昴は黙って微笑んだ。
「少しでも食べてくださいね」
昴が昼食に雑炊を作ってくれた。なんとか1人前を食べ切る。
「いい子ですね」
昴はニコニコ顔で頭を撫でてきた。完全に子ども扱いだ。りおは納得いかずプクッと膨れてみたが、「それ、可愛いので他でやらないように」といわれて逆効果だった。
洗い物を手伝い食器を片付けていると、来客のチャイムが鳴る。
「ちょっと早かったですかね」
玄関の前に新出先生が立っていた。
「午前中よりずいぶん顔色が良くなりましたね。昼食も取れたようで良かった」
新出は安心したように微笑むと聴診器を取り出す。胸の音を
聞いて「ん!問題ないね」とさらに笑顔を向けた。
「じゃあ、始めようか」
新出先生はボイスレコーダーをテーブルに置いた。
「今日はスコッチという人の事ではなく、もう一つ。君の中で影を落としている事について話してください」
「ッ!」
昴がわずかに反応する。さくらは深呼吸をすると「はい」といって目を閉じた。
「私はパソコンの前で何かを調べています。ドアのノックが聞こえて、『どうぞ』と声をかけます。『入るぞ』という声が聞こえます」
『入ってきたのは誰ですか?』
「ジンという男です。彼からCD-Rを渡されます。『お前も見ておけ。裏切り者の顛末を』」
『今の気持ちは?』
「…。胸が…ざわざわします」
さくらの手が自分の胸元を押さえ、わずかに震えている。再びさくらは深呼吸をする。
『続けられますか?』
「はい。大丈夫です」
昴の拳も膝の上で強く握られている。
「ジンは部屋を出ていきます。私はCD-Rをパソコンにセットします。プレーヤーが立ち上がって………」
『さくらさん? 大丈夫ですか?』
「……は、はい」
『続けられますか?』
「……はい…」
『プレーヤーが立ち上がってどうしました?』
「ふぅ……ふぅ……」
呼吸が荒くなり、さくらの口から言葉が出てこない。一度大きく深呼吸をすると、やがて意を決したように声を絞り出す。
「トラックを…クリックしてッ…再生…します。パソコンの画面に男の人が…映ります…」
『知っている人ですか?』
「はい。よく知っている人です。女の人の声がします。はぁ……はぁ……女性の声がして…ッ」
突然涙声になる。
「銃声が!!!」
抑えきれなくなった感情が弾けた。ソファーからずるりと崩れ落ち、へたり込んだ。
「いやあぁ! 聞きたくない! 聞きたくない!!」
両耳を押さえ、頭を振って泣き叫んだ。
「さくら! さくら! 落ち着いて!」
昴が両肩に触れ、落ち着くように声をかける。だがその声はさくらに届いていないようだ。
取り乱すさくらの様子に、新出も辛い表情を見せる。見守ることしかできない。その時だった。
『俺はここにいる』
突然さくらの耳に赤井の声が聞こえた。昴がチョーカーの電源を切って話しかけたのだ。
さくらの動きが止まる。
「ライ…」
そうつぶやくと、さくらの体の力が一気に抜けた。昴はその体をしっかりと抱きとめた。
新出が昴に声をかける。
「やはりあなたは彼女の話の中に登場していたんですね。聞かなかったことにします。事情がおありでしょうから」
「ありがとうございます」
否定も肯定もしないが、聞かなかったことにすると言ってくれたことに感謝を伝える。
「この男性も…亡くなったのですか?」
新出は静かに問いかけた。昴は少し間をおいて「ええ」と答える。昴の答えを聞いて新出は小さくため息をついた。
「さくらさんは、心を許した大切な人の死を何度も目撃してしまったのですね。だから……脅かすわけではないのですが…」
新出はそこまで言うと一度言葉を区切る。まっすぐ昴の顔を見つめた。