第1章 ~運命の再会そして…~
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今回はエンジェルダスト生成レポートの所在を明らかにすること。そしてその内容を完全に消去することが最終的な目的だ。
博士と哀にも話に参加してもらう。
「秘密の漏洩を恐れてコピーは絶対しないはず」
と哀は言う。
「組織が長い年月とお金を使って作ったのだから、その生成レポートは門外不出のはずよ。コピーなんて作るはずが無いし、ギムレットも交渉のカードとして簡単に渡すはずがない」
ではそのたった一つしかないレポートは一体今どこに?
昴の問いかけに皆頭をひねる。
「ギムレットが自分で隠したかサカモトケンジが奪ったか。どちらか…ね」
さくらはやや険しい顔をしている。
ギムレットが自ら隠したとなれば、本人が死亡しているため探すのは困難を極めるからだ。
まずはサカモトケンジが奪った線で調査をすることになる。
もし、彼がレポートを奪ったと仮定するならば…。
大事なものは絶対に手放さない。彼の近くに必ずレポートがあるはずだ。最近の彼の行動を探り、目星を付ける必要がある。
「お願いするまでもなさそうですね」
昴がさくらを見る。
「ええ」
さくらは微笑んだ。
「たぶん、もう調べていると思います。近いうちに連絡が来ると思いますよ。降谷さんから」
昨日、降谷零にはサカモト製薬の裏の顔を調べるよう依頼した。当然サカモトケンジの行動確認も行われるはずだ。彼は日本警察の威信にかけて調べ尽くすといっていた。選りすぐりの精鋭たちが彼にピッタリ張り付くだろう。
さくらは先ほど調べた資料をテーブルに広げる。
サカモト製薬の拠点を調べると、日本と主に東南アジアだ。近年では急速に力を付け、近々アメリカへの進出も検討されていることを説明した。
「東南アジアで作った麻薬を、ゆくゆくはアメリカで売りさばくというわけか」
サカモト製薬ではエンジェルダストの他にも、普通の麻薬や違法ドラッグを製造している疑いがある。それらをアメリカで売りさばき、莫大な利益を得ようと画策しているようだ。
日本には都内の本社ビルの他に神奈川に支社がある。自宅を含め、これらのどこかにサカモトケンジ自身が活動の拠点にしている場所があるはずだ。
エンジェルダストの生産に関わる指示は全て彼が行い、ごく一部の者を除いて生産や品質管理に関わっている者は、自分達が何を作っているのか知らないだろう。
これについては昴も同意見だ。
さくらはため息をつく。
(命を救う薬を作っているという責任の下で、関わっている者がいるとしたら…)
やるせない気持ちになった。
降谷からの情報を待って、作戦を練ることになり、昴とりおは工藤邸に戻った。
「朝食できていますよ」
ふたりはダイニングへと入る。
味噌汁はコンロに火をつけて温め、おかずも軽くレンジで温め直す。炊き上がって保温になっていたご飯をよそい、「いただきます」といって二人で食べ始めた。
「美味しいですよ」
微笑んでりおは昴の作った朝食を食べた。
「お口に合って良かったです」
昴はホッとしたような笑顔を見せる。
味噌汁の出汁の取り方はりおに教わった。甘い厚焼き玉子も少し不格好だが、りおが教えてくれた通りに作った。味は…りおには敵わないけれど…。
魚の焼き方も野菜の浅漬けも、教えてくれたのは全部りおだ。
自分も彼女も危険に身を置く立場。こんな普通のことを、後どれくらい続けることが出来るのだろう…。
昴はふと不安にかられた。
食事のあと洗濯などを済ませると、りおはもう少し調べたいからといって博士の家へ行ってしまった。哀はコナンたちと学校へ登校したようだ。
昴はジョディに電話をかけ、現在FBIが調べていることの進捗状況を聞く。
比較的大きな工場はすぐに分かったが、現地では闇で存在する小さな工場もあるため、すべてを調べるにはまだ時間がかかりそうだという。気持ちは急くが、なかなか思うようには事が進まない。昴はため息をついた。
りおが阿笠邸へ行ってしばらくすると、今度は阿笠博士が工藤邸にやってきた。
「博士どうしたんですか?」
昴はコーヒーを入れながら訊ねた。
「わしからこんな事を言うのもなんじゃが…」
博士はしばらく間を置き、コーヒーを一口すすると、重い口を開いた。
「本当にさくら君をサカモト製薬に送り込むのかの?」
「まだそうと決まったわけではありません。サカモトケンジがレポートを持っているのかも、現状では分かっていませんから…。ただレポートの所在が分かれば、おそらく潜入は彼女がやるでしょう」
「そうか…。哀くんはああ言ってはいるが、わしはもう少し心の治療を進めてからの方がいいと思っておる。そして新出先生も同意見じゃ」
「新出先生も?」
新出の名まで出てきたため、昴の語気が少し強くなる。
「発作の頻度も極端に減ったわけではないし、むしろ彼女の頭痛薬の服用は以前より増えておるんよ」
「え?」
「昴くんが心配するから黙っていてくれと言われておってな」
最近は発作を起こしても意識を失うことが少なくなってきていた。てっきり良くなってきていると思っていた。
「それは…」
途中まで言いかけて博士が口ごもる。
「まだ何か隠していますね?」
昴が博士にグリーンの目を向けた。
「うう…実は…。さくらくんは最近、精神安定剤を服用しておる。極々少量じゃが…」
その言葉に昴は正直驚いた。
「安定剤を…?」
「もちろん血を見ても発作を回避できるようになったのもの事実じゃ。そういう意味では良くなってきておる。
じゃが時間が足りないんじゃ。さくらくんの心の傷を癒す時間が。例えるなら、彼女の心はまだ止血を終えたばかりの状態。癒えたわけではない。ちょっと刺激が加われば、容易く大出血を起こすことだって有り得るんじゃ。
体調が整わないのもそのせいじゃろう」
昴は唇を噛む。それは昴も感じていた。何年もトラウマを抱えてきたのだ。そう簡単に癒えるはずはないと。
「哀くんもそれを知ってて、今朝は必死で止めたんじゃよ。このまま戦い続ければ、心が壊れてしまうと。それはさくらくんも承知していた。それでも。『私は私の大切な者のために…そういってきかなかった。
哀くんは泣いておったよ。何が彼女のためになるか…。哀くんは悩んだ末に、さくらくんのやりたいようにやらせようと決めたようじゃが…。
わしらは……どうしたら良いんじゃろうか…」
「あのバカッ!」
昴は爪が手のひらに食い込むほど、強く拳を握り締めた。